今どきのC-PLフィルター活用事情とは
円偏光フィルターやサーキュラーPLフィルターなんて呼ばれることもある「C-PLフィルター」はレンズの先端に直接付ける事の出来る特殊フィルターの一種です。
このフィルター、反射した光に含まれる「偏光」と呼ばれる成分を除去できるため、偏光が含まれる空の色を変えたりや葉っぱの表面や水面に反射した光を除去することができるのです。
とても便利なフィルターですが、その使いこなしにはいくつかのポイントがあり、何も考えずに使うと画質を低下させるだけということも・・・。そこで今回はC-PLフィルターの使いこなしについて「光の反射」に着目しながら紹介してみようと思います。
空は後からでも青く出来る
C-PLフィルターの効果として良くあげられるのは「空の色を青くする」というもの。詳しい原理は割愛しますが、青空からの散乱光には偏光成分が多く含まれており、C-PLフィルターでその一部をカットしてしまうと空の色だけ少し暗くなります。明るくて青い色が暗くなれば「濃く」見えますよね。つまり、空がより青く見えるというわけです。(空気中のチリに反射した光の偏光成分をカットしてクッキリ見えるという話もあるかも)
例えばこのようなスカッと晴れた順光のシーンではC-PLフィルターは空の色に対して絶大な効果があります。
このように撮影時に空を青くするというのは有効ですが、これだけハッキリと効果を出せるのは限られた条件の時だけで、「C-PLフィルターで空を青くする」にはいろいろ制約があるんですよね。
太陽を背にして90°の方向が青くなる
C-PLフィルターを使って空を青くする場合は、太陽を背にした状態で、太陽とカメラの向きが90°の時最も効果があるとされています(ここが空からの偏光成分が最も多くなる)。
つまり使えるシーンが限られると言うこと。逆光ではほぼ使えず順光時しか効果がありません。
また、太陽との角度(仰角)も決まっているため、夏場の日中、太陽の高度が高いときなら低い位置の空の色が濃くなり、日の出、日の入りや冬場の高度が低いときは地平線から離れた上空の空が最も青くなると、色が濃くなる位置が決まっているのです。
ということで例えば超広角レンズで撮影したりするとこんな現象が起こってしまったりするんですね。
空をとても広い範囲で撮影してしまうと、ある部分はC-PLフィルターの効果がとても良く効いたスイートスポットに当たりますが、画面の端は太陽との角度がずれているフィルター効果の薄い場所も出てきてしまい、空の濃度にムラが出来るおかしな結果になったりすることもあるんです。
空を青くするために使うにはこの辺の空の色のムラまで考えてC-PLフィルターを使わなければならないので、使えるシーンが結構限られるのです。
効果のコントロールはフィルター枠の回転で
空のムラは酷ければファインダーで見ていても十分分かる範囲ですので、C-PLフィルターの効果を弱めてあげれば緩和できますが、それに伴い空の濃度は通常と同じくらいになるのでバランスをとるのには慣れが必要です。
フィルター効果のコントロール自体は簡単です。C-PLフィルターは枠が回転するという特殊なフィルターで、枠の前方を回転させると90°ごとに効果最大→最小→最大→最小・・・と変化していきます。(原理は割愛)
横構図の時にこの効果がベストだ!と思って枠の位置を決めても、縦構図にすると90°回転と同じになってしまうので全く別の効果になってしまう点に注意しましょう。
空はRAW現像で青く出来る
フィルム時代など撮影後の処理が大変な場合にはこの効果も重要だったと思いますが、今やRAW現像で色は変えることができるため、”ただ空を青くしたい”だけなら無理してC-PLフィルターは使わなくてもいいというのが私の考えです。
上記のシーンでC-PLフィルター使わない状態で空だけをLightroomで青くしてみたのがこちらです。左が補正前、右が補正後。
LightroomのHLSを使って青色の輝度を下げ、少し彩度を上げてみました。スライダーをグリグリしてみると空の色だけ変わっているのが分かると思います。C-PLフィルターを使ったときよりムラがずっと少なくなりましたよね。パラメーターをいじればもっと強い効果も出せます。
HSLなどLightroomの機能はこの記事が詳しいです
C-PLフィルターを使うのが悪いというつもりは全くなく、”ただ”青くするだけなら後処理でやった方が簡単だしキレイに行く場合が結構ありますよということです。
”ただ”青くするだけならね。
「反射」コントロールこそC-PLフィルターの出番
ということで前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本番です。ただ青くするだけなら後処理でやっても良いじゃんと言いましたが、では今の時代C-PLフィルターは不要なものなのでしょうか?
