安くて画質劣化ゼロの保護フィルター
新しいレンズを買って一番はじめにすることはレンズ保護フィルターを取り付けるという人は結構いると思います。私もそうでした。
撮影時露出しているレンズの前玉(最前面のレンズ)にキズが入ってしまうと画質に影響が出るだけでなく、売却価値も著しく低下してしまいます。レンズはカメラボディよりも取り扱いが大変なのです。
ただ、レンズ前玉の保護と引き換えに、本来レンズ単体で光学的に最適化されたものに余計なガラス板を挟むのでフレアやゴーストなど画質への影響が少なからずあります。高性能な保護フィルターは画質への影響は最小限に抑えられますが、コストの問題が出てきます。
そこで今回紹介したいのが”伊達”保護フィルターという使い方。保護フィルターあり/なしの両方のメリットをうまく合わせたちょうど良いシステムなのです。
動画でも解説しています
YouTubeに作り方を解説する動画を作りました!
実際の所、枠だけで良いんじゃない?
保護フィルターのメリットはレンズ前玉を強力に保護してくれる点で、デメリットは画質(特に逆光耐性)の低下、PLやNDなど別のフィルターを取り付けるときにわざわざ外す必要がある、1本に1枚用意するコストあたりでしょうか。
私もこの辺のデメリットを受け入れつつ、レンズ前玉の保護は必要だよなぁと思い保護フィルター愛用派でした。(今でも初心者は付けた方が良いと思ってます)
そんななか1年以上前に、写真家の村田一朗さん(@murata_photo)のツイートで「保護に有効なのはフィルター枠」というのを見つけて、確かになぁーと思ったのです。
実は普段、レンズ保護って一切しないんだけど、今までの経験上、一番レンズ保護に有効なのはフィルター・・・じゃなくてフィルター枠。そそ、フィルターからフィルター外して枠だけね。今回もレンズのフィルターネジ部分がやられて、その修理でだいぶかかった。
— 写真家 村田一朗 (@murata_photo) October 27, 2017
そのガラス板は本当に必要か?
このツイートを見てから、私自身盲目的に保護フィルターを使っているのではないか?と考えるようになりもう一度保護フィルターの運用方法について考え直してみたのです。
私の撮影でレンズの汚れのほとんどが指紋やほこり、たまにある油跳ねくらいなもので、今まで保護フィルターのガラス面をゴッチンコしてキズをつけるような事故ってほぼなかったんですよね。何度かレンズそのものをぶつけて保護フィルターの枠が歪んだり、その影響で保護ガラスを割るということはありましたが。
思い返してみると、ガラス面ではなく枠へのダメージが大きかったということに気付いたわけです。特にレンズフードをしていればよほどのことがない限り前玉を傷つけることはないなぁと。
ガラスいらなくね?枠だけでいいじゃんと思ったわけです。
”伊達”フィルター使用のメリット、デメリット
伊達メガネ(だてめがね)ならぬ伊達フィルターのメリット、デメリットについてまとめてみると以下のようになります。
長所1:画質劣化ゼロ
伊達フィルターはフィルター枠しか使わないので画質への影響はゼロといえます。レンズ前玉と被写体との間にあるのは空気だけですから。
超広角レンズ使用時のケラレ(フィルターが写って四隅が暗くなる現象)が発生する場合はありますが、これは保護フィルター使用時も同じこと。しかも最近の薄型枠を使うならほとんど問題にはなりません(後で紹介するAmazonの激安フィルター枠でもEF 16-35mm F2.8L IIIは広角側でもケラレず)。ステップアップリングの使用で回避することも可能です。
僅かですがフードの役割もするので浅い角度からの有害光をカットできフード無しで使うなら多少の画質へのプラス効果も考えられます。
長所2:安い
保護フィルターの場合、画質への影響を考えて高機能なものを買おうとすると、82mmなどの大口径用だと5,000~10,000円ほどします。一般的な口径でも数千円はするはず。
伊達フィルターならAmazonで一番安いフィルターを買って、中のガラスを取り去ってしまえばOK。
Amazonだと82mm径でもAmazonベーシックの安いやつで600円くらい(執筆時)。高機能フィルターの1/10の値段で枠が手に入ります!私が昔大量に買ったときは200円くらいでしたw(結構値段変動しやすいです)
枠の厚みが4.5mmと高級保護フィルターよりも若干厚いですが、EF 16-35mm F2.8L III型で試したところケラレなく使用可能です。
新品買わなくても、もう使わなくなったフィルターを転用したり、カメラ屋の中古ジャンクコーナーを漁って手に入れることも可能です。
長所3:NDやPLフィルターが使いやすい
NDやPLなどのフィルターを付ける場合、保護フィルターを使用しているなら一旦取り外してから使うのが原則です。レンズ前玉の先に余計なガラス板が増えれば増えるほどその間の光の反射は増大しより複雑になるため、フレアやゴーストへの影響は大きくなりますし、フィルター2枚付けすれば枠が厚くなるので広角側ではケラレる可能性が出てくるから。
