明日HDDが壊れても慌てないデータ管理をしよう
デジタルデータはHDDやSSDなど、ストレージの故障によってある日突然すべてのデータが失われてしまう可能性があるとても脆いデータです。子供が生まれてから数年間撮り溜めてきた大事な写真データがHDD故障ですべて飛んでしまった・・・というような笑えない話も毎年どこかで耳にします。
また、機器は正常なのに人間のうっかりミスですべてのデータを飛ばしてしまうというような事故も後が絶えません。「○○データセンターで消失事故」というようなニュースをちょくちょく目にしますよね。
写真や動画に限らずすべてのデジタルデータを保存するときには「データはある日突然消えるもの」ということを前提にした運用が大事です。そこで今回はQNAPのエントリーNAS TS-230を使って大事なデータを安全かつ簡単に守るバックアップ戦略について紹介していきます!
NASはデータの冗長性があるからそれだけで安全!と考えているだけではいつか痛い目に遭うかも知れません。NASだからこそできる便利なバックアップ機能を駆使しながら安全なデータ保管環境を作って行きましょう!今回の内容はQNAPの他のNASをお使いの人でも使える内容ですよ。
*この記事はQNAPさん提供です
大事なデータが失われる3つのシーン
大事なデータが失われてしまうシーンとして真っ先に思いつくのはHDDの故障ですよね。昔からパソコンを触ってきた人ならHDDが故障してある日突然データが読み出せなくなった・・・という経験をした人も多いでしょう。私も何度も経験したことがあります。でもデータが失われるシーンってこれだけではないんですよね。
まずはどんなことをしたらデータがまるごと失われるかを確認しておきましょう。これが分かれば原因に応じた対策をすることが出来ます。
データが飛ぶ主な原因たち
データを飛ばしてしまうシーンはいろいろありますが普通の人が遭遇しそうな主な原因を挙げてみます。TS-230を使えばこれらの原因に対して簡単に有効な手を打つことが出来ます(具体的なやり方は後述)。
1.HDDやSSDの故障
これは良いでしょう。機械は長期間使っていればいずれ壊れます。故障するのは運要素が大きいのでデータを多重化して保管しておくのが大事ですね。
つまりバックアップしましょうということです。RAID1やRAID5のNASを使うのも有効。
2.設定のうっかりミス
パソコンやNASの設定をいろいろいじっているウチに自分のミスでうっかりデータを消してしまう設定にしてしまうというやつ。非日常作業を行うときはどんなに注意してもミスがつきものです。
この場合、RAIDはあまり効果がありません。別の場所へのバックアップはここでも有効。スナップショットという技術を使うのもアリですね。
3.火災、洪水、津波といった災害
日本は災害大国です。毎年どこかで洪水の被害が起きていますし、どこに住んでいても大きな震災に遇う可能性は低くないでしょう。火災の発生件数は全国で37,683 件(令和元年)だそうです。宝くじに当たるよりずっと高い確率です。
このような災害は家や事務所ごとダメージを受けるので、普通のバックアップではバックアップもろともデータが飛ぶ可能性が高いです。遠隔地へのバックアップが必要ですね。
4.ランサムウェアによる被害
最近増えてきているのがランサムウェアというコンピューターウイルスの一種によってデータが暗号化され元に戻せなくなるという被害。この場合、パソコンに常時繋がっているHDDにバックアップしているとそのバックアップデータも暗号化されてしまうという事があります。
私はまだ経験がないのですが、この場合はパソコンやNASから離れた場所にバックアップやスナップショットをとっておくことが有効なようです。
5.雷や停電による過電流
夏によくあるのが雷によるサージ電流で家電製品が破壊されてしまうという被害。これもデータ書き込み中に被害を受けると運が悪いとデータが読み出せなくなる事があります。パソコンやNAS本体がダメになるということもあるでしょう。ブレーカー落ちなどの停電でも障害が起こることがあるようです。
この場合はUPS(無停電装置)という装置を使うのが効果的。もちろんバックアップも有効ですが同じコンセントに繋いだ機器全体が被害に遭う場合も考えられますね。
