”撒き餌”の異名を持つレンズ
「このレンズがあるからキャノンを買った。」
「このレンズのせいでレンズ沼にどっぷりハマった。。」
など数々の善良な市民をカメラ界のダークサイドに引き込んだレンズ、それが今回ご紹介するCanon EF 50mm F1.8 II です。
*このレンズの後継となるEF50mm F1.8 STMが発売されました。コーティングやAF機構は刷新されていますが、レンズ構成(光学系)は変わらないことからこのレビューも多少は参考になると思います^^
実売1万円以下の破格レンズ
写真を趣味として始めた時、一番のカルチャーショックを受けるのは交換レンズのお値段じゃないでしょうか。私はそうでした(笑)
大枚叩いて一眼レフのレンズキットを買って、さて交換レンズも買ってみようかな。。と思って値段を見たら初心者向けのレンズでさえ1本2~3万円が最低ライン。これはとんでもない所に足を踏み込んでしまったな。。と思った記憶があります。
そんな、各社最低でも2~3万円、10万クラスだって驚くほどの価格ではない交換レンズの世界の中で一際輝いて、一般市民のカメラライフを一隅で照らし続けるのがEF 50mmF1.8 II。メーカー純正でありながら新品でも一万円を切るという破格のお値段。しかもいわゆる標準レンズと言われる使いやすい50mmです(APS-Cセンサーのカメラでは約75mm)。
*25年ぶりに後継となるEF50mm F1.8 STMが発売されました!
コーティングやAF機構は刷新されていますが、レンズ構成(光学系)は変わりません。どっちを選ぶ?
その安さと手頃さゆえ、うっかりこのレンズに手を出してしまい、開放F1.8の軟らかなボケを体感してしまった人々は、何かに取り憑かれたようにもっと良いレンズが気になってしょうがなくなってしまうのです。これが”撒き餌レンズ”と言われる由来です。
今回はそんなあざとすぎるレンズ、Canon EF 50mm F1.8 II のレビューと、桜と菜の花が美しかった浜離宮恩賜庭園でのスナップの作例紹介をしてみます!
まんまとキヤノンに釣り上げられたくない方はそのまま引き返した方が無難かもしれません(笑)
EF 50mmF1.8IIの主な特徴
始めに告白すると、今回私は初めてこのEF 50mm F1.8 IIを買いました。そう、ここまでキヤノンの罠にはハマらずにきたのです。
これまでに人から借りて少し撮ってみて、おっ?結構良くない?と心揺れたことは何度もありましたが、硬い意思を貫いて来たわけです(笑)というのも私は個人的に単焦点よりもズームレンズ派で、さらに、割と合理主義者なので仕事に使えないレンズは後回し。。といった感じでここまで買わないできたから。
ところが、仕事で疲れたある晩、ボーッとAmazonを眺めていたらなんとなくポチってしまったのが今回のレビューのきっかけとなります^^;
開放とか焦点距離といった言葉が分からない方はこちらのリンクもオススメです。
- レンズ選びで失敗しないための、カタログの読み方!13のポイント!!
1990年発売のベストセラー
EF 50mmF1.8IIの発売はなんと今から25年前の1990年12月。キヤノンのデジタル一眼EOSの黎明期から変わらず発売されているベストセラーです。25年経った今でもAmazonの交換レンズランキングは1位というとんでもないレンズ。
フルサイズ対応の単焦点レンズで(一般に)最も基本とされる50mmの焦点距離で開放F1.8のレンズです。キットレンズの50mmの焦点距離域はだいたいF4~5くらいですから2段以上明るく、キットレンズよりも強烈なボケが得られるのが大きな特徴。
軽くてスナップが楽しくなる!