実はそうではありません。後処理ではどうにもならない部分をC-PLフィルターなら撮影時になんとかしてくれるスゴい機能があるのです。それが「反射光の低減」効果。
光は物体に当たって反射すると偏光が発生するのですが、C-PLフィルターを使うと反射光を効果的に除去できるのですね。
例えばこんなシーン。画面の右奥から低めの太陽が逆光気味に当たっています。
これがC-PLフィルターなし。モミジの葉っぱや苔の色が反射でハレーションを起こしてしまい色がぜんぜん出ていません。色が完全に抜けているので、これを元の色まで持っていくというのはかなりレベルの高いレタッチを行わなければ無理でしょう。
でも、これにC-PLフィルターをかけてみると。。。
何ということでしょう。反射光が消えてモミジの赤い色がハッキリと出てきました。苔の色も綺麗に出ています。すごいでしょ?
これら2枚の写真は同じ設定で現像も同じ条件です。下だけ色をいじったとかそういうことはありません。これが本来使うべきC-PLフィルターの正しい使い道かと思っています。
「後処理で出来ないことを撮影時にやっておく」そのためにC-PLフィルターを使うのです。
他にもブツ撮りや料理の撮影など反射する光があるシーンならどんなときでも使えちゃえます!
金属や鏡の反射には使えない
ただしC-PLフィルターが何でもかんでもすべての反射を除去できるとは限りません。有名なところでは金属面や鏡で反射した光は除去できないという話。
この写真をみてみてください。C-PLフィルターの効果が効いていない反射しまくりの写真です。
水面が反射して中が見えないし、奥の机もハレーションを起こしているし、葉っぱの表面も白くなっています。
そして奥のピンクの花が写った鏡にも着目。鏡も光の反射を利用したものなのでここからC-PLフィルターを効かせれば写っているものが消えるのでは無いか??と思うかも知れませんよね。
ではやってみましょう。
効果をバリバリに効かせて撮影しました。
見事に画面から反射が消えてコップの底が見えるようになったりし、背景の机の木目も見えるようになりました。葉っぱの色も出てきましたね。
でも鏡に映っているものは変化がありません。
鏡での反射は偏光が生じず、C-PLフィルターでは効果が無いということになるのです。ここはぜひ覚えておきましょう。
こんなに違う、反射あり/なしのシーン
C-PLフィルターが使いやすいシーンで代表的なのが風景をキリッとハッキリさせるというものです。
よく晴れた日に逆光気味の地上を高い所から撮影すると地面が白く反射して色が全く出ないということに遭遇したこともあるでしょう。
左がフィルター効果なし、右が効果MAXです。
これも撮影、現像ともに同条件。C-PLフィルターが効くシーンではこのくらい顕著に違います。持ってて良かったー!と思う瞬間ですね。
すべてのシーンで効果が出るとは限らない
今回例としてお見せしているのはかなり効果が強く出ているシーンを選んでいます。普段はここまで効果が顕著に出るとは限らないと覚えておきましょう。使っていくうちに慣れてくればここはC-PLフィルターの効果が出そうだなというのが分かるようになるはずです。
効果が出やすい条件としては、
- 良く晴れた日(光線が強い日)であること
スカッと晴れた鋭い太陽光があるシーンで特に効果が出やすいです(こういう日は反射がキツいから)。曇りの日も効果は出ますが、特に風景などは効果を感じにくいかもしれません。この後紹介する水面の反射などは曇りでも効果が高いはず
- 逆光気味のポジションで撮影すること
空の色を濃くするには順光が良いと言いましたが、反射を除去するなら逆光気味のポジションの方が良く効きます(というか、逆光のポジションでないと反射を強く感じないと思う)。光源と被写体とカメラの角度が90°前後になるときが最も効く気がします。
水面の反射にも使えます
金属面の反射には使えないけど、水面の反射には使えます。
