25年ぶりにリニューアルした、”新”撒き餌レンズ!
キヤノンの交換レンズで最も有名なレンズは恐らく「撒き餌レンズ」の異名を持つEF 50mm F1.8 II でしょう。1990年の発売からその破格の安さと独特の味のある写りで人々を魅了してきた、いや、レンズ沼に引き込んできた魔性のレンズ。
このあたりのレビューは過去記事にも書いてありますので興味ありましたらご一読下さい^^
そのレンズがいよいよ25年の月日を経てリニューアルとなりました。
EF 50mm F1.8 STM。
光学系は先代と同じでありながらも、新しいAF機構、新コーティング、筐体の剛性アップなど数々の新機能が搭載されました。買わないつもりがやっぱり気になって気づいたらポチってました。。^^;
今回はそのEF 50mm F1.8 STMを先代のEF 50mm F1.8 IIと比べながらレビューしていきたいと思います。けっこうガッツリ目のレビューです。
その人の撮影スタイルによって、新機種と旧機種でオススメ度が変わるレンズかなぁと思いました。
EF 50mm F1.8 STMの新機能、旧機種との違い
まずはEF 50mm F1.8 STM(新型)のスペック上の新機能や先代のEF 50mm F1.8 II(旧型)との違いを見てみようと思います。
AF機構の違い
スペック上の一番大きな変化はココかなぁと思います。
旧型は昔ながらのAF機構でレンズの先端部分がジージーと回転しながらAFが動きます。一方、新型ではここ数年キヤノンが積極的に採用している制御性の高いステッピングモーター駆動の「STM」を採用しています。
旧型はゴリゴリとAFが動く感じに対して、新型はSTMの特徴であるヌルッと動いてピタッと止まる感じ^^; レンズ先端が回転しないのでC-PLフィルターを使う場面にも有効。
最終的なAFの精度やスピード自体は旧型とあまり変わりがないのですが、この動きの違いで体感的には速さとか快適さが感じられます。ただし、上位機種に採用されている超音波モーターのUSMと比べればかなり遅いです。
また、STMは静粛性も高いのでAF時の動作音も旧型に比べて大幅に静かです。ただ、無音かというとそうでもないので、静粛性を期待して動画用途に買うのはちょっと注意が必要(後述)。
最短撮影距離の違い
ここも大きな変化ポイント。旧型は最短撮影距離(最も近づいて撮れる距離)が45cm(レンズ面からは35cmくらい)でしたが、新型になりこれが10cm縮まって35cm(レンズ面からは27センチくらい)に変わりました。
同じ焦点距離で近くに寄れるということは大きく撮れるということで、お花や小物撮影など近くのモノを撮ることが多い人にはめちゃ有用。50mmという焦点距離で10センチ寄れるかどうかはかなり大きな違いです。
新旧それぞれのレンズにおける最短撮影距離で撮影してみました。新型の方が10センチ寄れることにより、かなり結果が違ってくるのが分かりますよね。
手放しに喜んでも良いポイント。
マウント材質の違い
旧型の外装はオールプラスチック製でしたが、新型では最も強度の必要とされるマウント部分(ボディーに装着する部分)が金属となりました。
レンズの剛性や高級感が大幅にアップしたため歓迎される声も多いです。
左が旧型、右が新型。
ただ、そのぶん重量アップしているはず。個人的にはこのような軽くて低価格なレンズに金属マウントは必要ないんじゃない?とは思います。強度のあるエンジニアプラスチックとかになってると良かったかなぁ。
最近出たキヤノンのAPS-C用超広角レンズのEF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STMはマウントにエンジニアプラスチックが使われています。
Canon 超広角ズームレンズ EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM APS-C対応 EF-S10-18ISSTM
レンズのコーティングの違い
今回の新型EF 50mm F1.8 STMの光学系(レンズの種類や組み合わせ)は旧型と同じです。つまり光学設計は25年前と同じ。シンプルな単焦点レンズはそんなに光学系がコロコロ変わるわけでもないのでしょうが。
だから、基本的な写りは旧型大きく変わりありません。ただ、屋外など光が様々な方向から射してくる場面ではコーティングの進化で明らかに描写性能が向上しています。
旧型の大きな欠点でもあり、長所でもあったのが逆光時のフレアによる解像力低下(長所として考えるなら雰囲気アップ)。これが最新のコーティングがなされることで逆光耐性が大幅に強化されています。良くも悪くもどんな光の状況でも無難な優等生的な写りをします。
