飛行機撮影の魅力とは何か?
1日に数え切れないほどの飛行機が世界中を飛び回っています。私も今、その中の1機の飛行機の中でこの文章を書いています。
「飛行機撮影の魅力とは何か?」
それは、世界中を結ぶ100年前までは成し遂げられなかった非現実的な世界を作りだす飛行機を被写体として考えることだと思います。世の中に空を飛ぶモノは限られています。その中でも最大級といえる飛行機を撮るという特殊な世界なのです。非現実とはいえ、実際は空港に行けば離着陸する姿を簡単に見られる身近な存在です。
今回はこれから飛行機撮影を始める方向けに、空港で飛行機を撮影することを想定した撮影基礎をご紹介していきます。
なお、撮影に必要なおすすめ機材などは以前の記事にまとまっていますのでこちらの記事もどうぞ!
飛行機撮影で有効なカメラの構え方やアングル
飛行機撮影のコツにはレンズの選択やカメラの設定、構図など様々なポイントがありますが、最初に覚えておくべきなのはカメラの構え方です。
上半身全体で飛行機の動きに対応する
飛行機撮影は基本的に動いている被写体を撮影することになります。そのため、カメラを構える姿勢も他の撮影スタイルとは変わってきます。
動いている飛行機に対して効果的な構え方は、足を肩幅ほど開き、腰から上の上半身を左右に振るようにすることです。
機体から遠くなるほど飛行機は遅く見えますが、空港周辺では機体までの距離が近く、高速の被写体を追いかける場面も出てきます。そのような時に、足元をしっかり固定し、上半身だけ振って撮影することで、写真撮影に安定感が出て、高速の被写体でもブレずに撮影することができます。
カメラのアングルも大事
基本的に目線の高さ(立った状態)で撮影することが多い飛行機撮影ですが、機体までの距離が短い場合、ローアングル(下からあおる様に撮影する手法)やハイアングル(上から見下ろす様に撮影する手法)が効果的な場合も多々あります。
例えば、航空祭やイベントなどでの地上展示の飛行機の際には空港デッキとは異なるアングルが容易に狙えるので効果的な手法になります。
これらの止まっている機体は目線の高さ以外から撮影することにより普段とは異なる角度で機体をとらえることができ魅力が増します。地上展示の場合は、動いている機体と違って撮影する時間が限られないため、色々な画角で撮影することに挑戦してみましょう。
飛行機撮影ではシャッタースピード優先モードを使おう
日中の撮影は1/1000秒が目安
飛行機撮影では、動いている機体を撮影することがほとんどなため、シャッタースピードが非常に重要になってきます。
シャッタースピードは手ブレ補正を考慮しない場合、一般的に1/焦点距離(○○mmなどの数字)でブレがなくなるとされています。例えば35mm判換算で400mmのレンズを使う場合は1/400秒以下が安全なシャッタースピードです。ところが、飛行機撮影の場合はカメラ自体も左右に大きく動かしながら撮影することもあるため、安全をみて1/1000秒を目安に調整するのがいいでしょう。
カメラのモードはシャッタースピード優先モード(Tv、S)に設定し、メモリを1/1000に設定します。1/1000ほどの速度があると背景もブレず、機体もしっかり止まった美しい写真に仕上がります。
流し撮りにも挑戦してみよう
飛行機撮影には、あえて背景だけをブラし、被写体をブラさない「流し撮り」という手法も効果的です。背景に建物や地上が写り込む場合、流し撮りを使うことでスピード感や動く飛行機の臨場感を出すことができます。
ただし飛行機の速度が上がっている離着陸時のみ効果的です。駐機場に向かう機体などゆっくり動く機体にはあまり流し撮りの効果を感じることができません。
流し撮りはシャッタースピードを落とすほど難しくなります。最初は1/80秒ほどで挑戦し、慣れるにつれてシャッタースピードを落としてみましょう。私の経験では、1/30秒を下回った頃から急激に難易度が高くなります。流し撮りは練習あるのみなので沢山練習してみましょう。
飛行機撮影の基本設定とは?
