数年前まではデジカメの高画素機というと2000万画素くらいが良いところでしたが、最近のハイエンドデジカメは3,000~4,000万画素クラスが当たり前になってきました。ここまでデジカメが高画素化してくるとそれを観賞、編集するモニターも高解像度なものが望まれます。
多くの人が使っているモニターはFullHD(1920x1080)解像度でたったの200万画素しかありません。200万画素のモニターで4000万画素の写真を編集するわけですからその写真は相当に縮小された状態になってしまいます。
最近ラインナップが充実してきた4K(3840x2160)解像度ならFullHDの4倍の約800万画素分の情報量を持つことが出来るため写真編集の際も細かなディティールを確認しながら細部の調整が楽に行えるほか、観賞するときにも驚くほど滑らかで自然な見た目にもなるんです。
ただし、4Kモニターが一般的になってきたとはいえ、写真や映像などクリエイティブ制作に特化した高機能な4Kモニターはまだ非常に高価であったり、ラインナップが少ないといった「普通の人が選ぶには大変」という事情もあります。
そこで今回は自分の作品をワンランクアップさせるために重要な写真編集用4Kモニター(4Kディスプレイ)の選び方のポイントをご紹介していきたいと思います。
*本記事はBenQさん提供のタイアップ記事です
4Kモニターと写真編集の相性が良い理由
4Kモニターで写真編集をすることでのメリットは「あらゆる表示が滑らかかつ精細になる」ということです。どんな見え方になるかはじめに写真を見た方が分かりやすいのでまずはこちらの写真をご覧下さい。
約4200万画素の高画素機で撮影した写真を画面に等倍(100%)表示したときの赤枠内の見え方の違いです。作品セレクト時やシャープを掛けるときなどこういう所を等倍確認したりしますよね?
(縮小されて表示されているのでPCの方はクリックして出てくる画像の「4K」の右上あたりの拡大アイコンを押すと等倍相当で見ることができます)
4Kモニターなら細いワイヤーが見事に解像していることが分かります。通常のモニターの人には4Kと同等の表示で見ることは当然出来ませんが、等倍表示を行った実際の見た目の違いはだいたいこのくらいの差になるイメージです。
ちなみに、今皆さんに見えているワイヤーの太さはWQHDモニターの人なら4K表示の1.5倍、FullHDの人なら2倍になっているはずです。*PCのスケーリング設定にもよる。
(4Kモニターを使っている人がブラウザで見ているこの画像もPCのスケーリングの事情でPhotoshopやLightroomで見える線より太く見えているはずです。正確に見るなら画像DLしてPhotoshopなどで見てみて下さい)
写真のディティール調整が捗る
解像度の低いモニターでは4K画像を拡大したような結果に見えるため、解像しているのか僅かにボケているのか判断が難しいことになるのです。
モニターの解像度が低下すると等倍表示時に画面が拡大して見える理由は下図のように画面内に表示できる範囲が変わって来るからです(画面のインチ数が同じなら)
4Kの100%表示で画面に見えるサイズはFullHDの50%表示に相当します。等倍表示の見え方がここまで違うと作品のディティールを仕上げるときの見え方がぜんぜん違うんですね。
シャープやノイズ除去、明瞭度系のパラメータを調整するときに今まで見えなかった所まで見ながら詳細な現像が可能です(手ブレやピンボケといったミスもよく見えるようになりますが^^;)
画面が広く使える
また、4Kモニターを使えば画面が広く使えることもあります。”こともある”というのがポイントです。
例えば、24インチFullHDモニターを使っている人が、24インチの4Kモニターに変更した場合、表示解像度は1920x1080から3840x2160に4倍も増えましたが、物理的な画面サイズは24インチのままなので画面は広くなりません(当然ですね)。
ここで、フォントやアイコンなど画面の中の情報をそのまま1/4サイズ(縦横半分)にしてしまえば画面内の情報を4倍に増やすことはできます。ただし、そうすると文字が非常に小さく見えるためとても使いにくくなってしまいます。そこで、4Kモニターを使う場合は一般に標準の文字やアイコンのサイズを大きくすることでFullHDやWQHD(2560x1440)解像度のモニターと同じような見た目にして使うのが一般的です。