でも伊達フィルターならガラス板がないのでケラレないと分かっているならフィルターを外す必要はありません。2枚付けしても大丈夫。広角側で伊達フィルターを外す必要がある場合も指紋が付かないように慎重に取り外す必要はありません。ササッと取り外してポケットにでも入れておけばOKなのです。汚さないようにフィルターケースに仕舞う必要はないのです。
もうこれだけでフィルターワークがかなり楽。
長所4:ネジ山の保護ができる
ノーフィルターで使った場合、先端部をぶつけたり、最悪落下させてしまうとレンズ先端のネジ山が歪んでしまいます。この場合、鏡筒レベルで交換となることが多いのでかなり大きな修理費が必要です。(ここがやられているときは内部もやられている確率が高いけど)
でも伊達フィルターなら先に安いフィルターが犠牲になってくれるのでレンズ本体を守れそうです。ガラスが入っているフィルターよりも強度的には劣る(優先的にダメージを受けてくれる)ため、レンズの衝撃に対する保護効果は大きいと考えられます。(まだ枠が大きく歪むような衝撃を与えたことはないけど)
通常のフィルターの場合、枠が歪むとレンズから外すのも大変で結局修理送りになってしまうこともありますが、伊達フィルターなら最悪枠が歪んでもガラスがないため取り外しは楽です(ラジペンで枠ごとぐにゃっと内側に巻き込んだり、ニッパーで枠ごと切っちゃえばいい)。
短所1:前玉への直ダメージ、直汚れの可能性がある
一方短所は保護するフィルターがないため、前玉への直接ダメージの可能性は保護フィルターありに比べて大きいと言えます。相手が平面ならどんなぶつかり方をしても大丈夫ですが、運悪く突起物にぶつかった場合は悲しい結果になるかも。
でもね、意外とそんなシーンでないんですよね私の場合。レンズガシャガシャしそうな場合は必ずレンズフード付けるし。あと、レンズ先端が数mm伸びるだけで驚くほど指紋とか付きにくくなるんですよ。
短所2:気軽にゴシゴシ拭けなくなる
レンズが汚れたとき、保護フィルターが付いていると汚れてもなんだか精神的に気軽にゴシゴシできちゃいます(私の場合)。なんなら場合によってはその辺のティッシュで応急的にゴシゴシしたりできるんですね。もし細かなキズが入ってしまっても買い換えればいいやみたいな感じで。
レンズ前玉の場合はキズやコーティングダメージがあると修理交換になるので(しかも前玉は大きいので結構高い)、結構慎重にクリーニングしなければなりません。
でも、最近のコーティングって結構信頼性が高いと思っているので、きちんと専用のツールを使うのであればそこまで神経質にならなくても前玉へダメージがいくということはないかと思います(私自身、前玉へダメージ入れたことはない。落下させて内部含めて死んだことはあるけど。。)
ちなみに個人的にレンズ直で拭くクリーニングペーパーは個包装製品だと激落ちくんが最高峰。ペーパーがとても柔らかく、適当にやっても拭き残りゼロ。拭き残す方が難しいくらい。単価がやや高いけど仕上げ拭きには非常に良いです。
短所3:ダサい(かもしれない)
伊達フィルターを使う場合、安いフィルターからの流用をすることが多いと思います。Lレンズとか高級なレンズを使っていてもフィルターには燦然と輝く「amazon basics」の文字w 周りから「良いレンズ使っててもフィルターが安物じゃぁね」なんて思われるかも知れません。
まぁ私は全然気にしないんですけどね。おめぇのフィルターより高機能だわ!と心の中で行っておけばよいのですw
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ということで、伊達フィルターが完璧なフィルターでないことは確かなのですが、結構無視できないメリットがあるんでないの?と思っています。
”伊達”保護フィルターの作り方
さて伊達フィルターのもう一つのデメリットは市販品が売ってないってことでしょうか。枠だけ売ってるというのは見たことがありません。だから自分で作る必要があるんですね。大丈夫、簡単に作れます。
作り方というよりフィルター枠からのガラス板の外し方ですね。ほとんどの場合、ガラスを割らずに安全に取り外せます。
フィルターからガラス板を外す方法
用意するモノは精密ドライバーセット。マイナスドライバーが2本以上あればOK。100均に売っているやつで十分です。
後述する「カニ目レンチ」という専門工具があればなおよし。
ガラスを固定している枠にある溝を見つける
ほとんどのフィルターは前側にガラスを固定している細い枠があり、よく見るとそこに溝が二カ所ついているんです。まずはそれを見つけましょう。
一部の高級フィルターには溝がないタイプもあります。この場合は今回の方法は使えません。より専門工具が必要になると思うのでガラスを割るのが手っ取り早いかも。。たぶん外すなら吸盤型レンチとか必要かと。
固定用枠を外す
溝が見つかったらここにマイナスドライバーを入れて反時計回りに回します。溝は2カ所ありますが上手く回すことができれば1カ所だけでするりと回ってくれるはず。