6.ソフトウェアのバグやクラウドストレージでのデータ消失
確率はとても低いですが、ソフトウェアに重大なバグがあり正しく使っていたのにデータが消えたとか、クラウド側のミスでデータが飛んでしまったという自分一人ではどうしようもない事故も十分考えられます。RAIDの場合もデータを振り分けるコントローラーがおかしくなって整合性がとれなくなるという事故もあります。
アプリの開発企業やクラウド運営者に文句を言っても失われたデータは返ってきません。この場合もバックアップを持っておくことが大事です。
データ管理はHDDの故障だけ考えれば良いというわけではない
ざっと思いついたものを挙げてみましたが、データが無くな要因は様々ありそれに対する対策も変わっています。
データを丸ごとコピーするバックアップはどんなシーンでも有効ですが、フルバックアップは取得に大きなコスト(お金と時間)がかかりますし、大規模になるほど復旧も大変。いくつかの対策をうまく組み合わせながら万が一の状態に備えていきたいものです。
ここからはTS-230でも実現する効率の良いバックアップ戦略についてご紹介していきましょう。手軽にできるものから紹介してきますね。
スナップショットでいつでも過去に戻れる
QNAPのNASはエントリーモデルのTS-230でもスナップショットを撮れることがメリットです。というかQNAPのNASは現行のすべてのモデルでスナップショットに対応しています。これはすごいこと。
他社のNASだとエントリー機では使えなかったり、結構難しい設定をしないといけないようなのでありがたい機能ですね。私の手元にあるSynologyのDS220j(TS-230と同じエントリー機)ではスナップショットは使えません。
スナップショットとはNASのある時点での状態を記録する機能で、「元データはそのまま残しておいて、(別の場所に)元データからの差分」だけを記録するため必要な容量が少なく復元もめちゃ速いという特性があります。
QNAPのスナップショットは前回の記事で設定したボリュームとは別の独立した「余った部分」に記録されるので、ランサムウェアによる被害を受けにくいというメリットもあります。ボリューム設定でシックボリュームやシンボリュームを選択していれば、追加ディスクなしで手軽に作成出来るのでQNAPユーザーはとりあえず設定しておいても損は無いでしょう。ランサムウェアはセキュリティ対策をしっかりしているであろう有名な大企業ですら被害に遭ってしまう厄介なものですので、これからNASを選ぶのであればスナップショット機能が搭載されているかどうかはチェックしておくと良いですね。
スナップショット設定は簡単
TS-230でスナップショットを撮る時はQTSデスクトップの「ストレージ&スナップショット」から設定します。左側のスナップショットに行って、「スナップショットを撮る」をクリックするだけでOK。スナップショット機能を使うとストレージの読み書き性能が低下するとのことですが、使っていて体感で遅くなったということはなかったです。
完了後ボリュームのアイコンをクリックするとスナップショットマネージャーが起動するのでスケジュール設定をしたり、復元操作をすることができます。
設定ではスナップショットの保存領域をあらかじめ確保しておくことも出来ます。
通常、スナップショットはストレージプールの中でボリュームに割り当てられていない余った部分に保管されていますので、特にシンボリューム*を使っている人はうっかりボリュームの容量を使いすぎるとスナップショット領域がなくなり、過去に戻れない。。という事態になることも(悪いランサムウェアが強制的にボリュームの容量を拡張してしまうこともあるかも)*前回記事参照
そんなときは最初から「保証されたスナップショット領域の有効化」をONにしておけば安心できますね。
スナップショット機能の詳しい手順はQNAP公式ページにもあるので参考にしてみてください。
スナップショットを別の場所に置くことも可能
ランサムウェアやうっかりミスに対して万全の対策を作るのであればスナップショットを物理的に離れた別の場所(他のNAS)に保管することも出来ます。「ストレージ&スナップショット」のスナップショットレプリカから設定可能。
