肉眼では見えない景色を撮れるスローシャッター
写真は目の前の一瞬を切り取るなんて言われますが、人間の眼では見ることのできない幻想的な情景を表現することもできます。それがスローシャッター撮影です。
なんだか難しそう...と思われる方も多いですが、ポイントを押さえれば簡単に撮影できるのです。今回は初心者の方でも簡単にスローシャッター撮影をするための方法を準備するものや撮影手順からしっかり紹介していきます。スローシャッターの作例もたくさん入れましたのでぜひ参考にしてみて下さいね。
スローシャッターって?
シャッタースピード(シャッターを開いている時間)がスローな(遅い)ことを言います。
シャッタースピードの単位は秒。写真はシャッターが開いている時間の状態を記録します。
よって、動いているものを撮る場合、シャッタースピードが早ければ早いほど瞬間を写すことができますし、遅ければ遅いほど動き続けている状態が記録されます。速いシャッタースピードは1/500〜1/1000〜1/2000秒というように分母が大きくなっていきますが、スローシャッターの場合は、1/10〜1/2〜1秒というように分母が小さくなっていきます。
「○秒より遅いのがスローシャッターである」という定義はありませんが、今回は概ね1/10秒より遅いシャッタースピードのことをスローシャッターと定義します。
長い場合は1分以上シャッターを開けて撮影することもあります。
スローシャッター撮影の醍醐味とは?
それは、目で見ている光景とは全く異なった状態で写すことができること。
シャッタースピード(時間)分の滝の水の流れが記録され、水の流れが白い糸を引いているように見える一枚。 この人間の目では決して捉えることができない不思議な世界を映し出してくれるのがスローシャッター撮影の魅力であり、醍醐味だと思います。
撮影に必要なもの
必要なもの
カメラ・レンズ
スローシャッターだからといって特に変わりません。いつも通りのカメラでOKです。
撮影するものによりますが、海や滝を撮影するなら広い範囲が撮影ができる標準ズームや、切り取って撮影ができる望遠ズームがあると良いでしょう。
三脚
三脚は必須!です。
スローシャッター撮影では手ブレは大敵。意図的にブラすこともありますが、手ブレを防ぐために三脚に固定するのが基本です。海や滝の撮影では撮影場所まで長距離を歩かなければならないこともあります。お持ちでない場合は小型で持ち運びしやすいものを選ぶとよいでしょう。
三脚をお持ちでない方はこちらのエントリもご参考に。
ちなみに私はVelbon(ベルボン)のGeo Carmagne(ジオ・カルマーニュ)N730をメインで使用しています。
あると良いもの
リモートレリーズ
リモートでカメラのシャッターを切ることができるアイテムです。
カメラに触れずにシャッターが切れるので、シャッターボタンを押した際に発生するブレを防ぐことができます。例えば以下のようにメーカー毎に専用品が用意されていたり、安いサードパーティーのものもあります。お使いのカメラに適合したものを選びましょう。
ロワジャパン シャッター リモコン Canon RS-80N3 TC-80N3 対応【プロ専用 液晶LCD タイマー機能付 撮影回...
有線タイプのほか、最近はBluetoothを使用した無線接続が可能なモデルもあります。ソニーのBluetoothリモコン(リモートレリーズ)については、こちらのエントリもどうぞ。
また、スマホと連携できるカメラなら、スマホアプリ側でシャッター操作をすることもできます。カメラとの接続などやや面倒ですが、スマホさえあれば現場でリモート撮影できるのは安心感があります。お守り代わりにアプリはインストールしておきたいところですね(接続方法などテストしておくように)
Canon:Camera Connect
Nikon:SnapBridge
Sony:ImagingEdgeMobile
要はカメラに触れずにシャッターが切れれば良いので、レリーズを忘れてしまった場合はセルフタイマー(2秒タイマー)で代用するのもOKです。
NDフィルター
NDフィルターはカメラ版のサングラスのようなもの。
レンズに被せて物理的にカメラに入る光を減少させ、シャッタースピードを遅くすることができるアイテムです。特に明るく光の量が多い場所でスローシャッター撮影を行う際に使用します。詳細は後述します。
長靴・トレッキングシューズ
水辺で撮影を行う際は足を滑らせがち。時には水の中に三脚を置いて撮影することがあるので、滑りにくい長靴やトレッキングシューズがあると安心です。
虫除け・熊鈴
スローシャッター撮影は現場に留まる時間が長くなります。自然の中で撮影を行う際は虫よけや熊鈴などでしっかり対策しましょう。
スローシャッター撮影向けカメラ設定
撮影モード
絞り優先モード(A、Av)を使用します。
一般的にはスローシャッター撮影はシャッタースピード優先モード(S、Tv)を使いましょうということが多いですが、絞り優先でもシャッタースピードのコントロールは可能です。もちろん、シャッタースピード優先モードでも良いのですが、個人的には早いものを”止めて”撮りたいときはシャッタースピード優先モード、スローシャッターの時は絞り優先モードを使い分けることが多いです。
今回は普段使い慣れた絞り優先モードでシャッタースピードをコントロールする方法を紹介していきます。
ISO感度
ISO感度とは、簡単に言うとカメラが光を取り込む際の敏感さと思ってください。