先ほどシャッタースピードの話を説明しましたが、飛行機撮影にはF値やISO感度にも基本とする設定があります。まずそれぞれの役割について説明いていきます。
シャッタースピード
「シャッタースピード」は、シャッターを開けている時間で、シャッターを開けている間は光を取り込むため、シャッタースピードを落とすと動く被写体はブレ、シャッタースピードを上げると動く被写体も止まります。
シャッターを開けている時間が長いと光を取り込む量も増えるので、シャッタースピードを落とすことで多くの光を取り込むことができ、夜間撮影にも対応することができます(ただしぶれやすくなる)。
絞り値(F値)
「絞り値(F値)」は、写真のボケ具合(ピントが合う範囲)を決める役割を持ちます。
ボケは被写体が近く、背景がある場合に発生しやすいため、遠くを撮影する飛行機撮影ではボケを感じることが少ないです。そのため飛行機撮影では絞り値は写真をクッキリさせるために設定すると考えても良いでしょう。
絞り値は値を大きくするほどピントの合う範囲が広くなり、画像全体(特に端の方)をクッキリさせる効果があります。開放F値(そのレンズで設定できる一番小さなF値)から1~2段程度絞った数値にすると画像がよりクッキリした綺麗な作品に仕上がります。(1段とは普通のカメラでメモリ3クリック分。開放F値がF4のレンズなら一段絞るとF5.6になります)
ただし、絞り値はF16や22など大きくしすぎると小絞りボケ(回折現象)という副作用が発生し画質が悪化するばかりか、F値を大きくすると取り込める光の量も減少してしまうので注意しましょう。
「段」の詳しい話はこちらのエントリーにまとまっています。
ISO感度
「ISO感度」は、曇りや夜間など光量が少ないときに取り込んだ光を電気的に増幅させる役割を持ちます。
ISO感度を上げることで、少ない光でも明るい写真に仕上げることが出来るため、シャッタースピードや絞り値を上げることができます。しかし、ISO感度は数値を上げるほど画像にノイズが目立つようになるため、特に日中の撮影ではあまり上げない事をおすすめします。
これらの基本的な役割を踏まえて、飛行機撮影のおすすめ設定について考えてみます。
1/1000秒、F8、ISO100~200が理想的
結論からいえば、飛行機撮影で理想的なのはシャッタースピード1/1000秒、絞り値F8、ISO100~200です(晴れた日中の場合)。以下にその理由を紹介していきましょう。
シャッタースピードに関しては前述の通り、カメラの動きや飛行機自体のブレを抑えるために1/1000程度まで上げることをおすすめします。
次に絞り値(F値)。飛行機写真の場合、フレームいっぱいに飛行機を入れることが多くなるため(雲や景色と絡めた情景写真は除きます)、画像の隅までクッキリさせる必要があります。そのため先ほども説明した開放値から何段階か絞った状態にすることで機体全体がクッキリした画像を撮影することができます。多くの望遠ズームの開放F値はF5.6程度なのでそこから1段絞ったF8程度を基準とすると良いでしょう。
そしてシャッタースピード1/1000秒と絞り値F8の組み合わせに対して、適した明るさの写真に仕上げてくれるのがISO100から200の間という結果になります。写真の明るさの微調整はISO感度で行うと良いです。またほとんどのカメラはISO100~200が最もノイズの発生しにくい設定です。
ただしこの設定は、晴天で太陽光線がしっかり機体に当たっている「順光」という状態の時の設定なため、曇りの日や逆光などの撮影ではまた違った設定をしなければなりません。しかし、飛行機撮影で最も美しいとされるのは晴天・青空・順光という条件が揃った写真のため、この設定をまずは基本の設定として覚えておきましょう。
マニュアルモードで安定した撮影を!
はじめは前述の通り、シャッタースピードだけを任意に決定するシャッタースピード優先モード(Tv、S)を使うのが良いですが(この場合はF値やISOオートの場合はISO感度もカメラ側で自動設定される)、慣れてきたり、晴天・青空・順光という好条件の場合はマニュアルモード(M)を使うのが良いでしょう。
マニュアルモードは絞り値、シャッタースピード、ISO感度をすべて手動で固定するモードなため非常に撮影が安定します。
くもりや逆光の時は?
くもりの日は晴れた日に比べて暗いのでシャッタースピードと絞りは変えずにISO感度をISO200~400程度に上げると良いでしょう。場合によってはシャッタースピードを落とすことで明るさを保てます。
逆光の場合は暗くなった機体に露出を合わせるのか、あえて機体を暗くしてハイライトを優先するのかで適切な設定が大きく異なります。マニュアルモードで都度設定するのは難しいので最初のうちはシャッタースピード優先モードで撮影し、撮影結果を見ながら露出補正を使い明るさをコントロールするのが簡単です。
逆光で暗くなってしまった機体を明るくするなら+1~2EVくらい、あえて全体を暗くして撮影するなら逆に-1EVほど露出補正してみても良いでしょう。
AIサーボAF(AF-C, C-AF)を使おう!