TS-230とは別のNASがもう一台必要になるためコストはかかりますが、安全性はさらに高まります。企業のシステムなどに使われる高度な機能ですが、エントリー機でもこれが出来てしまうのはすごいですね。
スナップショットはバックアップの代用にはならない
とても便利なスナップショットですが、この機能は「元データとの差分」となるものだけを記録しているものですので、元データ(ボリュームにあるデータ)が完全になくなってしまった場合、スナップショットだけでデータを復元することはできません。
また、独立した場所に保存されるとはいえ、元データと同じHDD内に記録されているものなのでHDD故障などハード障害にも弱いです(別のNASに保存する設定も可能)。
つまり、スナップショットを撮っていればバックアップは不要というわけではないので注意しておきましょう。ゲームのセーブデータみたいなものだと思っておけば良いでしょうか。セーブデータだけ保存しておいても元のゲームデータがなければゲームはできないのに似ています。
QNAPのスナップショットはボリューム内をまるごと記録してくれるので、ちょっと失敗したから昨日の状態に戻したい!というようなシーンで有効になるのではと思います。フルバックアップから戻すにはかなり長時間かかりますが、スナップショットからの復元なら短時間で元に戻せます。
フルバックアップとスナップショットはお互い使い分けて運用するのがおすすめ。
パソコンのデータをバックアップする場合
スナップショットはNAS内のデータ保護の方法でしたが、人によってはメインデータはパソコンにあり、TS-230をバックアップ先に使いたいという人もいるかと思います。
そこでメインのデータがパソコン本体(またはパソコンに接続されたHDD)に置いてあり、NAS(TS-230)をバックアップストレージとして使う場合のバックアップ法を紹介します。
この場合、QNAPで使えるアプリは「Qsync」と「NetBak Replicator」です。今回は手軽で利便性が大きなQsyncを中心に説明してみます。ちなみにMacの場合はTimeMacineの保存先にTS-230を指定することも出来ますよ!
クラウドストレージと同じ使い心地のQsync
Qsyncは一言で言うとDropboxやGoogleドライブと同じようなやつです。パソコンの中にQsync用のフォルダを作っておくとそのフォルダに入っているデータはリアルタイムにNASと同期されるというものですね。
バックアップとか難しい事を意識せずに、普段通りパソコンで作業しておけば自動的にローカルデータとNASのデータが同期してくれるので安心です。NAS側にデータがあるということは、出先でパソコンで作業しているデータにスマホやタブレット、他のPCからアクセス出来るというメリットもあります。
Dropboxなどのクラウドストレージの場合、転送速度はインターネットの速度がボトルネックになりますがローカルのLANに繋がったNASとなら100MB/s近い速度でいつも安定して通信ができるのもポイント。クラウドなら2TBで月額1,000円ほどかかるランニングコストもNASならゼロ円*です。
*電気代やHDD故障時の入れ替え費用を除く
Qsyncの使い方
TS-230でQsyncを使う方法は以下の通りです。詳しくやるとめちゃ長くなるので要点を絞って紹介していきます。前回のボリューム設定と違って初心者でも直感的に設定出来るはず。アプリのUIも結構わかりやすく出来ています。
1.TS-230のホーム(home)フォルダを有効化する
下準備としてTS-230のホームフォルダを有効化しておきます。コントロールパネル > 権限設定 > ユーザー から「ホームフォルダ」をクリックして有効化。TS-230内に「home」という共有フォルダが出現します。ここがQsyncのデフォルト保存先になります(後で他の場所にすることもできる)。
共有フォルダって何?という人は前回の記事を参照してね。
ホームフォルダが有効化できたらQTS デスクトップにある「Qsync Central」のアイコンをクリック。初期状態でインストールされているはず。もしなければApp Centerで探しましょう。無料で使えます。準備完了となっているはずです。
2.パソコンにQsync用のPCクライアントをインストール
