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報道カメラマン(エンタメ芸能系)が現場で撮影前にチェックする最低限のこと3つ

更新日: by 桜井 恒二

映画の舞台挨拶や街中のイベントで大きなカメラ機材を持つカメラマンを見かけたことがあると思いますが、そのような人の多くは報道カメラマンと言われる人たちです。写真を撮ることは同じでもそのスタイルは作品撮りをするような写真家とは大きく異なります。今回はそんな報道カメラマンが撮影時に気をつけているポイントについてご紹介します。

報道カメラマンが教える現場の世界

映画の舞台挨拶や街中のイベントで、でっかいカメラ機材を持つカメラマンが芸能人をパシャパシャ撮っているのを、見かけたことがある人もいらっしゃるでしょう。

あのカメラマンさんたちはどんな写真を撮っているのか? 撮影前にどんなことをしているのか? 今回その一部を、報道写真の撮影歴5年ちょっとの筆者(マスコミ業界では撮影歴20年30年の大戦士様がたくさんいらっしゃるので筆者はペーペーのヒヨッコ同然です、ホントに)が少しだけお伝えします。

※2つだけ注意。ここでは、報道カメラマン(主にエンタメ芸能系)がイベント・会見取材の撮影を行なう前に最低限チェックしている一般的なことについて話します。ただ実際の現場では各メディアごとに掲載したい写真が異なり、カメラマンさんによって撮影スタイルやこだわりも違います。そのため、全てのメディアのやり方にスッポリ当てはまる話、というわけではありません。またここでお伝えする内容は、筆者の常用機材である「ニコンの一眼レフカメラ」をもとに、多くの話を「マニュアル設定前提」で進めていきます。ご了承のほどを。

1. ベーシックな考え方:報道写真は情報素材。基本に忠実な撮影を

報道写真は情報です。現場で起きたことを端的に示す視覚的情報です。時には写真だけで読者を引っ張ることもできます。週刊誌さんの記事などが分かりやすいですが、たった一枚の写真が世間を揺るがすスクープになることもあります。

そして記者さんの書く文章と密接にリンクしていることが求められます。撮った写真は後に編集者さん(記者と同一であることも)が記事内容と照らし合わせて、使うべき写真をチョイスします。内容に沿わなければ、カメラマンにとってキレイに撮れた会心の写真が外されることもあるでしょう。

報道カメラマンと写真家は違う

報道写真、メディア向けの写真はあくまで情報です。記者さんの書く文章やテレビ局の映像素材と並列の立場です。それ以上でもそれ以下でもありません。アート作品を撮っているわけでもありません。あくまで「素材を撮っているんだ」という意識が大切だと思います。

そうじゃないと、自信作をすんごいトリミングされたり魔改造を施されたりする度、感情的になっちゃいます。素材の最終的な編集権は、主に編集部にあることを忘れちゃならんのです。

だから報道写真は、情報素材を撮る商売だと個人的に思っています。短いキャリアで100%自分の満足がいく写真を商売にしたい方は、いわゆる写真家になることをオススメします、はい。

と、いうことで本題。報道写真では、一にも二にもまず、基本に忠実であることが大切だと思います。

基本に忠実とは、対象となる人の顔や商品が写真の枠外に見切れずに収まっていること。露出やホワイトバランス(以下、WB)が人の目に適正と判断されるもの。言いかえれば、視覚情報として適切なものです。

報道カメラマンはそれをできるだけ「あらゆる環境で」撮ることが要求されます。真夏の炎天下でも、室内の夜みたいにまっ暗な場所でも、読者の目に耐える写真が撮れること。そのために、撮影前の準備がとても大事になってきます。

上記画像は取材時のイメージ例。ストロボなしで、まっ暗な環境で撮らないといけないこともたまにあったりなかったり。あなたならどんな工夫をして撮りますか?