絞り羽の枚数の違い
絞り羽の枚数や形はぼけの描写に影響します。旧型は今時珍しい5枚絞りだったのですが、新型になって7枚円形絞りに変わりました。
絞り羽が増えると一般的にボケが美しくなり、円形絞りは玉ぼけが丸く綺麗になります。全体のボケ感もやや滑らかになっているような印象。
↑F3.5。この状態からF4以降まで絞ると少し角が出てくる感じ。
ここも優等生的な写りに変化していますね。
光芒の数も変わってる
絞ったときの光芒(光条)の出方も大きく変わっています。
新型(EF 50mm F1.8 STM)で撮った夜景。絞り羽根が7枚なのでその2倍となる14本の光芒(光条)が出てギラギラ系。F16で撮影しています。
一方、旧型(EF 50mm F1.8 II)では絞り 羽根の枚数*2 の10本です。シンプルな落ち着いた感じになりました。
重さやフィルター径、フードなど
金属マウントやSTM化、胴鏡の剛性アップなどを行った結果、重量は旧型から30g(23%)増量して160gとなりました。
それでもかなり軽いレンズの部類になるのですが、旧型と比べるとちょっと重くなったなぁと感じます。また、全体的なサイズは旧型よりも全長が縮まり、胴径がアップしてややずんぐりした感じ。
フィルター径が違う
旧型から乗り換える人はフィルター径が変わっている点にも注意。52mmから49mmになりました。よってこれまで使っていたフィルターをそのまま装着することは出来ません。
一式買い換えるか、ステップアップリングを使う必要があります。
レンズフードも変更
また、別売のレンズフードも変更になっています(ES-68)。
旧型のレンズフードはアダプターリングを付けたりと面倒でしたが、新型はレンズにそのまま付けられるバヨネット式になっていて手軽に装着できるようになりました。
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ということで、光学系を除いてそれ以外の機能はほぼ総取っ替えって感じです。25年も経てばそうなりますよね^^;
ただし、いろいろ新機能を詰め込んで、しかもまだ出て間もないということからお値段も大幅にアップしています。。先代は1万円を切るという破格の安さでしたが、新型はまだ15,000円前後をウロウロしている感じ。
これでも一眼レフ用交換レンズとしてはかなり安いですが、先代と比べると5割増しですから、この価格差をどう考えるのかも人に寄りそうです。
解像力テスト
続いて解像力をテストしてみました。
光学系が変わっていないにもかかわらず、なんだか画質が良くなった!というレビューをいくつか見たので試してみました。
中央と外周部の画質の違いがすごいですが、絞ると豹変するレンズです^^;
チャートは以前タムロン SP24-70mm F2.8 Di VC USD のテストでも使ったISO12233という規格に沿ったテストチャートを使用しています。下記サイトで配布してあります(ありがたやー)。
A4に等倍プリントして画面中心と右上に配置、撮影しました。
下記の結果では赤枠で囲った部分(中心部、外周部)の2カ所を等倍で書き出しています。
照明は5000Kの高演色LEDを使いましたが、そんなに厳密にやっているわけではないです。まぁ参考程度にどうぞという感じで。。^^;
撮影はEOS 5D MarkIII、RAWで行い、Lightroom上でレンズ補正(歪曲、周辺光量補正)のみ行い他は初期設定のまま書き出しています。
詳細は下記リンクからどうぞ(下記リンクと同条件ではありません。。)
テスト結果
そんなに厳密に行ったわけではないですが、確かに新型のEF 50mm F1.8 STMは旧型のII型に比べてごく僅かに解像力が向上しているように感じます。
が、あくまでごく僅か。画質の向上感は別の所にありそうな気がします(後述)。
まずは開放(F1.8)の中心部と外周部をみてみましょう。
@開放(F1.8)
中心部:
外周部:
*表示されているのは縮小版です。PCで見ている方は画像をクリックすると等倍サイズをみることが出来ます。
開放の場合、外周部がモヤモヤすぎるので、中心部も解像しているように見えますが、非常に甘い描写です。ちゃんと解像するレンズだと「9」~「10」の目盛りくらいのラインは余裕で分離しているように見えます。
新旧を比べてもほぼ同じ写りであることが分かりますが、微妙に新型が良くなっているようにも見えなくはないです^^;
@F2.8
中心部:
外周部:
F2.8まで絞ると開放よりもややキリッとした描写になりました。