また、光学系は5群6枚のシンプルな構成(ガウスタイプ)で、鏡筒もプラスチックを使用しているため重さはなんと130g。フルサイズ用レンズとしては異次元の軽さです。マイクロフォーサーズのレンズと同じかそれよりも軽いくらい。キヤノンの他のレンズと比較するならEF40mm F2.8 STM (非常に薄くパンケーキレンズと言われる)が同じ130gです。
フルサイズのボディに付けると、付けている事すら忘れるくらい軽いレンズです。
入門機でもファインダーが明るい
また、意外と忘れがちなのが、キットレンズに比べてファインダーが明るくなるのも特徴。一眼レフのファインダーから見える画面はカメラの設定にかかわらず、そのレンズの一番絞りを開いた状態(開放)の世界が見えています。
例えば、開放F1.8と開放F3.5のレンズ(キットレンズに多い)を比べるとその差は2段。ファインダーの中にはキットレンズの4倍も光が入ってくるためとても明るくピントが合っている事が分かりやすくなります。「あぁ、今まさに光を見ているのだなぁ」という感じさえしてきます。
入門機のファインダーは一般に上級機よりも暗く見づらいですが、開放F値の小さなレンズを付けるととても見やすくなります。
”段”って何それ??という方は下記のエントリーがおすすめです。
悪い点はどこ?
いろいろ良い点を並べてみましたが、安いと言うにはそれなりの理由があります。
誤解を恐れずに一言でいえば、「画質が悪い」ことです。
最近のレンズの光学性能の進化は著しく、入門用のレンズでさえ特殊ガラスや非球面ガラス、特殊コーティングなどが施されており、目を見張るものがあります。
一方このレンズは25年も前からの設計で、特殊ガラスなどは一切使われていません。
開放(F1.8)付近で撮れば、全体的にモヤッとしたゆるーい描写になるし、色はにじむし、周辺減光や各種収差もたっぷり出ます。コントラストや色乗りも最新のレンズに比べればイマイチです。逆光だと強烈なフレアやゴーストも出ます。
*F5.6~11くらいまで絞れば普通のレンズと変わらないくらいびっくりするくらいシャープに写ります。
↑たとえば、開放で撮ると周辺部がグルグルと回るような渦巻き状の特殊なボケが出てきます。非点収差による影響。これが好きって人も多いです。絞って撮れば改善します。
↑晴れた日にど逆光で撮ると盛大にフレアが出ます。最近のレンズはフレアを入れたくてもここまで入れる事は難しいです。
”レンズの味”を楽しむレンズ
でも、こういう柔らかくて、レンズの収差が感じられて、浅めのコントラストや色で写る写真って、最近のレンズじゃ絶対撮れないんですよ。みんな優秀なので。
結局の所、このレンズが多くの人に愛されているのは、今のレンズじゃとても撮る事の出来ない”レンズの味”を思う存分味わえる所だと思うんです。
この、”レンズの味”をポジティブなものとして許容できるかどうかが、このレンズを使う上で非常に重要。実際にじっくり使ってみて、こんな楽しいレンズが1万円以内で買えちゃうの??って思いました。
また、オートフォーカス(AF)対応になっていますが、レンズの先端がジリジリ回るタイプで決して早くはないです。ファインダーの中が明るく見えるレンズなので中級者以上の人ならマニュアルフォーカス(MF)の練習用に使ってみるのも良いかも知れません。個人的にはMF時のフォーカスリングのあの軽めのトルクはとても好みです。
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と、最近の優等生レンズにはないクセのあるEF 50mmF1.8IIの実際についてこれからレビューしてみます。まずは外観から。
外観や他のレンズとのサイズ比較
小さなレンズだけあって箱も小さいです。最近は大きなレンズばかり使ってたので届いたときに小さっ!って思いました。10センチくらいのさいころ状の箱に入ってきます。
レンズフードは入っていないので必要な方は別途購入すると良いです。対応するフードはES-62。
普通はフード付けるのをオススメしているのですが、このレンズに限ってはフードを付ける事さえ余計なことに思えてきますw
普段キットのズームレンズを使っていると、レンズ内の光の通り道って小さいなぁと思っている人もいるかも知れませんが、このレンズはF1.8だけあってとても”レンズっぽい”です。レンズの穴がよく分かります。
前玉は普通のレンズと変わらない感じ。フィルター径は52mmで手頃な価格帯のフィルターがいろいろ選べるはず。
後玉は単焦点だけあって大きいです。キットのズームレンズから初めて単焦点を使った時、おぉ、レンズがデカい!と思ったなぁ。