PCとNASを連携させるのでパソコン側にもQsync用のアプリをインストールします。Windows、Mac両方に対応しています。iOSやAndroidと同期させることもできるようです。
ここからはWindows10を使いながら紹介していきますが、Macでも同じような流れのはずです。Qsync Centralの下部、「Qsyncの使用を開始する」からWindows用のアプリ(Qsync Client)をダウンロードしてインストール。起動したらTS-230に接続しましょう。
続いて、同期するフォルダーを選択します。ユーザーフォルダーに「Qsync」フォルダーが作られます。後から他のフォルダーと連携させることも出来ます。
これで準備完了です。パソコンの「Qsync」フォルダーにデータを入れればNASの「home」フォルダーにデータ同期されます。逆も同じです。リアルタイムで同期されるので超便利。
ただし、TS-230の「home」フォルダー内にあるQsync用フォルダーは隠しフォルダーになっているようでFileStationからは見えない仕様になっています。独立した「Qsync」フォルダーがあるのでそこと同期されていることを確認してみましょう。
同期させたファイルはパソコンから共有リンクを作成して、第三者にダウンロードしてもらうこともできます。有効期限やパスワードも設定出来るのでギガファイル便みたいな使い方も出来ちゃいます。
3.別のフォルダーと同期させる
自分で作ったTS-230の共有フォルダーとパソコン内の任意のフォルダーを同期させたい場合もありますよね。その場合はTS-230のQsync Centralで共有フォルダーの権限をONにしておきましょう。例えば前回作った「MyPcture」をQsyncと同期させるなら事前にQsync Centralから権限を付与します。
続いてパソコン側のQsync ClientでMyPicture内のフォルダーとの同期を設定します。MyPicture内にすでに他のデータがある場合は必ず専用のフォルダをつくり、そこと同期させるのがポイント。
なお、Qsyncで同期出来るフォルダーは1つの共有フォルダーに対して1つなので、さらに3つめのペアを作りたい場合は別の共有フォルダーに権限を付与してからペアを作りましょう。
同期の仕方を間違えるとバックアップにならない可能性があるので注意
QsyncはパソコンとNASでデータを同期すると言いましたが、最新のQsync(Ver.5.0)では「容量節約モード」という機能があり、これをオンにしておくと片方にしかデータが存在しなくなる場合があるので注意が必要です。
上図の「ペアになっているフォルダーを表示し、編集する」にある右の緑で囲った編集ボタンをクリックすると容量節約モードの設定が出てきます。
容量節約モードというのはDropboxのスマートシンクやビジネス向けGoogleドライブのDrive File Streamのように実データはNAS(TS-230)にあり、パソコンなどローカル端末にはファイルがあたかも存在しているようにリンクだけ置いておき、必要に応じてNASから実データをダウンロードして使う機能です。
ノートPCなど内部ストレージが限られるPCで使う場合、端末内に実データを置かずに済むので大きなメリットがありますが、ローカル側には実データがない(バックアップにならない)という場合があるので注意です。
容量節約モードを使う場合はこの後紹介するNASの中身を別の場所にバックアップする方法と併用して使うのが安全です(個人的にこちらを推奨)。
「ローカルで利用可能オプション」はかなり便利だと思う
容量節約モードはすべてNASにデータを預けてしまうのではなく、必要に応じてローカル端末側にも実データを置いておく設定にすることもできます。個人的にGoogleドライブのDrive File Streamで同じような使い方をしているのですが、一度ローカル側に実データを置くと、後から戻す時に手動でクラウドに戻さないと容量が回復しないのでちょっと使いにくいんですよね。
出張時にオフライン作業する可能性に備えて必要なファイルを一旦ノートPC側にダウンロードしておいた場合、帰ってきたら手動で元に戻さないといけないのです。