中心部はかなりカリッとした描写となり、「9」の目盛りは完全に分離して見えるようになりましたね。
外周部はまだモヤモヤしていますが、開放と比べるとマシになりました。像面収差かと思うのですが、このレンズは非球面レンズを1枚も使っていない男気溢れるレンズなので仕方ないですね。。^^;
新旧の写りはほぼ同じか僅かに新型のコントラストが高いかなぁという感じ。
@F5.6
F5.6まで絞ると劇的に写りが良くなるのがこのレンズの特徴。
中心部:
外周部:
リファレンスにキヤノンの誇る万能LズームのEF 24-105mm F4L IS USM を入れてみました。
中央部はさらにキリッと解像して10の目盛りはしっかり分離しています。10.5くらいかな。24-105mmは11まで解像しているのでLレンズの面目を保った感じですが、Lレンズに迫る解像度です。
驚くのは外周部。さっきまでモヤモヤしていた外周部がF5.6まで絞ると霧が晴れたかのようにカリカリに描写します。これだけ解像するとは私もテストしながらビビりました。外周部のモヤモヤはF2.8⇒F4.0とすることで急激に改善しF5.6くらいでピークになる感じです。
外周部の写りがイマイチであることでも定評のある24-105mmと比べるとその差は歴然。50mmF1.8が圧倒しています。
*24-105mmもF8くらいまで絞れば外周部もかなりキリッとします。念のため。。
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ということで、このレンズはF2.8くらいまではユルユルの描写で、ボケた柔らかい写真を楽しむために使うようなレンズですが、F4~5.6くらいまで絞ると別物に変わります。普通に高級ズームレンズと同等レベルの解像度をたたき出します。
さすが単焦点といった感じです。
実写レビュー
では、もうちょっと実写に寄ったレビューをしてみましょう。
ちなみに先代 EF 50mm F1.8 II のレビューは以下のリンクからどうぞ!
まずは開放の写真から。
RAWからLightroomで現像していますが、基本補正のみで大きく手は加えていません。また、明瞭度やシャープの項目は使わず出力しています。
工夫すれば開放も十分使える
さっきの解像力テストの結果を見てしまうと開放はちょっと。。と思ってしまうかも知れませんが、比較的近距離でボケを多用した写真ならあまり解像力の低下は気にならない気がします。
F1.8の大口径なので、自分から数メートル以内の距離感なら何も考えなくてもボケますね^^;
これも開放。前ボケを柔らかく入れてあげれば解像度の低下を上手にカモフラージュできます。ただし、開放で風景など遠景を撮ってしまうとモヤッとした感じになるので注意しましょう。
しっかり撮りたいならチョコッと絞って
このレンズは絞るほどにキリッとしてくるので、特別大きなボケが必要ないならF2.8くらいまで絞って撮るのも良いです。
F2.8。まだ甘さは残りますが優しくボケます。7枚円形絞りになったせいか全体のボケも旧型に比べて柔らかいような感じ。
これもF2.8↑。
F2.5。ふわっとしますね。
グルグルぼけがなくなった?
先代のボケは外周部にグルグルと渦を巻くようなボケがでるのが特徴だったのですが、新型ではこのグルグルボケがほとんど気にならなくなっています。
ところが新型ではこのグルグルボケがあまり気にならないんですよね。。^^; このボケはコーティングでどうにかなるようなモノでもなさそうなんですが。。撮影条件によるのかもしれません。
逆光耐性が大幅に向上
すごいと言っても先代との比較ですが。でも他のレンズと比べても悪くないと思います。
F2.2。例えばこんな逆光の場面、先代なら盛大なフレアが出て解像感が落ちることこと間違いなしですが、新型になりレンズコーティングが施されたことで逆光にも強く、コントラストのしっかりした写真が出てきます。
色乗りも良くなってる
また、逆光時に限らず全体的に色乗りやコントラストが改善している気がします。旧型はちょっと色が抜けたような描写をしていましたが、新型になって普通のレンズと同じようなハッキリした発色の傾向になっている感じです。
新型になって画質が良くなった!と感じている人が多いのはこの辺りが理由なのかもしれません。解像力テストでは大きな違いが出なかったわけですが、屋外の様々な光線のある環境の場合はこの新型コーティングが上手く効いているのかもしれませんね。
しっかり撮りたいときは絞る
テストでも分かったようにF5.6では非常にシャープになります。形や輪郭を出したいならこれくれらい絞ってみましょう。
F5.6。