2. 撮影ポジション:有利な条件のポジションを確保する

ここから、報道系のカメラマン(スチール)が最低限やっていることをお話していきます。報道カメラマン(芸能向け)が最低限やっていることは主に3つ。有利な撮影ポジションの確保適正な露出適正なWBの調整です。

カメラの性能よりポジションが大事

まずは撮影ポジションです。取材が許可された範囲内で、撮影に適したポジションを決めていきます。どんな名のあるカメラやレンズを持っていても、被写体が撮りにくいポジションからでは良い画を撮ることは難しいでしょう。だからいい画を撮りたいカメラマンさんはポジション取りに積極的です。

メディアが殺到することが予想される会見取材などはとくに、多くのカメラマンが列をなし(先着順である場合)、撮影場所を争います。国際的な知名度の高いイベントには、3時間以上前から並ぶカメラマンさんも少なくありません。

そしてポジション撮りの際に気をつけたいことの一つは、カメラから被写体までの焦点距離。自分の持っているレンズの範囲内で程よい距離を見定め、他のカメラマンの背中や頭部、機材がレンズ内に写り込まないようにしたいところです。大体どの現場でも、一番良いのはカメラマンが陣取れる最前列ということになってくるでしょう(脚立などを使って後ろから撮るカメラマンさんなどもいますが)。

3. 露出:どんな環境でも適正露出に

撮影のポジションを決めたら、今度は露出(明るさ)とWBの調整です。今回は先に、露出について説明します。

必要なことは、その現場における適正な露出を定めることです。筆者の場合、なるべく被写体となる人の顔の位置が適正な露出になるように心がけています。調整は大体シャッタースピード、ISO感度(以下、感度)、絞りの順で行なっています。

上記画像は露出の調整イメージ例。露出が低いと全体的に黒くなり、高いと白くなりがち。現場の雰囲気などに合わせて、人の目で見るのに適した明るさを考える必要があります。迷ったら、対象となる人や物が適正な明るさになっているかどうかで判断。

高感度耐性が重視される理由

先にお伝えした撮影のポジションは、適正露出に合わせるためのカメラ設定にも影響します。被写体から遠いほど焦点距離が遠ざかり、ブレのない写真を撮るために、シャッタースピードを上げる必要が出てきます。

シャッタースピードを上げれば、カメラが光を吸い込む時間が少なくなります。そこで明るさを補うために今度は感度を上げなければありません。感度を上げれば上げるほど明るくとれますが、今度は感度を上げすぎるとノイズが生じ、いわゆるザラつきのある写真になってしまいます。「露出は適正だけれども写真がザラついていて、読者の鑑賞に耐えない……」となると辛いところ。だからこそD5(Nikon)のような高感度耐性の強いカメラがプロ向け機種として求められる傾向です。

現代のデジタルカメラなら、十分なシャッタースピードがあれば髪の毛や動物の毛の一本まで正確に捉えることが可能。しかし暗い場所では光を吸い込む時間を長くするために、シャッタースピードを遅く必要も出てくる。自分のカメラの、ブレにくいギリギリのシャッタースピードは要暗記を。

だからこそ、「撮影技術や機材に自信がないから」「本職のカメラマンのゴッツい機材がスゴいから」と気後れして現場で後ろにいく方にほど、前に出て少しでも有利な撮影ポジションを確保することをオススメしたいです。

もちろん絞りを最大開放値に近づけて(マニュアル設定で)調整することもできますが、筆者は一番最後に調整します。写真を明るくするために調整するというのは少ないです。理由は、写真一枚あたりの情報量を増やすために(ボカシ過ぎないために)、なるべくF8〜F11の間で撮りたいと思っているからです。目的や必要性がないかぎり、F1.4やF2.8で撮ることもめったにありません。最大でもF5.6くらいまでです。ただ絞りの理想値は、カメラマンさんによって意見が分かれるかもしれません。

4. ホワイトバランス:自然な色味を考える

イベント取材などでは、「ホワイト出します!」「ホワイトです!」と広報担当者がステージ上で白いスケッチブックや白紙をカメラマンの前に提示します。これは「その真っ白な紙に合わせてカメラのWBを調整してくれ」という意味です。一般的に適正なホワイトバランスは、その提示された紙の白面が真っ白になる状態です。黄色くなったり青みがかった状態は真っ白に見えるまで調整していきます。

「WBの調整の考え方がよく分からん!」という方はこちらのエントリー(自分だけの色を作る、見つけるためのホワイトバランス補正の設定法![WB補正])をご参照ください。

WB補正を使いこなす
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最適な一枚でなく繋がりのある写真を

