初心者こそRAWで撮るべき?
多くのガイドブックにはJPEGで撮るのが基本であるかのように書かれていますし、たいていのカメラの初期設定はJPEGです。
でも、JPEGだと撮るときにホワイトバランスをきちんと考えておかないとへんてこな色味になることがありますし、ピクチャーモード(キヤノンのピクチャースタイルやニコンのピクチャーコントロールなど)を間違うと思っていたのと違った雰囲気に仕上がることもあります。
そんなときにRAWで撮っておくと、現像するときに色味をなおしたり、好みどおりの雰囲気にしたりが簡単にできます。なぜなら、RAWはJPEGの素であり、すべての情報を握っている画像の親玉だからです。大げさに言えば、初心者が起こしがちな写真の失敗の半分は、RAWで撮っておけば十分にリカバーできるのです。
というわけで、今回は初心者こそRAWで撮ったほうがいい理由を考えてみました。
まずその前に「RAWってなんだ?」を知っておこう
簡単に言うと、RAWはJPEGの素であり、すべての情報を握っている親玉画像です。
RAWはよく「調理していない食材」にたとえられます。タマゴなら生の状態です。ただし、シェフとキッチン付きの生タマゴで、しかも目減りしません。対するJPEGは、タマゴ焼きや目玉焼きで、これはカメラの中のシェフが調理して味付けしたものです。
JPEGはすでに調理済みの状態なので、焼き加減や味の濃さを変えることはできません。半熟のゆでタマゴを固ゆでにすることはできますが、逆はできません。まして、甘めに味付けしただし巻きを、半熟の目玉焼きに変えることは不可能です。だからもし、気が変わってタマゴかけご飯が食べたくなったとしてもなにもできません。出された料理が気に入らなければ、もったいないですが、ゴミ箱行きです。
一方、RAWは生タマゴのままですから、どう料理するかは自由に選べます。生タマゴはあらゆるタマゴ料理の素ですし、調理器具や調味料も自由に選べます。火のとおし加減も、味付けもお好みどおり。そのうえ、RAWはそれ自体を加工するのではなく、現像した結果(JPEGなど)を別ファイルで保存する仕様ですから、本体のRAWは無傷のまま、目減りもせずに残せます。だから、火が強すぎて焦げてしまっても簡単にやりなおせます。
RAW現像という手間ひまとそれを手に入れるための時間を惜しみさえしなければ、完璧な、そして気分にぴったりのタマゴ料理が誰にでもできる。それがRAWの強みなのです。
RAW現像はタダではじめられます
RAWはカメラメーカー独自の形式なため調整するには専用のソフトが必要です(メジャーなカメラはOSレベルでサポートされている場合もある)が、RAW現像ソフトはメーカーがカメラ購入者向けに無料配布しているのでパソコンさえあれば誰でも無料ではじめられます。
さらに高度な調整をしたければAdobeのLightroomやPhotoshopをはじめ、いろいろなサードバーティー製のアプリケーションを使うことも可能です。
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ではここから初心者こそRAWで撮ったほうがいい理由を10個紹介していきます。
その1 ホワイトバランスをあとから変えられる
ホワイトバランスは、白いものが白く写るように調整することで、ものの色味を正しく再現する機能で、通常はカメラまかせの「オート(オートホワイトバランス)」で良好な結果が得られます。
でも、例えばオートホワイトバランスが、実は紅葉や黄葉に弱いことはご存知ですか?
