軽いカーボン三脚だからこその注意点
三脚を使えばブレはなくせる、と考えるのが普通。と言うより、ブレを防ぐために三脚を使うのが一般的でしょう。でも、世の中には三脚を使っても防げないブレや、三脚を使ったせいで起きるブレなんてものまであったりします。
特にカーボン三脚は耐荷重が同じアルミ三脚に比べて軽いため、設置時の重心が高くなりがち。その分どうしても安定感は低くなります。ブレの心配だけでなく、風などで揺れたり転倒したりといった危険もあるのです。
そんなわけで、今回はプロも実践する三脚撮影時のブレ対策をご紹介します。
まずは三脚の使い方の基本をおさらいしておこう
ご存知の方も多いと思いますが、まずは三脚の使い方の基本をおさらいしておきましょう。
脚を伸ばすときは太いパイプから
一般的な三脚の脚パイプは上の段ほど太く、下の段ほど細くなります。また、段数が多いほど下の段のパイプはより細いものとなります。一方、脚パイプの強度や剛性は単純に太いほど高くなります。
脚を伸ばしきらなくても十分な高さが得られる場合、なるべく上の段から伸ばすというのが基本となります。脚を全部伸ばさないと十分な高さが得られない小型の三脚でも、低い位置にカメラをセットする際は太い脚から伸ばすようにします。
重心が偏らないように脚の長さを調整する
三脚にとっては載せる機材の重さが3本の脚に均等にかかる状態が理想です。平坦な地面や屋内では脚の長さを同じにして立てれば問題ありません。
しかし、段差や傾斜のある場所に立てる際は脚の長さが同じままだと三脚が斜めになってしまいます。そうすると機材の重さが低い側の脚に片寄ってかかることになるため、剛性面でも不利になるうえに重量バランスが悪くなって転倒の危険も増してしまいます。
そのため、それぞれの脚の位置の高さに合わせて脚の長さを調整して、三脚部分だけで水平に近い状態にすると安定感が上がります。例えば次の2枚の写真だと、1枚目はとても不安定な状態。2枚目のように脚の長さを地面にあわせてできるだけ水平にかまえると安定します。
きちんと脚を開いて立てる
これもあたりまえの話ですが、三脚の性能は3本の脚を所定の位置まで開いた状態で発揮されます。ですから、脚を3本ともきちんと開いて立てるのが基本です。
脚を中途半端に開いた状態では、地面に対して踏ん張りが利きません。そのため、風が吹いたり、ちょっとぶつかっただけで転倒する可能性も出てきます。狭い歩道や通路などに立てる際には脚を広げられないシーンもありますが、やむを得ない場合以外は脚をきちんと開いてから立てることが大事です。
センターポールはなるべく伸ばさない
脚パイプは3本を開いて踏ん張るのに対して、センターポールは1本だけ。伸ばせば伸ばすだけ剛性も安定感も落ちてしまいます。フェンスなどの障害物越しに撮りたいときなど、どうしても高さが必要なシーン以外ではセンターポールは伸ばさないのが基本となります。
そのため、通常はセンターポールを伸ばさない状態で適切な高さが得られる三脚を選ぶのがおすすめです。
一般的には一眼レフでは楽な姿勢でファインダーがのぞける高さ(=アイレベル)まで伸ばせる三脚がおすすめです。ただし、可動式のモニターを備えたカメラでライブビューを使う場合はもう少し低めでも不都合はないでしょう。
手ブレ補正はオフにする
カメラやレンズの手ブレ補正は、多くの場合、三脚撮影に対応していません。逆にオンのままだと誤動作を起こしてブレが発生する場合がありますので、原則としては三脚撮影時はオフにする必要があります。
ただし、機種によってはオンのままでも問題はなかったり、自動的に三脚用の手ブレ補正制御に切り替わるものもあります。お使いのカメラやレンズの使用説明書を参照してください。この辺りの詳しい話は私が以前まとめた次の記事が詳しいです。気になる方はチェックしてみて下さい。
忘れずに戻しておこう
また、三脚から外して手持ち撮影に切り替えたら、今度は手ブレが起きるわけですから、手ブレ補正をオンにし忘れないよう注意してください。
三脚を使ってもブレが起きる原因を知っておこう
三脚に固定していてもブレることはありえます。先ほど書いたような手ブレ補正の誤動作のほかにもさまざまな原因でブレが発生するのです。
原因はカメラ、三脚だけではない