ちょっと水面がキレイではないけれどこんな感じに効果が出ます。
水面の反射も通常の後処理でどうにか出来るレベルではないので、これを取り除けるというのはC-PLフィルターならではの効果なのです。
風景だけでなく街でのスナップにも
自然の中で使うフィルターと思われがちなC-PLフィルターですが、街の中でも使えます。例えばショーウィンドウを撮影する場合とか。
反射も角度によって効きやすいところ、効きにくいところがあり、上の例だと左のマネキンの部分の反射が最も良く除去できるように調整して撮影しました。奥のガラスに映っている部分は角度が違うので街の様子が適度に映っていますね。
ちなみに、ショーウィンドウに対してC-PLフィルターの効果が無い状態だとこんな感じで画面全体がうるさい感じです。
面白いのはガラスの反射は除去出来ていないけど、奥の青空は青くなっていること。被写体の反射と空の濃さは連動しないこともしばしばあります。
反射をすべて無くせば良いってもんでもない
ここまで、反射は無くした方が良いという感じの論調で来ましたが、そうでもありません。私たちの肉眼に見えている画像はフィルター無し画像ですから反射も見えているのです(人間の場合は脳内で反射がないシーンを想像しながら自動補正がされている)。
過度に反射を無くせば立体感のないのっぺりした雰囲気や不自然な見た目になってしまうこともありますのでそこは注意が必要です。
例えばこのシーンだと少し反射を残した方が個人的には雰囲気がでていて好みです。
さっきのショーウィンドウの写真も場合によってはガラスに映り込んでいるものが面白いという切り取り方もありますので反射を残す・残さないというのは撮影の意図次第なのです。
ということで個人的にはC-PLフィルターの役割は反射を除去するというよりは「反射をコントロールする」というイメージで使うのが良いかなと思ってます。
フィルターを使うデメリットは?
暗くなる
C-PLフィルターを使うデメリットの1つはレンズに入る光が減ることです。付けない場合に対して1~2段暗くなる感じ(光の量が1/2~1/4になる)。絞り優先モードで撮っているのならシャッター速度が2~4倍遅くなります(または感度を上げることになる)。
三脚を使った風景撮影などではあまり気にしなくても良い場面は多いですが、手持ちの撮影の時は手ブレなどに気をつける必要があります。
フレアやゴーストが多くなる
C-PLフィルターは2枚のガラス板を使っています。フィルターがあるとフレアやゴーストといったレンズ面の反射による解像度低下現象が起こりやすくなる点に注意。
僅かですが基本的には画質を低下させる方向に働くため、必要な時以外は外しておくのが良いです。保護フィルターを使っている人は面倒でも保護フィルターを外してからC-PLフィルターを使うのが原則です。
反射率の低いものほどフレアやゴーストは出にくいので、買う時は参考にしてみて下さい。反射率1%くらいが普通で、0.6や0.5%になると低反射率と言えます。最高級品だと0.3%というものも(高い)。
フードが使いにくくなる
C-PLフィルターはフィルター枠を手で回してコントロールするので、レンズフードを付けるとアクセスしづらいことがよくあります。フードしたままアクセスできれば良いですが、出来ない場合は一旦フードを外して調整したあとにフードをするというステップが必要。(私は面倒なので光線が厳しくなければフード無しで撮影しちゃうこともしばしば。。)
レンズによってはフィルターの回転をサポートする窓が付いたフードが用意されていることもあります。
また、後述するステップアップリングを使った場合はフードそのものが取り付けられないという場合も出てきます。
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効果は顕著ですが、基本的に使うのが面倒なのがC-PLフィルターですw
どんなフィルターが良いの?