マウントはプラスチック製のため剛性は高くないですが、そもそも軽いレンズなので(負荷がかからないので)プラスチックでも十分じゃないかと個人的には思います。
レンズ側面にはAF/MFの切り替えスイッチが付いているので、好きなときに切り替え可能。フルタイムマニュアルには非対応です。ある程度撮影になれてきたらぜひMFでのんびり撮って欲しいレンズ。
カメラや他のレンズとの大きさ比較
実際にカメラに付けたらどんな感じになるのか見てみましょう。フルサイズのEOS 5D MarkIIに付けてみました。隣にあるレンズは普段私がよく使っているズームレンズ、EF 24-105mm F4Lです。
EF 24-105mm F4Lの重さは670g、EOS 5D MarkIIの重さは810g。バッテリーなど合わせるといつものセットだと1.5kgになりますが、EF 50mmF1.8IIは130gなのでボディとレンズセットでも1kg切ります。
これだけ軽くなるとスナップが楽しくなります。
もう保護フィルターさえ付けなくてもいいんじゃない?といった感じですが、今回は一緒に買ってみました。安めのKenko MC PROTECTOR NEO。フィルター径は52mm。
浜離宮恩賜庭園での作例紹介
そんなEF 50mmF1.8IIを使って先日、浜離宮恩賜庭園でスナップしてきたので紹介してみます。
このところセカセカと写真を撮っていたなぁと反省してのんびりMFで撮影してきました。なんだかココロのリセットができたようで良かったなぁと。
撮影日は朝方まで原稿書いていたりと、なかなかハードだったのですが満開の桜が見れて晴れた日はこの日が最後じゃないかな?ということでむち打って出かけました。
向かったのは浜離宮恩賜庭園。新橋から汐留方面に歩いて10分くらいでしょうか。疲れてはいましたがレンズが軽いので自然と足取りも軽くなります。
使ったカメラは5D MarkIII(フルサイズ)でそのまま50mmの画角になります。
高層ビルに囲まれた海沿いの広々とした公園で都会のオアシス的な存在。この時期は桜と菜の花の共演が楽しめます。都会のオアシスといえば新宿御苑も有名ですが、こちらはそれよりもずっと空いていて静かです。
なお、入場には課金が必要です。1プレイ300円。
開放で撮るとこんな感じ。満開の桜が良い感じでぼけ、描写の甘さと相まってゆるーい感じになります。周辺光量落ちも大きいですが、個人的にはスナップは周辺光量落ちしている方が好み。
一応Lightroomで簡単な調整(明るさ、コントラストなど)を施したものもありますがほぼカメラで撮ったままな感じ。レンズ補正もかけてません。周辺減光や歪曲収差などは残ったままの写真です。
最近のレンズで普通に撮ってここまで色が薄めでコントラストが低下してくるものは殆ど無いんじゃないかな。これがこのレンズの”味”です。
なお、特に断りがない限りすべて開放(F1.8)での作例です。
今回のスナップはココロのリセットも兼ねてすべてMFで撮ってます。キットレンズの明るさではファインダー内も暗いためマニュアルでピントを合わせづらいですが、単焦点ならピントの山もつかみやすくなります。
撮る事自体を楽しめる、そんなレンズ。
F2.0以下の世界はピントが合っている範囲(被写界深度)が浅くなるため、日常でボーッと景色を眺めているような、フワフワした世界になりますね。
快晴の空を開放でちょっとオーバー目に撮ると周辺減光によって周囲の青空が濃くなり、美しいグラデーションも楽しめます。
コントラストが低く出るのでこんな光と影の場面では黒が浮きがちです。そんなときはカメラ側でコントラストを高めに調節するか、現像時にシャドウのレベルを落としてあげると黒が締まります。
前ボケもさりげなく、柔らかく入ります。この写真は木の幹の部分を締めるためにLightroomで黒レベルを結構大きめに下げてます。
開放付近ではとても甘い写りをするレンズですが、F5.6以上に絞ると別のレンズに変わったかの様に、シャープな写りをします。絞る事によりレンズの有効口径が小さくなり、各種収差が軽減されたからでしょう(軽減されない収差もある)。
絞りすぎても小絞りボケが出てくるので、このレンズのスイートスポットはF5.6~11くらいの間かなと思います。
↑この写真はF5.6で撮ってます(ちょっとわかりにくいですが。。)
春の浜離宮といえば桜と菜の花。手前の菜の花畑が柔らかくボケました。
さすがに人がいっぱい写ってしまったのでLightroomで何人か消してます。。^^; どこを消したか分かるかな?