飛行機撮影では、動いている機体を追うため、常にピント合わせが必要になります。
基本的にカメラの設定はCanonであれば「AIサーボAF」、Nikonでは「AF-C(コンティニュアスAFサーボ)」を使用しましょう(他のメーカでもAF-C, C-AFというモードがあります)。このモードでは、シャッターボタンを半押し状態の間は相手が動いても常に被写体にピントを合わせ続けてくれます(AF枠を被写体に合わせ続けておく必要はある)。
動体撮影には必須のモードで、AF性能の良いカメラの場合は予測の難しい不規則な動きにも対応してくれます。
飛行機撮影では、予測不能な動きというのはあまりありませんが、ワンショットAF(Nikonや他メーカーではAF-S, S-AF)でピントを固定してしまうと飛行機の距離が変化した場合ずれてしまうのでAIサーボAF系のAFモードがオススメです。
止まっている機体などにはワンショットAF系のAFモードがオススメです。AIサーボAF系にしてしまうと、動いている物にピントを合わせようとするため、静止物には向いていません。
スポッティングショットか、アクションショットか
飛行機写真には二つのジャンルに分かれます。
一つは「スポッティングショット」、もう一つは「アクションショット」です。
スポッティングショットとは
「スポッティングショット」は、図鑑に載るような飛行機の真横の形式写真のことを示します。
世界各国には「スポッティングショット」を極める「スポッター」と呼ばれる人が多数存在し、飛行機撮影の基本とされています。「スポッティングショット」にも人によって細かいこだわりがありますが、これに関してはまた別の記事に掲載しようと思います。
基本的には「青空」「真横」が「スポッティングショット」です。
アクションショットとは
「アクションショット」は、「スポッティングショット」よりも自由度が高く情景的な写真の事を示します。
自由度が高いため、感性が求められるスタイルでもあります。2枚ほど作例をご用意していますが、斜め前から飛行機に思いっきり寄せたショットや真後ろから着地の瞬間を撮影した作品まで、「アクションショット」には様々な工夫ができます。
2つのスタイルの良いところを取り入れる
二つのジャンルがありますが、どちらか一つに絞る必要は全くありません。むしろどちらのスタイルでも撮影しておくことで、バリエーションが増え自分で見返した時に見とれてしまうものです。
私自身のスタイルとしては、遠征先など見慣れない景色がある場合は、「アクションショット」で撮影を重ね、ベース空港(地元の空港)などで珍しい機体が来る場合は、「スポッティングショット」で形式写真をしっかり撮影します。
このようなスタイルを取ることで遠征先では、その土地らしい作品を残すことができ、珍しい機体に関しては記録として残すことができるのでオススメです。
余白バランスに注意!
スポッティングショット構図の注意点は、「上下左右の余白を均等にする」ということです。
機体が上や下に偏ってしまう事や、左右に散らばってしまってもスポッティングショット的には美しくないとされています。なるべく機体の中央を狙い、画像の中心に機体が来るようにしましょう。
「アクションショット」でも余白を考えることは重要です。しかし「アクションショット」の場合は、機体を真ん中にする(日の丸構図)とかえって魅力が減る作品になる時があります。
アクションショットでは、三分割構図など様々な構図を使いバランスを考えましょう。
基本の構図パターンはこちらのエントリーにまとまっています。
飛行機の魅力を引き立てる構図たち
飛行機撮影において使える構図を説明していきます。
「スポッティングショット」の基本は、青空真横という絶対的な条件がありますが、「アクションショット」は、選択肢が多いためこれからご紹介する使いやすい構図を参考にして頂ければと思います。
機体を端に寄せる
風景と絡めたい時に効果的な構図です。作例では雲を際立たせるために飛行機を左下に配置しました。
進行方向にスペースを空けよう
バランス面で注意したいのは、機体前方にスペースを空けることです。
飛行機写真では機体の進行方向にスペースを与えることで構図に安定感ができます。スペース部には山や海、雲など目立つものを配置すると美しい情景写真に仕上がります。
大胆に切り取る
迫力を出したい時に効果的な構図です。作例では、正面からと真横からをご紹介していますが、どちらの場面でも効果的に使える構図です。
真横で機首部分をアップすることで翼やエンジンが写らなくなりますが、飛行機という巨大な存在を表現することができます。正面からの場合、翼端を切ることで胴体が強調され、飛行機が迫ってくる迫力を表現することができます。