つまり4Kにしたからといって画面内の文字量が(FullHDの)4倍になるとは限りません。(4倍にしてもいいけどスゴく見づらい)
私の場合、Windows側のスケーリング設定を125%(少しちいさめ)にして、Lightroomは150%(WQHDとほぼ同じ見え方)、Photoshopは100%(凄く小さい)に設定しています。
例えば、Photoshoppの場合はショートカットをよく使いメニュー項目をあまり見ないのでできるだけ作業領域を広くするというようなカスタマイズも可能なのです。4Kならね。
情報の”密度”が上がりデジタル感が薄れる
あなたが今の画面サイズのまま(FullHDやWQHDから)4Kモニターに変えた場合、画面を構成する画素数は4倍(WQHDからなら2.25倍)に増えているので今まで見ていた写真が4倍の密度で滑らかに表示され、今まで読んでいたジャギジャギの文字が4倍密度*で非常に滑らかに表示されます。 *スケーリングの設定にもよります
つまりデジタルっぽさが残っていた画面のジャギジャギ感が激減して、紙のプリントを見ているかのごとく観賞、編集ができるのですね。もちろん、ウェブブラウジング中の文字も滑らかになり、WordやExelといったアプリケーションでの表示も滑らかになり、目が疲れにくいといった嬉しい作用もあります。(一部の高解像度画面に非対応のアプリは逆に文字がぼやけて見える副作用もある)
WordやExell、ネットサーフィンくらいしかしない人ならFullHD(1920x1080)やWQHD(2560x1440)程度の解像度でも十分ですが、高画素機で撮影した写真を細部までしっかり編集したいなら画素密度が高くなる4Kモニターでの編集はとても快適になります。
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じゃぁ、写真編集用にオススメな4Kモニターって何なの?ということで、ここではモニターを選ぶ時に押さえて置くべきポイントをこれから13項目紹介していくことにします。
ちなみに、4Kではない一般的なモニターの選び方は以前詳しくまとめていますのでこちらも参考にしてみて下さい。今回のモニター選びのポイントも一部重なっているので前回記事読んだ方は適宜飛ばして読み進めて下さい。
1. モニターの解像度
ここまで4Kモニターの解像度はFHDの4倍となる3840x2160と紹介してきましたが、実は4Kには大きく2つの規格が存在します。一つは今まで紹介してきた3840x2160の4K UHD(Ultra HD)。もう一つが4096x2160のDCI 4Kです。
4K UHDは国際電気通信連合(ITU)によって定められた規格で、主にテレビ放送などで使用されています。なじみ深いFull HDのちょうど4倍の解像度(アスペクト比も16:9)となりコンテンツの規模的にはこちらが主流。
一方、DCI 4Kは映画制作会社が加盟する団体であるDigital Cinema Initiatives(DCI)によって定められた4K規格で、4K UHDよりも横が広い約17:1のアスペクト比になります。映画館などのプロジェクターで使われる4Kはこちらが主流なので映像業界に携わる人はこちらもチェックしてみましょう。
通常は4K UHDでOK
市場に出回る4Kモニター(テレビ、PC用共に)の多くは4K UHDを採用しており比較的安価。DCI 4Kのものは少なく価格も高めになります。
一眼レフやミラーレスで撮影出来る4K動画もほとんどが3840x2160の4K UHDです。(ただし、キヤノンの5D MarkIVや1DX MarkIIで撮影出来る4K動画はDCI 4Kサイズ)
映像業界に従事していると言うわけでないなら4K UHDのもので十分かと思います。
ちなみに市場には5Kや8Kといったより高解像度のディスプレイも出ていますが、普及しはじめた4Kに比べるとお値段は一気に上がるほか、PCとモニターの接続にも制約があるなど予算が潤沢な上級者向けモニターとなります。