- (参考)ここまで出来る!!魔法の現像ソフト Lightroomのスゴイ使い方10選!
青空バックで青と黄色のコントラストを。これはF2.8。
順光方向の青空は周辺光量落ちと相まって、目の覚めるような青空になりました。彩度とかいじってないです。PLフィルターも不使用。(風景モードで撮影)
一面の菜の花畑をグルりと流してみたり。
ど逆光で撮影するとまるで環水平アークかのような盛大なフレアが出ることがあります。お高いレンズでこんなのが出たら怒っちゃいますが、このレンズなら許せるんです。というか、良い位置にフレアが入るように何度も撮り直ししたくらいw
とりあえず、なんか良い雰囲気で撮れちゃうんです。
これも影を強めるために現像時にシャドウ側のコントラストを強めてます。
普段はズームレンズばかり使う私ですが、こういう空気感や雰囲気を切り取るのはやっぱり単焦点には敵わないなぁと思う今日この頃。単なる思い込みかもしれませんが、そう思わせてくれるんですよね。単焦点って。
もちろん様々な制約を受け入れてこそな訳ですが。
太陽が良い位置にくるまでしばらく待ちました。こちらは思い切り絞り込んでF22。このレンズの絞り羽は5枚なので、絞った際の光条(光芒)は10本出ます。長いの5本に短いの5本。
さすがにF22までくると小絞りボケの影響が出てくるので特殊用途ではありますが。
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1時間くらいプラっと撮るはずが、気づいてみたら昼過ぎからビルの中に日が沈むまで2時間以上、700枚近くシャッターを押してました。
久しぶりにのんびりスナップできたなぁといった感じ。すっかりココロのリセットができました。
まとめ
ということで、キヤノンの安いけど危険なレンズ、EF 50mmF1.8 IIを紹介してみました。
作例を見たら分かるように、全体的にユルめでクセのある描写をするわけですが、ここさえ受け入れてしまえばもの凄いコストパフォーマンスのスナップ向きレンズです。
特にフルサイズユーザーなら一本おもちゃ代わりに持っていても良いくらい。50mmはあらゆる場面で活用できます。
APS-Cサイズのセンサーのカメラの人は約75mm相当の中望遠レンズとなりますが、気になった所をスパスパと切り取ることができるので、スナップ用途には使いやすいはず。ただし、家の中だとちょっとちょっと長いかなぁとは思います。
また、レンズ特有の収差や周辺減光がよく見えるので、レンズの特性を理解したい人はこれを使うと良い勉強になりますね!
キヤノンユーザーはこのレンズが使える事がとても幸せな事だと思います。
ただし、このレンズを使う上で注意しなければいけないのは、キヤノンの思惑どおりレンズ沼にハマってしまわない事(笑)
より低いF値を求めて大口径レンズを集めたり、よりレンズの味を求めてオールドレンズの世界に入ったり、こちら側の世界に戻って来る事ができなくなった人はたくさんいますので、それだけはどうぞご注意を。。