通常、室内など暗いシチュエーションではISO感度の値を上げて、少ない光でもブレないようにシャッタースピードを速くして撮るのが一般的です。でも、スローシャッター撮影の場合はシャッタースピードを遅くする必要があるので、ISOの値を上げるのではなく低く設定することで、スローシャッター撮影向けの設定にします。ISO感度が低ければ画質も向上します。
まずは一番低い値(ISO100、カメラによっては200)に固定しましょう。(設定方法が分からない方は説明書を見てね)
手ブレ補正
手ブレ補正機能はOFFにしましょう。
この機能はその名の通り「手持ちで」撮影する際のブレを補正してくれるもので、三脚を使用する際は稀に誤動作を起こし予期せぬブレに遭遇することがあります。念のためOFFにしておきましょう。
撮影方法
カメラを三脚にセットする
スローシャッター撮影では僅かにブレただけでもシャープさが失われてしまいます。
しっかりとした足場に三脚を立てましょう。
構図を決めてシャッタースピードを確認する
構図を決め、ピントを合わせたい場所にAF枠を重ねてシャッターボタンを半押しにします。
すると画面にカメラが決めたシャッタースピードが表示されているはず。これを狙いの所まで調整していきます。
最初は1秒〜6秒あたりで撮ってみよう
F値をダイヤルで操作します。F値が大きくなればなるほどシャッタースピードが遅く(長く)なります。
曇り空や早朝、夕方など暗い場合はF9くらいで1秒前後になると思います。もし1秒より早いシャッタースピードになる場合はF値を大きく、1秒よりかなり遅くなる場合はF値を小さくすればOKです。
1秒前後になったらシャッターを切ります。リモートレリーズが無い場合はセルフタイマーやスマホアプリでシャッターを切り、ブレを防ぎましょう。明るさを調整したい場合は通常通り露出補正でプラス/マイナス調整でOK。
スローシャッター撮影に慣れてきたら、より遅いシャッタースピードでも撮ってみて、写り方の違いを確認してみてください。
なお、絞り優先モード(A、Av)やシャッタースピード優先モード(S、Tv)で設定できるシャッタースピードは最長30秒までです。更にシャッタースピードを遅くする場合はバルブモード(B)にします。(設定方法が分からない方は説明書を見てね)
バルブモードはシャッターボタンを押している間だけシャッターが開くので、リモートレリーズが必須です。
オススメの被写体と時間帯
動きが軌跡として記録されるので、動いているものと止まっているものが一つの画面の中にある状態の方が静と動の対比を付けた動感を表現しやすくなります。
また、快晴の日中では光の量が多過ぎてシャッタースピードを遅くすることができないので、日の出前後や日没前後の暗い時間帯がオススメです。日中でも曇り空や森の中など薄暗いシチュエーションであれば撮りやすいと思います。
あとは夜(夜景)ですね。明るいシチュエーションでもスローシャッターで撮りたい場合はNDフィルターを使用します。(後述します)
海
日没前の海岸にて。あまりシャッタースピードを遅くし過ぎると波の形や陰影が消えてしまうので、3.2秒に設定。波の造形や手前の砂浜に流れる水の軌跡も見て取れます。
次にシャッタースピードを6秒にして撮影。
シャッタースピードが遅くなることで波のエッジが消えて柔らかな印象になりました。遅くなればなるほどこの傾向が強くなります。ただし、その時の波の状況によって変化するのでシャッタースピードを変えながら撮影し、表現したいイメージになるシャッタースピードを探っていきましょう。
白波に反射する夕空の色を写したかったのと、ある程度の軌跡を残して荒々しい岩と組み合わせて立体感を表現したかったので、少し短めの2秒で撮影。適度な波のエッジを残すことができました。
穏やかな夕景。波を優しく表現したかったので30秒で撮影。波のエッジはほとんど見えなくなりました。
滝
日本には大小さまざまな滝があり、形もさまざま。季節やタイミングによって水量が多いときもあれば少ないときもありますが、一般的に水の動きが早いのでシャッタースピードで表現の変化を出しやすい被写体と言えます。
絞りを調整して、シャッタースピードが1秒前後になるようにして撮影してみましょう。
水の流れがブレて、流れの美しさを表現することができました。この日は雨の翌日のためか水量が多く、轟音とともに水が流れ落ちる様は迫力満点。同じアングルでシャッタースピードを早くして撮影してみました。
スローシャッターの写真とは全く印象が異なりますね。
水の動きが止まり、荒々しく流れ落ちる様を表現することができました。水の動きを止めるにはシャッタースピードは1/500前後を目安にしてみてください。
薄暗い場所など絞りを開放にしてもシャッタースピードが早くならない場合はシャッタースピード優先モード(S、Tv)にしてISOはAUTOに設定します。撮るたびに水の形が変わるので何度も撮って最も水の形が良いものを選びましょう。
夜景
光の軌跡を写せるスローシャッター。日中はなんの変哲もない場所でも光によって美しい風景に変貌するのが夜景+スローシャッターの魅力です。
基本的な撮り方は海や滝などと同じです。
ヘッドライトの灯りは白く写るので、色を増やすためにテールランプの赤色もバランスよく入るようタイミングを見計らってシャッターを開くのがコツ。と言っても、車の流れをコントールすることはできないので、何度もシャッターを切ってみましょう。
ヘッドライトが多めだとこうなります。右側の車線が渋滞でノロノロ...ちょっと残念でした。
歩道上の細い軌跡は自転車のヘッドライトです。
夜桜ライトアップにて。適度に人のシルエットを残したかったので、シャッタースピードは少し短めの5秒に設定。
これ以上シャッタースピードが長くなるとシルエットが消えてしまいます。
NDフィルターを使って日中でもスローシャッター撮影!