2.モニターのサイズ
続いてはモニターの物理的なサイズ(インチ数)です。
モニターインチ数は画面の対角線の距離ですが、実際に使う場合は横幅が気になるかなと思ったので横幅のサイズを図にしてみました(16:9の場合)。
これは作業環境や作業スタイルによって様々なので一概にこのサイズがオススメ!と言うことはできませんが、ある程度余裕のあるデスクで作業しているなら個人的には27インチが使いやすいと思っています。私自身、かれこれ7年くらいメインディスプレイは27インチを使用しています。
デスク作業だと27インチが疲れない
理由はデスクに座ってモニターを見たときに違和感なく画面全体を見渡せるちょうど良いサイズ感だから(モニターと顔の距離は約60センチ)。24インチだと細かな作業や文字を読むときに前のめりになりやすく疲れやすい気がします。
逆に30インチクラスは画面の迫力や作業スペースの広さは魅力的ですが、デスクでの作業では視線を大きく動かさないと画面全体を見渡しにくいのではと感じます。また、マルチディスプレイ環境を作るときにメインが30インチクラスだとデスクに2枚目のモニターを置くのが大変だったり、アンバランスになることも。
PCで映画鑑賞やゲームまでやるよという方ならこのくらいの大画面で没入感を味わうのも良いでしょう。
3.画素密度(ppi)
解像度を4Kに限定していればモニターサイズを決めた時点で画素密度は決まってしまうのですが一応見ておきましょう。4Kになるとどのくらい画素密度が上がるかということを表にしてみました。ppiとは画面内の1インチの中にピクセルがいくつ並ぶか?という指標です(pixel per inch)。dpi(dot per inch)とほぼ同じだと思って大丈夫です。
モニターサイズ | 解像度 | 画素密度(ppi) |
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24インチ | 1920x1080(FHD) | 92 |
2560x1440(QHD) | 122 | |
3840x2160(4K UHD) | 184 | |
27インチ | 1920x1080(FHD) | 82 |
2560x1440(QHD) | 109 | |
3840x2160(4K UHD) | 163 | |
31.5インチ | 1920x1080(FHD) | 70 |
2560x1440(QHD) | 93 | |
3840x2160(4K UHD) | 140 |
画素密度が高ければ高いほど画面の表示が滑らかになり、デジタルっぽいドット感が薄れていきます。体感的には100ppiを超えたあたりから滑らかな表示に感じてきます。さらに150ppiを超えると顔をよっぽど近づけないとドット感が分からないレベル。
4Kならどのサイズでも十分
個人的に長い間使ってきた27インチWQHDのppiが109。これでもFullHDに比べればかなり滑らかに感じていましたが、画面を良く見るとわずかにドット感があります。これが4Kになると一気に163まで増え、私の使用環境(モニターと目の距離が60センチくらい)ではほとんどドット感がなくなりスムーズな見た目になります。
最初に言ったように、画面内のあらゆる表示が滑らかになるため使っていて非常に気持ちが良いです。
ちなみに、iPhoneやMacbook Proに搭載されているRetinaディスプレイのppiは200~400と非常に大きいですが、これはデバイスの特性上、顔を画面により近づけて使うためでもあります。
4.入力端子
4K画像は情報量が多いため既存のケーブルでは表示できない可能性があります。モニターを滑らかに表示する(4K 60p)ためにはHDMI2.0またはDisplayPort1.2以上のケーブルとそれに対応したグラフィック性能が必要です。
ケーブルに関してはたいてい購入時に同梱されているため問題ないでしょうが、パソコン側の端子が対応しているかどうか確認しておきましょう。こちらもここ数年のPCなら大丈夫かと思いますが、DVI端子しかない。。というようなPCでは厳しいです。
USB-C接続できるかどうかも着目!