Qsyncの容量節約モードでは同期設定を「ローカルで利用可能」にすると、Windows10(1909以降)のストレージセンサー機能を使って、最終アクセスから指定した日数が経ったら自動でローカルから削除してくれる機能がついています。(Macにも同様の機能あり)
この設定をしておけば放っておくだけでローカル端末のデータ容量管理が出来ちゃうので便利です。
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このような感じで、特定フォルダの中だけTS-230とデータ同期(バックアップ)したければQsyncが手軽で便利です。ただ、バージョン管理など本格的なバックアップはできないため、キチンとしたデータ保護をしたければ以下のNASデータを別の場所にバックアップというのを使う(併用する)のが良いかと思います。
NASのデータをバックアップしよう
NASを使い出すとパソコンのローカル側にはほとんどデータを置かず、撮ってきた写真データなど日常のデータをすべてNASの中にいれて使っちゃおうというようになると思います。共有フォルダをマウントしてしまえばNASも外付けHDDと同じように使えるから(前回記事参照)。
私は撮影してきた写真や動画のデータはすべてNASの中に入れて保存しています。私の全財産がNASに入っており、データを扱うときはNASを起点にして複数の端末からアクセスして使うイメージです。そうなると、大事なNAS内のデータを何が何でも安全に守っていかなければなりません。
そこでNAS内のデータを別の場所にもバックアップする必要が出てくるのです。
RAID1だけでは絶対安全ではない
TS-230を使うときは通常RAID1といって2本のHDDに同じデータを読み書きして使います。こうすれば片方のHDDが故障してももう片方のHDDが生きている限りデータは失われないのでかなり安全です。
でもどんなときでも絶対安全かといえばそれはノーです。1本のHDDが故障した時にHDDを差し替えて復旧するには時間がかかります。どんなに早くても数時間、替えのHDDをAmazonで買って・・・とやっていれば24時間以上かかってしまいますよね。この間に残り1本のHDDが死亡すればゲームオーバー。かなり確率は低いですが現実に起こりえます。
HDD故障だけによる消失は少ないけども。。
あくまで思考実験ですが、HDDが明日壊れる確率を1/3,000として、2台同時にHDDが壊れる確率を計算すると1年運用で約1/12,300となりす*。これだけ見ると個人ではまぁ当たらない確率かなとも思いますが、40,000人がRAID1で1年運用した場合は96%の確率で年間1人以上はデータを失うと言うレベルです。
*1台目が故障した後24時間で新しいHDDに交換完了する場合
» NASと外付けHDDはどっちが安全?最強の写真バックアップ環境について考えてみた! - studio9
HDD連続故障起因のデータ損失はそれほど気にしなくても良いかなという感じですが、冒頭に挙げたとおりデータを失うのは単純なHDD故障だけではありません。RAID1だけですべての事故に対応できるわけではないので確実にデータを守りたいならさらなるバックアップは必要なんですね。
Hybrid Backup Sync(HBS 3)でNASをバックアップしよう
そんなわけでNASのデータを別の場所にもバックアップしたい!というときに使えるのがQNAPの独自バックアップ支援アプリのHybrid Backup Sync(HBS 3)です。
Hybrid Backup Sync(以下HBS 3)はQNAPのNASにおけるバックアップの司令塔のような役割をしていて、TS-230内のデータをバックアップするならこれを使っておけば間違いないです。初めて使いましたが、導線も良く出来ていて結構使いやすく安心感があります。
様々なバックアップ(および復元)ができますが、一般ユーザーなら「NASから外付けHDDへのバックアップ」、「NASからクラウドストレージへのバックアップ」を覚えておけば十分でしょう。
NASから外付けHDDへバックアップするのがおすすめ
HBS 3を使うとNASから他のNASへのバックアップも出来るのですが、バックアップ用にもう一台NASを導入するのはコスト的に厳しいと感じる人も多いと思います。そこで便利なのが外付けHDDへのバックアップ。外付けHDDなら導入コストもずっと安くなりますよね。