先にも書いた通り、明るいとシャッタースピードを遅くすることができません。設定自体はできるのですが、真っ白な写真になってしまいます。理由は光の量が多過ぎるから。そこで活躍するのがNDフィルターです。
光の量を1/○○にするアイテム
NDとはNeutral Density(ニュートラル・デンシティー)の略。直訳すると「中立な濃度」という意味で、発色に影響を与えることなく光量を減らすことができるフィルターのこと。言葉にすると難しそうですが、簡単に言うとカメラにサングラスをかけて擬似的に夕方〜夜にしてしまうアイテム。レンズの前面に取り付けて使用します。
暗くする度合いによってたくさんの種類があり、ND4、ND8といった数字で表されます。
例えばND4なら光の量が1/4に、ND16なら光の量が1/16といったように数字が大きくなるほど暗くなります。2、4、8、16、32、64、100、200、500、1000というラインナップが一般的で、太陽撮影用に100000(光量が10万分の1になる)!というものもあります。
どれくらいシャッタースピードが遅くなるのかは、↓の早見表を参考に。
絞らずに暗くできる
多少明るいシチュエーションでもF値を大きくすればある程度スローシャッターにすることはできますが、F22などあまりに絞りすぎると「小絞りボケ」が発生し画質が低下する原因になります。小絞りボケの詳細は割愛しますが、簡単に言うと解像感が低いモヤッとした画像になります。
NDフィルターを使えば絞りすぎずにスローシャッターを切ることができます。
日中のスローシャッター撮影ではND500(光量が1/500、9絞り分減光)か1000(光量が1/1000、10絞り分減光)がオススメです。フィルター径ごとに用意されているので、お使いのレンズの口径をチェックしておきましょう。
2枚重ねてもOK
ちなみに私はND16とND500の2枚を使い分けています。
そこそこ暗い場合はND16、晴天時はND500といったような感じです。NDフィルターは重ねて使用することもできるので、ND16とND500を重ねるてND8000(=16×500)として使用することもできます。
また、広角レンズを使用する場合はフィルターの厚さにも注意しましょう。厚いフィルターの場合、画面内にフィルターの枠が写り込む(ケラれる)ことがあるので薄型がオススメです。
水場の近く(とくに海水)での撮影が多いなら少々高くなってしまいますが撥水、防汚コーティングの施されたNDフィルターもおすすめです。メンテナンスがラクになりますよ。
Kenko NDフィルター PRO1D Lotus ND16 62mm 光量調節用 撥水・撥油コーティング 絞り4段分減光 922620
NDフィルターを使用しなかった場合のシャッタースピードは1/15秒。(F18、ISO100)NDフィルターを使うことで、光が多い場所でも雲の動きを流して表現することができました。
観光地など人が多い場所などでプライバシーにも配慮して撮影する際にも有効です。
NDフィルター使用時の注意点
特にND500や1000など高濃度のNDフィルターを装着した状態ではカメラのAFが効かないことがあります。カメラにとっては真っ暗な状況でピントを合わせようとしているようなものだからです。もしAFが効かずピントが合わない場合は、以下の手順で撮影しましょう。
①構図・ピントを合わせる
NDフィルターを装着せずにオートフォーカスでピントを合わせた後、フォーカスモードをマニュアルに切り替えてピント位置が変わらないようにします。
②NDフィルターをレンズに装着する
フォーカスリングに触れないように(ピント位置がズレないように)注意しながらNDフィルターを装着します。
③絞り・シャッタースピードを調整し、シャッターを切る
あとは通常通りのスローシャッター撮影をします。
最近の一眼カメラはAF性能が良くなり、高濃度のNDフィルター装着時でもAFが効く場合も多くあります。一眼レフの場合はファインダーを覗いてAFを合わせるよりもライブビューにしてAFを合わせる方が効きやすい傾向があります。
まとめ
スローシャッター写真はスマホカメラでは撮ることが難しい写真の一つ。
ポイントさえ押さえれば誰でも簡単に撮ることができます。これから少しずつ日が短くなり、スローシャッター撮影にはもってこいのシーズンです。構図や切り取り方にシャッタースピードというエッセンスを加えて、人とは違う一枚を撮ってみましょう!
今回よりもう少しマイルドな手持ちでもできるスローシャッター撮影の方法はこちらにもまとめていますのでぜひチェックしてみて下さいね!