朝夕の光は暖色系(黄色みの強い色合い)なので、暖色系の被写体である紅葉や紅葉は、カメラが「朝夕の光で撮っている」と勘違いすることが多く、正しい色で再現しようとして色味を薄くしてしまうのです。
色鮮やかな秋の風景を撮ったはずが、目で見たときよりも地味な印象に仕上がることがあるのは、たいていの場合、オートホワイトバランスのせいです。太陽光(昼光)のホワイトバランスに切り替えていればいいのですが、それに気付かずに撮ると、こんなふうな地味な写真になってしまいます。
でももし、あなたがRAWで撮っていれば、現像するときにホワイトバランスを変えるのは簡単。撮影後にパソコンで「オート」から「太陽光」「昼光」に切り替えればいいのです。
その2 ピクチャーモードを選びなおせる
キヤノンのピクチャースタイルやニコンのピクチャーコントロールなど、発色などの特性を決めるピクチャーモードのどれを選べばいいのかも初心者には難しい問題です。
よく「普段はスタンダードモードで風景を撮るときは風景モード、人物を撮るならポートレートモードで」と説明されますが、もとが鮮やかな紅葉だと風景モードではけばけばしくてわざとらしい仕上がりになることもありますし、日陰などの光が弱い状態ではスタンダードモードは地味になりすぎるケースもありますよね。
好みの発色になるようにピクチャーモードをカスタマイズするのは簡単ではありませんし、撮影シーンに合わせていちいち微調整していたら、シャッターを切る前にくたびれてしまいます。
旅先で記念写真を撮るときにはどっちにしたらいい? などと迷いはじめるぐらいなら、最初からRAWで撮っておきましょう。
RAWで撮っておきさえすれば、スタンダードモードを風景モードに変えたりするのはワンタッチ。風景だと派手すぎるから少し彩度を下げ目にして、とかもパソコンの大きな画面で見ながら調整できるわけで、この快適さに慣れると、撮影現場でいちいちどのモードにしようかとか悩んでいたのがうそみたいに解消するんです。
その3 露出を(少しだけど)補正できる
初心者の失敗でありがちなのが露出。最近のカメラの露出はずいぶん性能はよくなっていますが、それでも必ず当たるとはかぎりませんし、カメラが「これでばっちりだよ」と決めた明るさをあなたが気に入るかどうかも別の問題なのです。
そんなときに、写る画面の明るさを好みに合わせて調整できるように「露出補正」という機能がありますが、これをうまく使いこなすのもけっこう難しいことだったりします。結果、明るすぎたり、暗すぎたりの写真がいっぱいになっちゃってるわけです。
でも、RAWで撮っておけば、現像するときにも露出補正をすることが可能です。
画質を最優先に考えるなら、露出は撮るときに完璧に調整しておかないといけないものですが、たくさんの情報を持っているRAWであれば少しぐらいは現像のときに補正しても問題ありません。おおざっぱな目安としては、画質が悪くならないことを重視するなら±1段ぐらいまで、多少画質が悪くなっても目をつぶれるなら±2段ぐらいは補正しても大丈夫と思っておいてかまいません。
写真を撮っている最中は撮ることに夢中になってて露出にまで気を配れないこともままありますが、RAWなら撮った写真を見ながら、ちょうどいい明るさに調整できるのです。
こんなことを言うとえらい人たちにしかられそうですが、RAWなら露出のことはあまり深く考えずに撮ってもOK。そのぶん、構図やシャッターチャンスをうまくつかまえられるように気をつけたほうが早く上達するでしょう。
その4 白飛びや黒つぶれを減らせる
問題は「多少」以上に露出が明るすぎ、暗すぎになった場合です。この場合、明るい部分や暗い部分の情報がまったくない状態になって、いわゆる「白飛び」や「黒つぶれ」の状態になってしまいます。
特に白飛びは、情報がある部分とない部分の境目あたりでへんてこな色再現になることがあるので厄介です。
白飛びには実は3種類あって、ひとつは完全な白飛び。これは救いようがありませんが、もうひとつ、ぱっと見には白飛びしているけれど、情報は残っているというケースもあります。こちらはレタッチソフトを使って補正すれば白飛びを解消することができます。
その中間の、JPEGでは白飛びしていて、RAWにだけ情報が残っているケースというのもあります。
RAWはJPEGよりも明るい部分や暗い部分の情報をたくさん持っています。だから、JPEGで白飛びしていても、RAWは白飛びしていない場合もあるのです。RAWは画像の親玉なので、子分であるJPEGには内緒にしている情報も隠し持っているわけです。
この場合は、現像するときにマイナス側にハイライト補正を行ないます。ハイライト補正は明るい部分にだけ影響するので、ほかの部分の明るさを変えずに簡単に白飛びだけを解消(もしくは軽減)できます。
その5 写真を調整したときの画質がJPEGよりもいい
部分的に明るさを変えたり、色味を大きく変えたいときなどにも、RAWの情報量の多さが助けになります。JPEGはホワイトバランスやピクチャーモードなどの設定を反映させたあと、使わなかったぶんの情報をすべて捨ててしまいます。
タマゴで言えば、メレンゲをつくるのに黄身を捨ててしまうようなもので、こうなるとタマゴ料理らしい黄色みは出せません。