外付けHDDを付ければ3700万年に1回
RAID1+外付けHDDで運用すればデータは3重となり、前述のHDDが明日壊れる確率1/3,000で計算すると明日HDD故障起因でデータ損失する確率は1日あたり1/13,502,250,375。先ほどと同じように40,000人が同じ運用をしても1年以内にデータを失う人が出るのは0.1%となります。(RAID1崩壊後、24時間以内に残りのHDDも壊れる場合)
計算があっているか怪しいですが、相当安全になるのは間違いありません。そして、なにより大きいのはNAS本体とは別にあるストレージにデータがあるということ。こうしておけばNAS本体側の設定ミスや異常による事故にも対応できるシーンが多くなります。これなら個人的には十分許容できるかなという感じ。
もちろんこれだけだと、火災や洪水による災害には対応できないのでクラウド等と併用して運用するのが良いかなと思います。
Hybrid Backup Sync(HBS 3)で外付けHDDにバックアップ
TS-230のデータを外付けHDDにバックアップする場合、初期設定さえしておけばスケジュールに沿って自動でバックアップしてくれます。NASと外付けHDD間のバックアップなのでパソコンの電源を落としていてもOKなのもポイントです。
大事なポイントだけ順番に紹介していきます。
TS-230に外付けHDDを接続して設定
まずはTS-230のUSBポートに外付けHDDを接続して、フォーマットしておきましょう。QTSデスクトップにある「ストレージ&スナップショット」の外部ストレージから行えます。
フォーマット形式は色々選べます。Windowsでも読みたいならNTFS、MacならHFS+、NASとの親和性を高くしたいならNAS本体と同じEXT4を選びましょう(ただしパソコンに繋いでもそのままでは読めない)。今回はNTFSでやってみましたがバックアップ後の外付けHDDをパソコンに繋いでもそのままデータが読めました。
WindowsとMacの両方に対応させたい場合はexFATを選ぶのも良いですが、こちらはライセンスが絡むのでQTSのライセンスセンターからexFATのライセンス($3.99)を購入しておく必要があります。買い切りライセンスです。
HBS 3でバックアップジョブを作成
HDDが用意出来たらHBS 3でバックアップジョブを作りましょう。HBS 3は初期状態ではインストールされていないと思うのでApp Centerから「HBS 3 Hybrid Backup Sync」を探してインストールしておきましょう。もちろん無料です。
続いてHBS 3の「バックアップ&復元」から新規ジョブを作成。ちなみに、HBS 3ではクラウドストレージにバックアップも作れます。画面ではAmazonDriveとバックアップするジョブも出ていますがこちらは一旦無視してください。
バックアップジョブを作成開始したらソースフォルダ(コピー元)を選択します。下図は自分で作った「MyPicture」のフォルダをバックアップする設定。複数選択してもOKです。下に見えている「外部デバイス」が接続した外付けHDDです。

ログインIDが「admin」ではなく、自分で決めたIDの場合は権限の関係で外付けHDDが正しく認識されないと思います。その場合はコントロールパネル > 共有フォルダー から外付けHDDの共有フォルダー権限を自分にも付与しておきましょう。
続いてバックアップ先の設定。色々選べますがNASに接続したHDDにバックアップするので「ローカルNAS」を選択します。別のNASにバックアップしたり、Amazon、Google、Microsoftなどクラウドにバックアップもできます。
ローカルNASを選んだら宛先フォルダー(コピー先)を外付けHDDにしておけばOK。あとはスケジュール(毎日3:00とか月、水、金とか)やバージョン管理(指定した分だけ好きなタイミングに戻れる)の設定をすればOKです。
フィルター設定して無視するファイルを指定することも出来ます。
これで完成。あとは放置しておくだけで勝手にバックアップをしてくれます。初回は今すぐバックアップしておくと良いでしょう。
災害対策用バックアップも作れる!