フィルム一眼レフの時代にはミラーショックがいちばんの大敵でした。主流だったアルミ三脚はカメラから伝わったミラーショックで共振を起こし、それがカメラにもどってブレが発生するという現象が知られています。最近ではミラーショック自体がずいぶん軽減されていますが、それでもまだ完全には解消されていません。
ミラーレスカメラもカメラ自体が発する振動に起因するブレからは逃げられません。シャッター先幕の走行ショックによるブレは、ごくわずかながら解像感を低下させる原因になっています。
外的要因の場合も
もちろん、カメラ以外の要因でブレが起きるケースもあります。たとえば橋や木道といった揺れが起きやすい、あるいは振動が伝わりやすい場所では人や自動車がとおることでブレが発生します。交通量の多い道路際も、大型車が通過する際には地面から振動が伝わってきます。露光時間が長くなる夜景の撮影中にそばを大型トラックが通った結果ブレてしまった経験もあります。
また、風が強いときなどには三脚ごと揺れたり、雲台だけが揺れたりすることもあります。
そのほか、三脚の性能を上まわる重さの機材を載せてしまったり、脚やセンターポールのロックが締まりきっていなかったりなどがブレにつながるケースもありますし、シャッターボタンを指で押す力で三脚が揺れたり動いたりすることもあったりします。
プロも活用する三脚撮影時のブレ対策
さて、ここからは、三脚を使っても起きるブレを、どうやって防げばいいかを考えてみます。
電子レリーズやリモコンを使う
最も一般的な対策はレリーズを使う事です。この記事を読んでいる方はご存知かと思いますが指でシャッターボタンを押すことによって起きるブレの軽減に効果があります。有線タイプの電子レリーズのほか、赤外線やBluetooth通信機能を利用したワイヤレスリモコンもあります。
ワイヤレスタイプはカメラの端子カバーを開く必要がないため、防塵・防滴性をそこないません。Bluetoothタイプはやや高価になりますが、カメラ側の受光部の位置などを気にしなくていいのが便利な点です。
Bluetooth接続のレリーズについては以下の記事もどうぞ!
スマホアプリを使う
Wi-FiやBluetooth通信機能を使えばスマートフォン(対応アプリが必要となります)などと接続してリモコン撮影が可能です。電子レリーズなどと同様、指でシャッターボタンを押すことによるブレを防げます。
カメラとスマートフォンなどとの接続に手間や時間がかかる場合があったり、バッテリーを消耗する問題はありますが、各メーカーの純正アプリなら無料で使えます。また、リモートライブビュー機能を使えば手もとで画面を見ながら撮れるので、カメラのそばに立っていなくてもいいメリットもあります。うっかりレリーズを忘れてしまった時もスマホがあればリモコン撮影できるので安心。
2秒セルフタイマーを使う
電子レリーズなどを持っていないときの非常用として使えるのが2秒セルフタイマーを使う方法です。シャッターボタンは指で押さないとなりませんが、シャッターが切れるまでの2秒間で揺れはだいたいおさまるので効果は十分に期待できます。
ただし、シャッターボタンを押すときにはカメラを揺らさないように注意する必要があります。カメラに余計な力が加わらないようにシャッターボタンの反対方向からも押すようにするとブレを抑えやすいです。また、シャッターが切れるまでに2秒のタイムラグがあるわけですから、タイミングが重要なシーンには不向きとなります。
ミラーアップなどのブレ軽減機能を使う(一眼レフ向け)
ミラーアップ機能は、一眼レフで、あらかじめミラーを跳ね上げておけるもので、ミラーショックがおさまってからシャッターを切ることでブレを防げます。2秒セルフタイマーと組み合わせて利用するのが便利です。
ペンタックス機では2秒セルフタイマーを設定すると自動的にミラーアップ併用となります(シャッターボタンを全押しするとミラーアップ、2秒後にシャッターが切れます)。ニコン機の場合は露出ディレーモードで同様の動作となります。キヤノン機の場合はミラーアップを「する」にして、2秒セルフタイマーを設定します。当然ですがミラーレスカメラにはミラーはないので気にしなくてOKです。
ライブビュー機能を使う(一眼レフ向け)