パソコンとモニターの接続と言えばHDMIかDisplayPortが主流でしたが、最近はMac製品を中心にUSB-Cケーブルで接続するものも増えてきました。
Macbook Proなど出力端子がUSB-CしかないPCをモニターに繋ぐ場合はUSB-Cの入力端子が備わっているかどうかも重要な選定ポイントです。USB-Cに対応していない場合は変換アダプターを別途用意しなければなりません。
5.液晶のタイプ
単に”液晶モニター”といっても、液晶のタイプ(駆動方式)にも違いがあります。大きく分けてTN, VA, IPSの3タイプが存在します。
IPSタイプがおすすめ
この中で写真向けにおすすめなのがIPS方式の液晶モニターです(メーカーによって AHVA, AH-IPS, ADSとも)。IPS液晶モニターの特徴は斜めから見ても色や明るさが変わりにくいこと(視野角が広い)。ここは非常に大事なポイントです。
IPS方式の液晶モニターなら前のめりでも背もたれに体を預けてリラックスしている時でも同じ色や明るさで観賞や編集することが可能です。
IPSはコントラストが(VA方式に比べて)弱いと言われますが、これは近年良くなってきており、中~上位機種はほぼ100%がIPS方式になっているはずです。
VAは条件付き可、TNはおすすめしません
VA方式の液晶は(IPS方式に比べ)視野角が狭く、斜めから見ると色が少し変わるため柔軟な用途には向きません。一方、コントラストを高くしやすい(黒の締まりが強い)方式なため、モニターでの写真観賞や映画の鑑賞などでは有利になります(ただし正面からに限る)。
また、VA方式の中には一部MAVA+というような斜めから見ても色が変わりにくい進化形VAパネルもあります。これならデスクで作業程度なら十分でしょう。もしVAパネルを選ぶ時は注意して選びましょう。
TN方式は初期の液晶に良く見られたタイプで最も低コストですが、斜めから見たときの色の変化が非常に大きいため残念ながら写真編集には向きません。
6.表面の加工(グレア、ノングレア)
続いては表面の加工について。マットな質感のノングレア、ツルツルのグレア(光沢)の2つがあります。ここも4Kに限らず一般的なモニター選びのポイントと同じです。
ノングレアが疲れにくい
ここは個人の好みによるところも大きいですが、一般的にはマットな質感で周りの映り込みが少ないノングレアタイプが長時間使っていても目に優しくおすすめです。
ディスプレイの見え方も紙にプリントした感じ(用紙にもよるけど)で、プロ向けなど上級モデルの大半はノングレアタイプかと思います。
グレアはキレイに見える?
グレア(光沢)液晶はモニターの表面がツルツルしているため“なんだかキレイに“見えます。モニター表面での乱反射が少ないため黒の締まりが強くメリハリのある見え方をするからでしょうか。Macのモニターはこのグレア液晶であるのが特徴ですね。
ただし、モニター表面が鏡のようにツルツルなので周りにあるもの(暗い部屋だと自分の顔とかも。。w)をいろいろ映し込んでしまい長時間使っていると目が疲れるといった副作用がある場合があります。目が疲れやすい人は注意。また、最近は反射防止コーティングの性能が上がっているためグレア(光沢)だけど反射を抑えたものもあり、一概に「グレア = 悪」とも言えません。店頭で実際に見てみるのも良いですね。
7.色域(色の表示可能範囲)
色域とはそのモニターが表示できる色の広さです。色域が広ければより色彩豊かな写真を表示できる能力があります。以前はsRGBとAdobeRGBの2つを考えれば良かったのですが、4Kクラスのモニターになるともう一つ、DCI P3に最適化されたモニターも考える必要があります。
sRGB, AdobeRGB, DCI P3の各色域をxy色度図に表してみると以下の図のようなイメージになります。
sRGBは一般的なモニターの基準になっている色域であり、これが世界のスタンダードだと言えます。ほとんどのモニターの色域はこのsRGBを基準に作られています。
WEBの世界も実質このsRGBが基準になっているため、パソコンモニター上で完結する作業がほとんどであればsRGB色域が十分表示できるモニターであればよいでしょう(質の悪いモニターはsRGBすら表示できないものもある)。
カタログスペックなどで「sRGBカバー率100%」などと謳っているものならひとまず安心です。
RAW現像、プリントはsRGBでは不足するかも
ただし、sRGBは図を見て分かるようにAdobeRGBやDCI P3に比べて表現できる色の範囲が小さいのが弱点です。WEBの世界ならひとまず十分だったsRGBもRAW現像をしてプリントを考えると色が不足してきます。
写真のRAWデータが持つ色情報は非常に大きく、AdobeRGBなども軽く飛び越えてしまうほど。