ホワイトバランスを間違えて撮ったのをなおしたいときもそうで、ナトリウム灯照明の夜景を太陽光のホワイトバランスで撮るとオレンジ系の色調に仕上がります。こうなると、JPEGには青系の情報がほとんど残っていないので、ナトリウム灯の色味を補正すると変色しただけのようになってしまいます。
一方、RAWはすべての情報を持っていますから、ホワイトバランスを大きく変えても問題ありません。噴水はニュートラルに、空は濃い青色に、テレビ塔はしっかりとオレンジ色に再現できています。
次は、プロカメラマンがよく使うテクニックのひとつで、逆光気味のシーンで空を白飛びさせずに暗くなった部分を明るく補正するというものです。
見比べればわかるとおり、RAWのほうが壁のれんがのオレンジ色や草の緑色が豊かに再現されていますし、拡大して見ると、ざらつきが少なく、細かい部分までくっきりしています。(クリックすると拡大できます)
これもRAWのほうがたくさんの情報を持っているからで、こういう極端なことはやらないにしても、RAWで撮っておいたほうがお得なのはご理解いただけるでしょう。
その6 高感度のノイズを少なくできる
カメラにはノイズを少なくしてクリアな画面に仕上げられる機能が備わっていますが、感度が高くなるとノイズが多くなるため、画面にざらつきが増えてきます。
ノイズを減らす処理を強くすればざらつきを減らすことはできますが、そうすると今度は細かい部分の描写がつぶれたようになり、いわゆる塗り絵調の画面になってしまいます。
そのため、ノイズ処理は、ざらつきと細部のつぶれのかねあいを見ながら調整する必要があるわけです。
ただ、カメラのノイズ低減機能は、多くの場合、「弱」「中」「強」の3段階の切り替え程度なので、1枚1枚の写真に合わせて最適な調整をするのは難しいのが実情です。
一方、RAWでは、現像するソフトウェアによっても違いますが、より細かく調整できるのが普通です。また、パソコンの画面を見ながら試行錯誤も容易です。
この写真は、APS-Cサイズの一眼レフでISO6400で撮ったものです。調整なしで現像したRAWは、JPEGよりもノイズの粒がはっきり見えるせいで逆に粗く感じますが、ノイズ低減機能を適切に調整すると、JPEGよりもざらつきが少なくなり、クリアに仕上げることができます。
その7 非純正レンズの歪曲収差を補正できる
歪曲収差というのは、おおざっぱには、まっすぐなはずの線が曲がって写る現象です。本来、まっすぐな線はまっすぐに写るべきですが、完璧に補正しようとすると、レンズが大きく重く、高価になりやすいこともあって、ほどほどのところで妥協するのが通常です。
最近は、後処理によって歪曲収差を自動的に補正する機能を備えたカメラも増えていて、その一方で、後処理で補正することを前提に、小型軽量化などを優先して意図的に歪曲収差を残したレンズも増えてきています。
ただし、カメラ内で補正できるのは、原則として純正レンズだけで、シグマやタムロン、トキナーといったレンズメーカー製の非純正レンズには対応しません。それどころか、誤動作を起こす可能性もあるため、非純正レンズを使うときには、この機能をオフにしないといけません。
でも、悲観することはありません。アドビシステムズのLightroomといった汎用のRAW現像ソフトなら、純正レンズはもちろん、非純正レンズの歪曲収差もワンクリックで補正できます。
建物を撮るときに、柱などのまっすぐなものがぐにゃっと曲がるのがかっこう悪いと思われるなら、RAWで撮るのがおすすめなわけです。
その8 現像ソフトの進化で画質が向上する
わりと見落とされがちなことですが、カメラと同じように、RAW現像ソフトも時代とともに進化してきています。そのため、古いカメラで撮ったRAWを最新のRAW現像ソフトを使って現像することで、以前よりも高画質に仕上げることが可能なのです。
たとえば、現行のキヤノンの一眼レフやミラーレスカメラには「デジタルレンズオプティマイザ」という機能が搭載されていて、特に絞り込んで(絞りの数字を大きくして)撮ったときに起きる回折現象による画質の低下を補正することができます。
この機能は、純正RAW現像ソフトウェアであるDigital Photo Professionalにも搭載されていて、デジタルレンズオプティマイザ機能を搭載していないカメラのRAWを現像する際にも利用できるのです。つまり、そのカメラで撮ったときよりも高画質に仕上げられるわけです。
これはもちろん、RAWだけの話で、撮った時点で現像まで完了してしまうJPEGは、その恩恵にはあずかれません。RAWだけの特権なのです。
同様に、今のカメラでも、RAWで撮っておくことで、将来より高画質で現像できるようになるとも言えます。
その9 フィルター機能を使って撮った写真をもとにもどせる
アーティスティックな画面効果が楽しめるフィルター機能は、被写体やシーンにマッチすると素敵な作品に仕上がります。でも、これはカメラ内で写真に特殊効果をほどこすものなので、JPEGだと一度かけたフィルター効果の度合いを変えたり、キャンセルして普通の状態に戻すことはできません。