筆者の場合は、WBを「色温度設定」でマニュアル調整しています。色温度のK(ケルビン)という単位の目盛りをいじって、青色(ブルー)と赤色(アンバー)の間で適正なWBに合わせていきます。筆者はおおよそ、2700K(青色っぽくなる)〜5000K(赤みが強い。黄色っぽくなる)の間で調整し、色温度の値を一度決めたら、取材終わりまで変えません。WBは値を変えると写真全体の色味が変わってしまいます。写真を複数掲載する場合、変更したことが読者にモロに伝わるため、不自然な印象を与えかねないからです。

上記画像は、取材時のWBの調整イメージ例。左は白く(露出がやや高いですが)、右はやや青みが強いです。真っ白な紙が白く撮れるように色温度を調整していきます。

色被りはWB補正で

色温度を変更しても色味に違和感がある場合、今度はWB補正で紫色(マゼンタ)と緑色(グリーン)の間の調整を行ないます。WB補正は、主に撮影場所が白色電球を使っている場合に調整することが多いです。目が慣れてくると分かるのですが、白色電球の光は緑がかっているのです。

上記画像は白色電球のイメージ例。白色電球はうっすら緑がかった色になるので注意。紫色(マゼンタ)の色味を足して調整を。WBは「色温度設定」画面で自由に調整できます(ニコンの場合)。

5. おまけ:報道写真は目が大事?

以上、報道カメラマンが最低限やっている3つのこと、撮影ポジション・露出・WBの話でした。これでは筆者の私感的なお話。報道写真は目が大事、という考えです。

報道写真で人を撮るとき、目が開いた状態でないと使い物になりません。シャッタースピードが早いとまばたきして目が閉じたり半目になったりしたものが撮れますがこれはNGです。時々目を閉じた写真を使うものはあります。それは「沈鬱な表情」だったり「黙祷している最中」だったりと、目を閉じている意味が求められるでしょう。そうでないかぎり、原則的に目を開いているものが使われます。

報道カメラマンの技量を示すバロメータの一つになるのが、被写体となる著名人の涙(あるいは潤んだ瞳)や一瞬の表情を逃さず撮れるか。記者さんの書いた記事のインパクト(説得力)が変ってくるためけっこう重要かなと個人的に思っています。

スペックの良いカメラであれば、肉眼では分からないけれど、実は相手が泣きかけて瞳が潤んでいると確認できることがあります。潤んだ瞳を撮るためには、露出が適正でなければなりません。写真が明るすぎて白飛びしたり、逆に暗すぎて黒つぶれしたりしていては、瞳の潤みがキレイに撮れないかもしれません。

涙が流れるのは一瞬です。頬を伝う涙はその被写体の体の動きより早く、またすぐに拭き取られてします可能性が高いです。だからシャッターチャンスはほんの数秒しかないかもしれません。運の要素もあり、撮影の角度によっては涙が隠れ、見えないかもしれません。そんな状況下で涙を逃さず撮れるかどうか。技量が問われるでしょう。

さいごに

最初の繰り返しになりますが、筆者より撮影が上手なカメラマンさんはゴマンといます。

「カメラマンになりたい!」「オラ、報道写真が上手くなりてぇ!」という方は、誰か師匠を見つけるか、どこかメディアと契約して取材や撮影に行って場数を増やすのが手っ取り早いと思います。そしてPDCAサイクル[Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価・検証)→ Act(改善)]をひたすら繰り返してみてください。

これまでエラそうに話してきた筆者も、過去に死ぬほどたくさん失敗しまくってきました(そしてこれからも失敗があるでしょう……)。「ヤバイ、使える写真が全く撮れない……」と背中に汗をかいたこともあります。望遠レンズ(900mm相当)を使って、30m先で動いている人を撮影中(すごく大事な場面)にオートフォーカスが効かなくなって、急遽マニュアルフォーカスで撮影したもののピントが合っていなくて、泣きそうになったことも……。絶望的な失敗ほど、今後の糧に経験になって活きるはずです。皆さんも色々チャレンジしてみてください。

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この記事を書いた人
桜井 恒二 / 専門ライター
記者・ライター。撮影もします。 桜井 恒二のプロフィールページ

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