まずは以前の記事でも出した、こちらの図を見てみてください。青空と海の写真(RAW)に含まれる色を色度図にプロットして様々な色域と比べてみました。
Lightroomでは豊富な色データを持つRAWデータをProPhotoRGBという非常に大きな色域で扱います(AdobeRGBやDCI P3よりぜんぜん大きい)。ご覧の通り彩度の高い青や緑が含まれる写真はsRGBの色域を簡単に飛び越えてしまうものが多いのです。
つまり、この写真のsRGB色域を飛び越えた色はsRGBモニターでは見えずに編集を続けていることになってしまいます。AdobeRGBでもカバーしきれない部分もありますがsRGBモニターに比べればより正確な色を見ながらの作業が可能であることが分かりますよね。
プリンターの色域はsRGBより広い
さらに図の中のEpson PX-7Vというインクジェットプリンターで出力できる色域をみてみてください。やはりsRGBより広い色を出力可能です。
ということは、やっぱりsRGBモニターで作業していると最終的にプリントとして出力される色の一部が画面上では確認出来ないと言うことになってしまうのです。ハイエンドなプリンターでなくて家庭用普及機でも出力可能な色域はsRGBより広いのです。
だから、RAW現像でできるだけ色にこだわって作品作りしたい人、モニターで調整した結果をプリンターに反映したい人は広色域モニターと言われるAdobeRGBもしくはDCI P3対応のモニターを選ぶと良いでしょう。
ただしパソコン界全体の標準は未だsRGBですので、標準ではない色域を扱うためのいくつかの作法を覚えておく必要もあります。広色域モニターを使う場合は少しだけカラーマネジメントの勉強をする必要があります。
Adobe RGB、DCI P3どっちを選ぶ?
では、最近よく見かけるようになったDCI P3とAdobeRGBのどちらの色域に対応したモニターを選ぶべきなのか?というと、業務に使うのでなければどっちでも良いのでは?という感じではあります。どちらの色域も十分広色域ですし。
一応、DCI P3の色域は先ほどDCI 4Kでも出てきたDCIによって策定されている色域で主に映画業界で基準とされるようです。一方、AdobeRGBは長らく写真、印刷業界で使われてきた色域。よって写真メインで使うのであればこれまで通りAdobeRGB対応のモニターを選んでおけば間違いは無いと思います。
ちなみに、最近のMac製品はDCI P3の色域を基準に作られることが多いですね。iPhoneは7から、Macbook Proは2016からモニターの基準色域はDCI P3となり大幅にディスプレイ品質が向上しています。今後の広色域モニターの主流はAdobeRGBとなるのか、DCI P3となるのか目が離せません。
8.キャリブレーション済みかどうか
モニターというのは通常、メーカーや機種が変わると色の見え方が微妙に異なるなどなかなか色が安定しません。安いモニターだと買って手元に届かないとどんな色なのか分からないのです。始めから狂っている色やグラデーションを目視を頼りに調整するのは熟練の技と目を必要とする作業です(目視で正確に調整するのはほぼ不可能)。
一方、ある程度ハイエンドな機種なら工場出荷時に一定基準にモニターの色味をキャリブレーション(色合わせ)してくれている安心なモニターもあります。
出荷時キャリブレーション済みモニターなら使い始めからおかしな色で作業してしまうというリスクがなくなります(PC側の設定がきちんと出来ていれば)。
でも、特定環境に合わせてあるだけ
ただし、工場出荷時にキャリブレーションされているモニターは通常、ある1つの環境(たいてい6500K)に合わせてあるだけなので、自分の部屋の照明の色に合わせてモニターの色味を調整したいといった場合には別途自分でキャリブレーションをする必要があります。
モニターの表示とプリントの色味を合わせるには画面の色温度と照明の色温度を合わせる必要があるのです。
9. ハードウェアキャリブレーション
ここからはハイエンドモニターに搭載される高度な機能になります(以前の記事とだいたい同じです)。
出荷時キャリブレーション済みのモニターでは画面の色はキャリブレーションされたときの条件に左右されます(上で紹介したBenQ SW271なら6500K、AdobeRGB)。つまり、これは自分の部屋の照明が6500Kなら正しくプリント評価が出来ますよと言うことも示しています。
ところがあなたの部屋の照明は6500Kではないかもしれません。このような場合に正しくプリント評価するには【1.6500Kの照明を新しく設置する】または【2.モニターの色温度を部屋の照明に合わせる】のどちらかしか選択肢はありません。
自分でキャリブレーションしよう
この【2.モニターの色温度を部屋の照明に合わせる】の作業をモニターキャリブレーションと言い、これを行うことができれば、自分のモニターの色を自分で管理することができます。