カメラによっては、メモリーカードに保存されている撮影済みの写真にフィルター効果を適用する機能を備えたものもありますが、基本的には、その写真を撮影したカメラしか対応できません(手放したりしたらアウトです)。また、パソコンに移してファイル名を変えると読めなくなったりもします。
その点、オリンパスはよく考えてくれていて、アートフィルター機能を使って撮るときにもRAWを残すことができ(効果が適用されたJPEGとRAWの同時記録となります)、純正RAW現像ソフトのOLYMPUS Viewerで現像する際にアートフィルターを適用することが可能なのです。
つまり、RAW(またはRAW+JPEG)にしておけば、アートフィルターを使って撮った写真を普通の状態にもどすこともできますし、撮った時とは違うアートフィルターに変えたり、エフェクトを変化させたりも可能。普通に撮った写真にアートフィルターをかけて現像することもできます。
さらに、カメラに搭載されていないアートフィルターも利用できたりもするので、かなりお得に感じられます。
その10 RAWは非破壊編集なので画質劣化が少ない
「非破壊編集」という言葉はわりと最近になって使われはじめたものなので、ピンとこない人もいるかもしれませんが、単純に言えば、元画像に手を加えることなく調整や加工を行なうことを指します。
画像にとって調整や加工は画質面では負担となり、操作を受けるほどにダメージが積み重なって画質が悪くなっていきます。写真の明るさを調整したいときに、たとえば5目盛りプラスしたのをあとになって明るすぎたかなと感じて2目盛りもどしたようなとき。この場合、写真は最初に5目盛りぶん、2回目に2目盛りぶんの調整がなされていますから、合計で7目盛りぶんのダメージを受けたことになります。
一方、RAWを調整、加工する工程(この工程や、調整、加工したRAWをほかのファイル形式で書き出すことを「RAW現像」と呼びます)では、もとのRAWはそのままにしておいて、「どういう調整を行なったか」という情報だけが追加されます。そのため、5目盛りプラスしたあとで2目盛りマイナスした場合は差し引き3目盛りプラスということになり、写真が受けるダメージも3目盛りぶんだけですむことになるのです。
また、JPEGなどのファイル形式で書き出しても、もとのRAWはそのまま残ります。そのため、調整を変えて仕上げなおすことも簡単でますし、もとの状態のもどすこともできます。これが「非破壊」であることのメリットです。
そのうえ、持っている情報の量がJPEGよりもずっと多いので、大きな調整や加工を行なっても、その影響があまり目立つことはありません。つまり、画質劣化を気にする必要がないわけです。
まとめ: もちろん欠点もあるけど、今はそんなに困らないよ
そんなにRAWがいいなら、JPEGで撮る必要なんてないわけで、ようするに、RAWにも悪いところがあるからJPEGでも撮れるようになっているのだと言えます。
ファイルサイズが大きくなることに注意
たとえばファイルサイズの大きさ。カメラにもよりますが、RAWはJPEGの2倍から4倍ほどのファイルサイズになります。ですから、メモリーカードの容量が小さいとすぐにいっぱいになりますし、撮った写真を保存するパソコンのハードディスクも大容量のものが必要です。つまり、お金がかかるのです。
とは言え、最近は大容量のメモリーカードもずいぶん安くなっていますし、パソコン用ハードディスクもどんどん大容量化してきています。
ただし、ファイルサイズが大きいと、連写できる枚数が少なくなったり、連写したあとでメモリーカードに書き込むのに時間がかかったりしますから、スポーツ系の撮影がメインの人は注意しないといけません。
今はOSレベルでサポートされている
以前は対応するソフトウェアが少ないことも問題でした。なにしろ、RAWはカメラメーカーの独自の形式なので、専用ソフトがないと見ることさえできなかったのです。
これも、最近はパソコンのOSが各社(大手だけですけど)のRAWに対応してくれているので、あまり不便ではなくなってきています。ただ、画像の表示はJPEGに比べると遅くなりますから、スピードを重視するならRAW+JPEGで撮っておいて、セレクト作業をするときにはJPEGを見るようにすれば効率的です。
RAW現像ソフトの使い方を覚える手間がいること、そもそも現像すること自体が面倒くさいこともありますが、ここは我慢してください。でも、たいていのRAW現像ソフトは、一眼レフやミラーレスカメラのメニューに比べれば、ずっとシンプルで覚えやすいです。
それを上回るメリットが確かにあるよ
カメラにまだあまり慣れていない方にはちょっと難しく感じられることも書きましたけど、JPEGよりもRAWのほうがいろいろ便利でお得なのはおわかりいただけたのではないかと思います。
RAWは上級者のものだなんて決めつけたりせずに、面倒くさいのをちょっぴり我慢してチャレンジしてみてください。きっとあなたの写真が変わりますから。
あるいは、将来のために、RAWで撮って残しておくというのもありだと思います。10年前、20年前に撮った何気ない写真が思い出になるのと同じように、10年後、20年後のためにこれから撮る写真はRAWで残しておくというのもよいことなのではないでしょうか。