ここで紹介した日々のバックアップだと基本的に外付けHDDはTS-230に常時接続しておく必要があるため、火災や洪水には脆弱なままです。
理想はネットワークを通じてクラウドや遠隔地のNASに常時バックアップするのが良いですが、個人ユースだとちょっとハードルが高いと思います。もし個人レベルで災害対策するなら、もう一台災害対策用HDDを作り半年に1回とか年に1回、実家への帰省の時にでも「最後の砦HDD」を離れた場所に置かせてもらうのが最も低コストでおすすめ。全部の容量バックアップするのが厳しいなら絶対なくなっては困る最重要データだけ退避させておくのも効果的です。
直近数ヶ月のデータは失われる可能性はありますが、全消失は防げますし直近1年のデータだけクラウドへのバックアップを併用するといった使い方をすればコストも抑えられ、個人レベルでできる最強のバックアップ環境が作れるようになると思います。
クラウドと無料で自動同期する
HBS 3はGoogleドライブやOnedriveなど一般的なクラウドとも連携できます。基本的な方法は上で紹介した外付けHDDへバックアップと全く同じ。バックアップ先を外付けHDDにするか、自分の使っているクラウドにするかだけの違いです。
クラウドを選んでバックアップすればバージョン管理をしながら安全な遠隔地へのバックアップが可能です。
「同期」でファイルだけ共有もできる
上で紹介した「バックアップ&復元」はフォルダー単位でNAS→クラウドの一方通行でバックアップする思想の機能なので、クラウドにバックアップされたデータを他の誰かが編集するという使い方は想定されていません。
単純にNASにある写真をクラウドに送り、その写真を第三者が見る、使うということを考えるなら「同期」の方が余計なものが含まれずシンプルに管理出来ます。Qsyncのクラウド版みたいなイメージだと思っても良いかもしれません。
HBS 3の「同期」でジョブを作成
NAS(TS-230)のデータを主として、クラウドはバックアップ先として使いたいなら一方向同期ジョブがおすすめです。双方向にすると誤ってクラウドでデータを消してしまったときにNASのデータに影響が及ぶ可能性があるから。クラウドを起点にチーム作業をするなら双方向などを選びましょう。
同期タイプはミラーかコピーが良いです。ミラーならNASとクラウドのデータは全く同じ状態になります。NAS側でファイル名を変えたり別の場所に移動させてもクラウド側のデータが同じように書き換わります。ただし、NAS側でうっかり削除してしまった写真はクラウドでも消えます(多くのクラウドはクラウド側のゴミ箱に30日間程度保持されるけれど)。
コピーならNASでファイル名など変わってもクラウド側では新しいデータとして記録されます。旧データが残ってしまうという欠点はありますが、元データが無くなっていたということがなく安心です。
あとは、上でやった「バックアップ&復元」と同じようにソースフォルダーと宛先フォルダーを決めます。クラウド一覧にAmazonPhotosという項目はありませんが、Amazonドライブを選べばOKです。
クラウド側に空の専用フォルダを作っておく
同期するときは必ず事前にクラウド側に同期(バックアップ)用の空の専用フォルダーを作っておくのが大事です。特に一方向&ミラーはNAS側にないファイルは削除してしまうので同期先に既存のファイルやフォルダがあると削除されてしまいます。
うっかりルートフォルダと同期するなどミスると大事故に繋がる可能性があるので必ず専用フォルダを作りその中で同期するようにしましょう。
あとはスケジュールの設定など一般的な設定をして同期を開始すればOK。これで単純なファイルの同期が自動化出来ました!