また、モニターは経時で色が僅かに変化していくため、出荷時キャリブレーション済みだからといって安心していると1年後には僅かに色が変わっているという事もあります。でも自分でモニターをキャリブレーションできるなら経時の色変化も防ぐことが可能です。
ハードウェアキャリブレーションとソフトウェアキャリブレーションの違い
モニターを自分でキャリブレーションするには専用の計測器(キャリブレーター)が必要ですが、このキャリブレーターをOS上で使い、グラフィックカードの出力を調整する(絞る)のがソフトウェアキャリブレーションです。
ソフトウェアキャリブレーションならモニターに出力する手前のデータを調整するため、専用のキャリブレーターさえあればどんなモニターにも使用できま。ただし、グラフィックカードの出力を絞ることになるためモニターの機能を100%引き出すことが難しいという欠点があります。
一方、ハードウェアキャリブレーションはキャリブレーターをモニターに接続し、モニター内部の出力設定を直接いじるという高度な調整が可能です。グラフィックカードからは100%の情報を送り、モニター内部で正確な色の調整がなされるため、ソフトウェアキャリブレーションよりも精度良く、モニターの機能を十分に引き出せる機能なのです。
ハイエンドな写真編集向けモニターである基準はこのハードウェアキャリブレーションに対応しているかどうかと考えても良いでしょう。
10.表現可能な階調
現在ほとんどの液晶モニターは色の階調を8bit(256段階)で表現します。モニターはRGB(赤緑青)の3色で色を表現するためそれぞれ256(R)x256(G)x256(B)= 約1680万色で写真を表現します。通常はこれでも十分なスペックです。
また、同じ8bit出力でもグラフィックカードから入力された8bit信号を内部で12bitや14bitで処理して滑らかな8bitを出力するといった機構を備えているものもあります。12bit LUTとか14bit 3D LUTといった表記があるものがそれ。このようなモデルではより滑らかで破綻のないグラデーションが期待できます。
また、一部の上位機種では10bitの出力に対応したモデルも存在します。10bitは1024階調ですから、1024^3 = 約10億色という途方もない数の色で写真を表現できるためより緻細なグラデーション表現が可能です。
8bit(256階調)のグラデーションは高性能なモニターならそれぞれを分離して確認することが可能ですが、10bit(1024階調)のグラデーションはもはや人間の目には境目が分からない非常に滑らかなグラデーションとなります。
ただし、10bit出力の恩恵を受けるには10bit入力に対応したグラフィックカード(NVIDIA QuadroやAMD FirePro)が必要になることに注意。
色の幅が広がるわけではない
たまに誤解している人がいますが、10bit表示では表現できる色の数は飛躍的に増えますが、色の幅が広がるわけではありません。
例えば白から黒へのグラデーションを表現するのに、8bitでは256段階のグラデーションで表現しますが、10bitなら同じ白から黒を1024段階のなめらかなグラデーションで表現できるということ。10bitがより明るい白やより暗い黒を表現できると言うわけではありません。
内部で12や14bitで処理しているモニターなら8bit出力でもかなり滑らかなグラデーションが出てくるので通常は8bit出力でも十分です。
11.ユニフォーミティ補正(ムラ補正)
モニターは面ですので、通常は画面の中で僅かに明るさの違いが生じます。よほど厳密な作業をしなければさほど気になることはないと思いますが、より厳密に色を評価するなら画面内のすべてをおなじ明るさや色に統一する必要がありますね。
一部高級機種に限られる
一部のプロ向け高級機種では画面内のムラを一定に保つための機能が搭載されているものもあります。最高の環境を作りたい場合は考慮してみましょう。
12.HDR対応
これも最近のモニターではよく見かけるようになってきたHDR対応。HDRといっても写真で言う、露出ブラケットをして合成した絵画っぽいアレとは全く違います。念のため。
ここで言うHDRとはHDR動画のことです。ざっくり言えば、これまでの動画は特に高輝度側の出力に制限があったのですが、それを取っ払い高輝度側の出力にも対応する動画形式のことです。
HDRはソフト的な対応だけでなく、モニター自身が非常に明るい色を発することができなければなりません。そのためHDR対応しているモニターはパネルの性能が高いことが予想できます。
HDRの規格もいくつか存在しますが、一般的なのはHDR10でしょうか。ただし、HDRの恩恵を受けるためにはHDRに対応したコンテンツを視聴しなければなりません。これから盛り上がっていくだろう規格ですね。