背景に景観を入れる
飛んでいる姿を撮る場合は青空が背景になることがほとんどですが、着陸寸前や離陸直後では、場所によって背景が綺麗に入る場合があります。
作例では、シドニーの街並をバックに着陸する飛行機を撮影しました。望遠レンズを多用する飛行機撮影では、このような「圧縮効果」も期待できるため、作品の魅力を増すことができます。
背景に山があったり、自分が滑走路より高い位置に居る場合は、積極的に背景と景色を絡めてみましょう。
夕景を狙おう
夕暮れ時は人の心を動かす力がある幻想的な時間帯です。
オレンジ色に染まる空と飛行機の相性は良く、シルエットになって浮かぶ飛行機の姿はとても絵になります。タイミングが良ければ夕日の中に飛行機が入るといった瞬間も撮影できます。
冬場は空気も澄んでいて日の入りも早いため、日中の撮影の締めに夕暮れ撮影というプランも立てることができ、オススメです。
夜の空港も魅力的
日が暮れた後も空港は動き続けます。夜の空港は建物の光や滑走路のライトにより、煌びやかに写真を彩ってくれます。
夜の撮影ではできるだけ「光源」を入れるように意識しましょう。様々な色彩の光源を作品に取り入れることで、夜でしか表せない幻想的な作品に仕上がります。
飛行機撮影で使う技法として「バルブ撮影」と「流し撮り」が挙げられます。
「バルブ撮影」を使うときは、飛行機が止まっているとき(駐機場や停止中)に効果的で、低感度を維持したまま明るい写真を撮ることができます。「流し撮り」では、走行中の機体をターゲットとします。離着陸時では機体をピタリと止めることで、他の光源が一直線に光跡を残してくれます。この光跡が作品に大きな効果をもたらしてくれます。
空港展望デッキに撮影しに行こう
設定や構図について説明したところで、撮影現場で簡単に使えるポイントを2つほど紹介します。
幸いなことに日本国内空港ではほとんどの空港に展望デッキが存在します。日本最大の旅客数を誇り都心からのアクセスも旅行な東京国際空港(羽田空港)でも、それぞれのターミナルに展望デッキが存在し、国際線ターミナルは24時間オープンと1日中飛行機撮影を楽しめる環境です。
ただし、空港の展望デッキにはフェンスやワイヤーが設置されているところがほとんどなのでそれを回避する方法を考えなければなりません。
ワイヤーにできるだけ近づいて消してしまう
ワイヤー式の展望デッキの場合、レンズをできるだけワイヤーに近づけ、ワイヤーとワイヤーの間から撮影するとワイヤーが目立ちません。特に望遠レンズはレンズ面に近いものは大きくボケる性質があるためワイヤーに近づいて撮影すればたとえワイヤーが映り込んだとしてもボケてほとんど目立たないのです。
ワイヤーから離れてしまうと画像にワイヤーが写ってしまうことが多々あります。なるべくレンズをワイヤーに近づけることで望遠レンズの効果でワイヤーをないものと見立てます。
また、ワイヤーを写したくないばかりにワイヤーの間にレンズを入れ込むことはやめましょう。機材にダメージとなるばかりか、ワイヤーが変形したりする危険性(空港施設の損壊)がありマナー違反です。
水平に気をつけよう
次の注意点として「カメラの水平に気をつけよう」です。飛行機が離着陸する際は、飛行機の角度が地上に居るときと変わります。
どちらも機体の線が斜めになるため、自然とカメラもつられて斜めになりがちです。カメラの水平は常に地平線や水平線を意識し、カメラが機体と一緒に斜めにならないように意識しましょう。
以上の二つを覚えるだけで飛行機の写真が美しくなります。
まとめ
これまで飛行機撮影の基礎としてご紹介してきましたが、魅力を感じて頂けましたでしょうか。
風景写真やポートレートなどと違って時間をじっくりかけられないのも特徴の一つです。前述の通り、飛行機撮影は非常に特殊な撮影スタイルだと思われます。最初は難しく感じることもあると思いますが、慣れていく内に楽しさが増してきます。
私の周りの友人も「飛行機撮影は中毒性がある」とよく話しています。
最初は空港の展望デッキからスタートし、姿勢良くカメラをしっかり固定して、シャッタースピードを落とさないように注意し、状況に応じて構図を決め、撮影に臨みましょう。自分の想像する写真を撮れたときの気持ちよさは他の撮影スタイルと比べても大きいと思います。そういった意味でも飛行機撮影は、自分を出しやすい写真撮影と言えると思います。
あなたも空港へ足を運んで飛行機撮影を楽しみませんか?
撮影に必要なおすすめ機材などは以前の記事にまとまっていますのでこちらの記事もどうぞ!