もう使わないフィルターならガラスの方に傷つけちゃったとしても問題ありません。回らないからといって力入れすぎるとドライバーが手に刺さったりするので要注意。
もし、1本で回らなければ2本のマイナスドライバーを溝に入れて、箸をもつ感じで2本いっぺんに回せばだいたい外れます(枠が歪んでなければ)。結構簡単です。
もしこれでも外れない or 面倒くさそうという場合は専門工具の「カニ目レンチ」というのがあります。これを使えば2本マイナスドライバーの幅を固定できるので超簡単に枠を外せます。
Amazonベーシックのフィルターはマイナスドライバーでワリと簡単に外せましたが、それだと外せないものもあり買ってみました。
ネジでフィルターのサイズに合わせて回すだけ。先端部分を変えることもできちゃいます。めっちゃ簡単に外せました。
ガラスを割る場合は細心の注意を
もしフィルターのガラス枠を割らなければいけなくなった場合は怪我をしない/させないよう細心の注意を払ってやって下さいね。ガラスが飛散しないように袋に入れて作業したり、保護めがね付けたり。普通の枠は上の方法で外れるので最後の手段だと思っていた方が良いと思います。
強化ガラスだと割るのも大変です。
ステップアップリングを使うという手も
普通のフィルター枠は単体での販売はありませんが、ステップアップリングなら枠だけ買えます。枠が数ミリ外に広がってしまいますが、そのぶんケラレの影響も小さくなるし、手持ちのレンズのフィルター枠統一をすることも可能です。
ただしステップアップリングを使うと後からレンズフードが取り付けられない可能性が高いので注意しましょう。
それでも保護フィルターがあった方が安心なシーン
ここまで伊達フィルターを推してきて私も現在ほとんどがこのフィルター(枠)を使用しているのですが、それでも保護フィルターがあった方が良いなと思うシーンはあります。
保護フィルターは常時装着ではなく、必要な時のみ装着というのが現在の私の使い方です。
激しい汚れが予想されるときは使おう
例えば料理の撮影(特に焼き肉とか)は結構油はねが多いのでレンズが汚れがちです。焼き肉行ってメガネ見たらめっちゃ汚れてるってよくありますよね。
こういう場合、逆光厳しいとか余りないと思いますので、保護フィルターを付けておいた方が後々楽です。(撥水、防汚タイプのフィルターを使いましょう)
HAKUBA 72mm レンズフィルター XC-PRO 高透過率 撥水防汚 薄枠 日本製 レンズ保護用 CF-XCPRLG72
砂埃や海水も注意
あと、砂埃とか海水も汚れとしては厄介です。
砂埃はブロワーやハケで大半は除去できますが、以外と端の溝に残ってたりするんですね。これを巻き込んでゴシゴシしてしまうと悲しい結果になります。中心から外側に向けてという原則を守っていればそうした事故は防げますが、初心者の場合は結構注意しないといけません。
また、海水などの塩水系も付いてしまうとキレイに拭き取るのにコツがいるので注意。
そういう意味では夏の晴れた日の砂浜での撮影というのはレンズにとってかなりハードな環境です。逆光耐性をとって保護フィルターなしで挑むか、伊達フィルターで攻めるかみたいな話になってきます。
前玉が動くタイプのレンズはさらに注意
多くのレンズは前玉が固定で、動くとしても鏡筒ごと伸びるわけですが、一部のレンズは前玉が動きます。するとそこから埃や水などの異物が浸入しやすくなりますから保護フィルターを使う価値はより高まります。
例えはEF 16-35mm F2.8L III USMなんかは前玉が動くんですね。保護フィルターしてしまえば蓋になるのでこの可動部は完全に保護出来るというわけ。(Lレンズなんで異物侵入対策は十分取られてると思うけど)
まとめ:常用から抜けたしてみるのも良いと思うよ
ということで”伊達”保護フィルターの使い方を紹介してみました。
撮影スタイルによってレンズの汚れ方やダメージも違うし、すべての人にオススメできるという訳ではありませんが、私自身1年以上このスタイルで運用してみて全く問題が無かったので紹介してみました。
最近は保護フィルターも高機能なものが多いので、(高級なものを使えば)画質への影響はかなり低く抑えられると思いますがないに越したことはありません。あと、個人的に大きいのはNDやPLがすごく使いやすくなった事。むしろこっちの理由でおすすめしたい。
今までは保護フィルター外すの面倒だからPL使わずなんとかするか。。とか考えがちだったのが、サクッとPL使おうという気になります。結果写真へもプラスの影響が出たりするわけです。
私の場合、通常の保護フィルターはNDやPLフィルターと同列でいつもは使わずフィルターケースに収めて現場に持ち出して必要な時のみ付けるというスタイルが定着しつつあります。
「常用フィルター」として保護フィルターを付けっぱなしにしている人も多いと思いますが、ある程度自分の撮るスタイルが分かってくる中級者以上の方であれば、一度保護ガラス無しという選択肢も頭に入れてみても良いかも知れませんよ!