ただし、F16くらいまで絞ると回折による小絞りぼけが出て来るので注意。7枚絞りによるギラギラの光芒を出してみようと思い、F22で夜景を撮ってみました。
小さくてわかりにくいかも知れませんが(クリックすると多少拡大します@PC)、ギラギラと光源から光芒が出るようになりましたね。
*この写真だけ小絞りぼけ対策で現像時にシャープ強めに掛けてます。
AFは速くはない、ただし静かになった
レンズ名に「STM」を冠しているように、AF機構がステッピングモーター駆動に変わっています。
これによりAFが早くなったかといえば、旧型のジリジリAFとほぼ同じくらいの速さであまり変わりません。上位機種の超音波モーター(USM)と比べると全然遅いので、高速移動する動体にAIサーボなどで追従させるのは厳しいかも。
MFがやりづらい。。
また、MF(マニュアルフォーカス)に関しては唯一と行って良いほど改悪になっている感じがします。
新型はMFも電子制御になっているのに対して、旧型はアナログです。ファインダーを見ながらフォーカスリングを回す感触は個人的には旧型の方が直感的で良かったです。
動作音は静か
動作音はワリと静か。旧型のジリジリAFと比べれば劇的な静音化^^; とはいえ、無音といえるほどではなく音はそれなりに聞こえます。
レンズの先端も回らないので使い回しは非常に良くなっていると思います。また、STMはヌルヌルと動くので体感的には速く感じるかもしれません。
ヌルヌルと動くAFは動画を撮る際にも違和感が少なく使いやすいです。AF動作音は内蔵マイクで十分拾える程度の大きさなので、音にこだわりたいなら外部マイクの使用が必要です。
ちょっと簡単に比較動画を作ってみたので参考にしてみて下さい。
まとめ:結局買うべきなの??
ということで気づけばかなりガッツリとレビューしてきてしまったワケですが、全体的に褒める感じのレビューになりました^^;
そりゃ、お値段50%もアップして悪くなってたらブーイングですから。。
じゃぁ、このレンズは”買い”なのか?
と言われると、個人的にはそうでもない。。と言わざるを得ません。
いままでさんざん褒めてきてなんだよそれは?と思うかもしれませんが、このレンズ、リニューアルしたことで大幅に機能が改善したことで「面白くない」レンズになってしまったんですよね。
旧型の良さは安さと共に独特の”クセ”がステキだったワケです。その個性溢れる”クセ”の大部分がリニューアルによって潰されてしまったわけです(開発の流れとしてはあるべき姿だと思います)。
というわけで、その人のスタイルによって”買い”なのかどうかが決まります。
入門者には ”買い” !
写真を始めてキットズームの次に手頃な単焦点を探している人ならこのレンズは恐らく”買い”です。旧型ではなく新型を買うべき。
キチンと撮れる範囲が劇的に広がったので、値上がりしたとはいえこの価格でこのスペックのレンズが買えるなら間違いなくお得でしょう。ぜひバシバシと第一線で活躍させて欲しいです。
このレンズのメインユーザーは入門者であるでしょうから”買い”に当たる人が多いはず。ただし、APS-Cユーザーは50mmは35mm換算で80mm程度の画角になるため、室内などがメインなら長すぎる(望遠すぎる)かもしれません。
同じような価格帯のEF40mm F2.8 STMや、EF-S24mm F2.8 STMも検討してみる価値はありそうです。
すでに良いレンズを持っているなら旧型を確保だ!
すでに大口径ズームや上位の単焦点レンズを持っていて、サブやお散歩用に軽い単焦点を探している人なら、このレンズは個人的にはあまりオススメしません。
このレンズはクセを潰したバランス型レンズです。すでに上位レンズを持っているならただの”普通の写りをする軽いレンズ”にしかならない可能性があります。。
それよりは、旧型の良くも悪くもクセがめちゃ残っているレンズの方が楽しく写真を撮れる機会が増えると思います。しかも安いし!
本気で撮る時はしっかりしたレンズ、ちょっと気晴らしに行くときは旧型のEF 50mm F1.8 II みたいな感じで。普通の写りをしないレンズなので(笑)、撮っていると今まで気づかなかったヒラメキが出てくるかもしれません。
旧型のレビューの時も書きましたが、本当に撮るのが楽しくなるレンズでした。個人的には新品がなくなる前にもう一本確保しておきたくなるくらいです^^;
*追記:旧型は徐々に価格が上昇してきて新品価格は新型と逆転しそうな勢いですね。。
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ということで長々とレビューしてきましたが、購入の参考になれば幸いです^^