13.その他の機能
液晶モニターの機能をぜんぶ上げるとキリがないですが、例えばそのメーカーに独自の機能がある場合もあります。
例えばBenQ(ベンキュー)のモノクロ表示機能などがそれです。写真は通常カラーで撮りますよね?それをモノクロに仕上げたいときはまずLightroomやPhotoshopでモノクロ化してからセレクト作業をするのでは無いかと思います。
でもBenQのモニターならモニター側のボタンを押すだけで画面を強制モノクロに変えられるので、カラー写真を変換せずともモノクロ化後のだいたいの仕上がりを予測することが可能です。まずは画面をモノクロにして使用する写真のアタリをつけると効率良く作業ができるんですよね。
PIPやPBPも
他にもPIP(ピクチャーインピクチャー)やPBP(ピクチャーバイビクチャ)などの機能も高解像度だからこそ生きてくる機能なのでチェックしておきましょう。
PIP機能は画面の中に別のPCの画面を小さく入れる機能、PBPは2つのモニター画面を並べて表示するための機能です。ハイエンド機種ならPBPで片方はAdobeRGB、もう片方はsRGBといった出力色域を分ける機能をもつものもあります。
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ということでかなり長くなってしまいましたが4Kモニターを選ぶ上でのポイントを13個ご紹介しました。ここのポイントを押さえていればまず間違いないモニター選びが出来るはずです!
編集用4Kモニター選び2つの方向性
では、あなたはいったいどのモニターを買うべきなのか?という悩みに直面するわけですが、「写真編集用4K」に限定をするなら選択肢はあまり大きくありません。選択肢は2つに絞れそうです。
1.sRGBで妥協する
現在市場に出ている4Kモニターの大半はsRGBなので、WEBで完結する作業が多いなら
- sRGBカバー率98%以上
- IPS液晶
- 出荷時キャリブレーション済み
この3つの条件を満たすようなモニターを選ぶのが良いかと思います。この基準を超えていればあとは4K UHDでもDCI 4Kでも、24インチでも27インチでも、グレアでもノングレアでも、なんでもOK。
逆にこの3つの基準に達しないモニターであれば(写真編集用の)4Kモニター導入自体を考え直しても良いかも知れません。4Kモニターはかなり価格が下がってきているものの、FHDやWQHDに比べればまだ高価です。ですから、この基準を下回るモニターを買うくらいなら同じ値段+αで27インチWQHDくらいのハイエンドモニターを手に入れた方が良い結果になるかと思います(あくまで写真編集用として考えるならね)。
上記のスペックを満たすような4Kモニターを探してみました。意外と少ないかも。
大画面の32インチクラスだと例えばBenQ PD3200U。4K UHDでデザイナー向けのモデルです。sRGBカバー率100%、10bitディスプレイ、Technicolor Color認証など基本スペックはほぼ揃ってます。
さらにこのモデルは2台のPCを1組のキーボード、マウスで使えるKVMスイッチを搭載。モニターにKVMスイッチが内蔵されるのは珍しく、デスクトップとモバイルなど2台のPCを使い分けている人には使い勝手が良さそう。他にも3Dのワイヤーフレームやコーディング時の文字が見やすくなるCADモード、暗部の階調が見やすくなる暗室モードなどオリジナル機能をいろいろ搭載していて高機能。画面も広いので写真を扱いながらコーディングも行うWEBデザイナーさんにも使い勝手が良さそうです。
一回り小さな27インチ4KならDell U2718Qなんかも上記のスペックを満たしています。sRGBカバー率99%、10bitディスプレイ、出荷前キャリブレーションされてます。
2.広色域ハイエンドを選ぶ
もう一つの選択肢は4K、広色域、ハードウェアキャリブレーションに対応したプログレードのハイエンドモニターを選ぶこと。次の3つあたりを条件に探してみると良いでしょう。ただし、まぁまぁの出費を覚悟する必要はあります。
- AdobeRGB(DCI P3)カバー率98%以上
- ハードウェアキャリブレーション
- 10bit出力
このクラスだと数年前までは数十万円の出費を覚悟しないといけないレベルでしたが32インチクラスのモニターはBenQのほかDellやASUSからも発売されておりずいぶん手に入れやすくなっています。といっても10万円台後半から20万円程度と気軽には買いにくいものですが。
例えばBenQの32インチ広色域SW320は198,000円(執筆時)。
ちなみに最もハイエンドなガチプロ向けのEIZOの31インチCG318-4Kは税込みで54万円ほど。
BenQさんがやってくれました!