AmazonPhotosの無料アップロードは使えなくなる
クラウドと同期出来るならAmazonプライム会員向けの写真無制限アップロード特典が使えるのでは?と思った方もいると思いますが、残念ながらQNAPでは2021年4月30日以降Amazon Driveへのアクセスが不可能になるとのことです。
SynologyのNASでもすでにAmazon Driveへのアクセスができないため、Amazon側のポリシー変更によるものかと思います。クラウドと連携させる場合はオンラインのストレージにどれだけコストをかけるのかを考える必要がありますね。
データの重要度や利用頻度に応じて外付けHDDとクラウドを上手く使い分けていくのが良いでしょう。
まとめ:これさえあれば何でもできちゃうエントリーNAS
ということで、今回はTS-230のバックアップ設定を中心に紹介してみました。
バックアップはデータを安全に管理するための要となりますが、TS-230に搭載されるHBS 3は導線も良く出来ていてとても使いやすい印象でした。普通の人でも直感的に作業出来るのではないかと思います。
日々の作業ファイルの同期をするならはじめに紹介したQsyncも効果的ですね。QNAPのバックアップやファイル共有機能はかなり優れている感じです。
バックアップはどのレベルまでやれば良いのかという正解はありません。その人の使用スタイルやNASの中にどの程度大切なものが入っているかによってもやり方は変わってくるからです。この点、TS-230なら最低限の保護だけで良いなら元からあるRAID1オンリーの運用もできますし、安価な外付けHDDとのバックアップでも身近なクラウドと連携も可能。2台のNASを使い2拠点間でバックアップをとるというような本格的な運用も出来てしまうのがステキです。
過去2回の記事でも書いたとおり、メモリ2GB(このクラスは1GB以下が普通)搭載するなどハードウェア性能が高く、エントリー機なのに上位機並みの設定の柔軟性を併せ持っているなど初心者には十分すぎるスペックを持っている点も素晴らしいと思います。そして2万を切るコスパも良いです。
TS-230を使って気になった点は?
かれこれ2ヶ月以上TS-230を使ってきて、全体的に良い印象を持っているのですがすべてが完璧というわけではありません。一番気になったのは設定時にいきなり難しい用語が出てくるところでしょうか。
NASはミニパソコンのようなものなので、それなりに専門用語が出てくる点は仕方ないですが、設定しようにも意味が分からなくてググるみたいなシーンが結構ありました。他社のNASでも最初は分からない用語がある程度出てきますがちょっと多めかなという印象です。
今回のレビューで私が困ったこと、調べたことなどをできるだけかみ砕いて説明したつもりですが、NASが全く初めてという人の場合は最初はある程度グーグルと仲良くしながら設定を進めて行く必要があるのかなと感じます。
なんというか、1つの画面に出てくる情報量が私のメインで使っているSynologyのNASより多いというようなイメージ。パソコンにある程度慣れている人であれば楽しく設定出来ると思いますが、パソコンが結構苦手・・・という人は最初は気合い入れて挑んだ方が良いと思いました。
あとは検索して出てくる公式のQ&A(ヘルプ)の量も現状だとSynologyの方が多いかなという印象。ただ、ここも結構頑張ってアップデートを続けてくれているので今後、より分かりやすいコンテンツを増やしていってくれることに期待しています。
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この連載ではTS-230の初期設定、写真管理アプリ(QuMagie)、バックアップ(Qsync、HBS 3)を中心に3万字超える勢いで紹介してきましたが、ここでは書き切れなかった機能もたくさんあります。
例えば動画をテレビと繋いで再生したり、FTPサーバーを起動させてカメラのFTP転送機能と連携させたり、スマホで手持ちの音楽を再生したりとまだまだいろいろな使い方ができますのでNASのデータ管理になれてきたらぜひ他の機能を試してみるのも良いと思いますよ!
みなさまがNASを使った便利な写真管理生活ができることを祈っております!
以前の記事はこちらからどうぞ!
提供、取材協力:QNAP