C-PLフィルターは良く見るNDフィルターやソフトフィルターよりもちょっと高価です。枠が回転するという特別な機構があったり、フィルター自体の製造にも高い技術が必要だから。
基本的にはケンコー、マルミ、ハクバといった国内メーカーのものが無難です。Amazonで安売りされている国外(主に中国)メーカーのものは色がズレたりするので要注意。ただ、高品質なフィルターが売りのNiSiやKANIのフィルターは信頼できるかと思います(国内メーカーと同じかそれ以上に高いけど)
67mmのフィルター径のもので5,000~8,000円ほどする感じ。大口径用の82mm径だと10,000円くらいは覚悟しなければいけません。
個人的にはハクバのXC-PROが好きでよく使ってます。低反射率(0.6%)で撥水、防汚コーティングが付いて82mm径でも7,000円くらいとコスパも良い感じ。Amazonでしょっちゅう10%引きセールしてたりします。67mm径だと4,000円くらいです。
他社の上級フィルター並みのスペックなのにエントリーフィルターくらいの値段しかしない
フィルターの撥水、防汚コーティングは付いているとメンテナンスが楽で良いですよ。
HAKUBA 67mm PLフィルター XC-PRO 高透過率 撥水防汚 薄枠 日本製 色彩強調・反射光抑制CF-XCPRCPL67
フィルター径が違う場合はステップアップリングを使う
まあまあ高価なフィルターなので、持っているレンズのすべての径の数だけフィルターを揃えるというのは結構しんどいですよね。頻繁に使うというので無ければ大きなフィルターを買っておき、ステップアップリングを挟んで使うというのもひとつの方法です。
例えば上の例だとフィルター径77mmのレンズに、77mm→82mmのステップアップリングを付け、そこに82mmのC-PLフィルターを付けています。
ステップアップリングなら1つ1,000円もしないのでフィルター揃えるより経済的。NDフィルターなど他のものでも使えます。
ただしあまりに径の異なるものを使うと取り回しが悪くなるので(フィルター径ー15mm)くらいの間で使うのが良いかなと思います。
よく使う径のものは1段でなんとかできるものを使った方が良いですが、とりあえずいろいろな径に対応させたいという場合はこんなものを1つ持っていると良いかもしれません。Amazonで1,000円くらいで買えて、これさえあればとりあえず49mmから77mmまでの径にすべて対応出来ます(径の差が大きいとたくさん付けることになり外観はみっともなくなるw)。
激安フィルターは注意
Amazonなどで見かける激安フィルターは手を出さない方が無難です。使ってみたら色のバランスがすごく崩れてしまうとか、ムラが酷いという話は良く聞きます。
私も以前、C-PLフィルターではないですが、激安NDフィルターを試しに買ってみたら、色の崩れ方が酷いものでした。。 全体が紫っぽくなったりw
もし買うのであれば人柱になる覚悟で買った方が良いかと思います。
レンズフードが使えない
ステップアップリングを使うとレンズの径が増加するため大抵の場合レンズフードが使えなくなります。
フードした状態でステップアップリングを無理やり付けるということが出来るものもありますがとても面倒。基本的にはフードは使えなくなると思っておいた方が良いです。
フィルターケースも持ち歩こう
フィルターは汚れてしまうと画質低下に直結するためケースも持ち歩きましょう。
基本的には買った時に付いてくるケースを使えばOK。マルミとハクバは専用のワリとしっかりしたものが付いてきて好きです(フィルターのグレードによっては付いてこないものもあるかも)。ケンコーのフィルターはお店に並んでいるものそのものがケースになっている感じで個人的にはやや使いにくい。(これもグレードにより普通のケース付きのものもあるかも)。
フィルターケースが欲しいならマルミかハクバのものがおすすめです。
いっぱい入るケースもあると便利
1枚しか使わないなら購入時のケースを使えばOKですが、何枚もフィルターを持ち歩くなら複数枚収納出来るケースがあると便利。いろいろな形のものが売られてますが私は折りたたみ式よりボックス式のタイプが好みです。
私はこれが好きで3つも持ってます。上にラベルを入れられて、カメラバッグの外にも付けられたりするので便利。だいたいC-PLフィルターとNDフィルター2種、ステップアップリングを2個くらい入れている感じ。レンズクロスも入れられます。
取り付け、取り外しが面倒なフィルターなのでできるだけ使いやすいフィルターケースを選ぶことが快適に使うコツです。
まとめ
ということでC-PLフィルターの効果と使いどころについて紹介してきました。
途中でも言ったとおり、C-PLフィルターは反射光の除去というよりは「反射光のコントロール」と考えて使うといろいろ使いどころが見つかるはず。
ちょっと使うのが面倒なフィルターではありますが、このフィルターでなければ得られない絶大な効果というのがありますので、カメラバッグに1つ入れておいて損は無いフィルターですよ。
持っていない方はぜひ一度使ってみてくださいませ!