一眼レフの場合はミラーを跳ね上げた状態での撮影となるライブビュー撮影に切り替えるのも効果的です。ミラーショックが起きないためブレを減らせます。
チルト式やバリアングル式モニターのカメラなら画面を見やすい向きに変えられるので、いちばん細い最下段パイプを縮めてセッティングすることも可能です。高さがあまり必要でないシーンにかぎられますが、風が強い条件で長時間露光をするような際には試してみるといいでしょう。
電子先幕や電子シャッターを使う
ミラーレスカメラや一眼レフのライブビュー撮影時に、シャッターショックによる微細なブレも抑えたいときに効果的なのが電子先幕シャッターや電子シャッターです。
電子先幕シャッターや電子シャッターは振動の原因となるメカ先幕を使用しないため、微ブレを根本から排除できます。特に微ブレが気になりやすい多画素機での撮影には欠かせない機能と言えます。
バッグなどを掛ける・吊る
三脚が軽く、かつ耐荷重に余裕がある場合は、カメラバッグなどを掛けたり吊ったりして重さを増やすのも効果的です。特に腐葉土などのふわっとした地面だと三脚が浮いたようになってしまって揺れやすくなりますから、重しを加えることで安定感を増すことができます。
最近はバッグなどを吊り下げるためのフックを備えた三脚もありますが、気をつけてほしいのは風が強いとき。バッグが風で揺れてブレの原因になったり、悪くすると転倒する怖れもあるからです。
揺れを減らすには吊り下げるよりも掛けるほうが有利だと思いますが、それでも揺れがおさまらないようなら撮影自体をあきらめたほうがいいかもしれません。風対策としては、風を受ける面積を減らすためにレンズフードやストラップを外すなども多少の効果は期待できます。
人や自動車の流れが止まる隙間をねらう
人や自動車が通る際の振動が問題になる場所で夜景を撮るようなときは、流れが止まるタイミングをねらってシャッターを切るのが基本です。周囲の通行人の様子、トラックやバスなどの大型車の動向を観察して、振動が少なくなるタイミングをねらいます。1回でうまくいかないかもしれませんので何度か繰り返してトライしてみてください。
また、感度を高めに設定して露光時間を短くするのも外来の振動によるブレを回避するには効果的です。
ブレ軽減効果のあるアクセサリー
載せる機材の重量バランスは、三脚撮影時の安定性を左右します。ここでは重量バランスを整えるのに利用できるアクセサリーを紹介します。
Lプレート
通常の雲台は縦位置にすると機材の重心が三脚の中心からズレてしまいます。三脚に十分な重さがあれば問題はありませんが、軽い三脚の場合は左右のバランスが大きく崩れ、不安定になりがちです。
Lプレート(L字プレート)は縦位置でも三脚の中心軸上にカメラを載せられるので、左右のバランスがとりやすくなります。事実上の世界標準となっているアルカスイス互換のものなら多くの三脚にも対応していますし、なにより着脱が容易になるので、三脚撮影が快適になります。
Lプレートを使うときはカメラの形状に合ったものを使う必要があります。Amazonなどでもある程度汎用向けのものから特定機種専用のLプレートも売られています。安いものでは2,000円~で入手可能です。
ロングプレート
ロングプレート(メーカーによって呼び方はさまざまです)はパノラマ撮影などに使用するアクセサリーですが、重さのあるレンズを着けたときの前後のバランスを調整するのにも役立ちます。Lプレート同様、重量バランスの最適化で三脚への負荷を減らせるので、安定感が増し、ブレを減らす効果が期待できるのです。
もちろん、こういったアクセサリーのせいで荷物が多くなり、余分な手間が増えるという問題もあります。が、重量バランスを最適化できる効果の分だけ軽い三脚を選べることになるのですから、トータルでの荷物の重さは減らせるはず。徒歩移動がメインの撮影には有利となります。
まとめ:きちんと対策すればブレは減らせる!
長くなりましたが、おぼえておいてほしいのは、
- 三脚は正しく使わないとブレることがある
- 三脚を使っても防げないブレがある
- 三脚の使い方次第でブレを減らすことができる
ということ。三脚を使えばそれですべて安心だと油断してはいけません。
その一方で、軽い三脚でも使い方次第でブレは抑えられます。上手に使いこなして快適な三脚撮影を楽しんでください。