でも、最初の方にも言ったように私にとっては32インチは大きすぎるんですよね... 個人的には27インチで4KでAdobeRGB対応でハードウェアキャリブレーションができるモニターがずっと欲しかったのになかなか出ない... と思っていたらBenQさんがやってくれました。SW271です!
昨年、神ディスプレイでしょ!と紹介したSW2700PTの4Kパワーアップバージョンです。(SW2700PTの詳細は下記リンクから)
プロスペックの27インチ広色域4K
SW2700PTと同じく27インチで4K UHD(3840x2160)。AdobeRGBカバー率99%、14bit 3D LUTに10bitパネル、ハードウェアキャリブレーション対応。さらに本格的なモニターフードも付属しているなどSW2700PTがそのまま4Kになったようなイメージです。
さらに追加機能として、Macユーザーが泣いて喜ぶUSB-C入力対応(残念ながら給電はしてくれない)、HDR10にも対応し、SW2700PTではできなかったターゲット色域を指定してのキャリブレーションも可能になりました。モニターフードが縦にも対応していたり、ほぼベゼルレスなスリム形状になったのもポイント。待っていた甲斐があったという感じで、今回タイアップさせていただいている流れで一足先にお借りして使用しています(まだ売っていないのだもの)。
想定価格は税込みで18万円前後になるそうです。(Amazonでの初値は139,800円でした。思ってたよりずっと安い!)発売開始は12/10。FHDやWQHDのモニターに比べればまだ高いものの、27インチ以上の大画面で広色域の4K、ハードウェアキャリブレーション対応のモニターとしては最も安価な部類に入るためコストパフォーマンスは非常に良いと思います。モニターだけでなく縦横対応の本格モニターフードも付属するし。
例えば私の知る限りSW271の他に27インチ広色域4Kで、ハードウェアキャリブレーションに対応したモデルはDellのUP2718Q くらい(執筆時)で、価格もやや高め。
日本の場合、32インチクラスをドンと置ける作業環境を有している人って限られると思うので、この27インチ広色域4Kはとても助かるんですよね。マジで待ってました。
見えなかったものが見えるようになる
SW271を使い始めてから様々な写真データを見てきましたが、いままで見えなかったものが確かに見えるのです。より正確に言うならWQHDのディスプレイでも倍率を変えながら頑張って見ようと思えば見ることはできたのでしょうが、4Kに変えてからは意識しなくても自然に細部まで鮮明に見えるといった感じ。
等倍表示して解像しているのか、ボケているのか判断が難しかった非常に細い線や僅かな手ブレまできっちり分かります。これはすごい。
ということで次回は私がここ3年くらい首を長くして待っていた27インチ4K、広色域、ハードウェアキャリブレーション対応のSW271について徹底的にレビューしてみようと思います。
追記:SW271のレビュー書きました!
いよいよ一般の写真愛好家たちの間にも4K広色域の時代が来たぞ!そんな感じがしてきます!
提供、取材協力:ベンキュージャパン株式会社(http://www.benq.co.jp/)