F値を変えても明るさは変わらない!?
一眼レフやミラーレスなど高機能なカメラで写真を始めると、”F値を小さくすると写真が明るくなる” とか、”シャッタースピードを遅くすると写真が明るくなる” なんて事を教えられることがあります。
カメラの原理から言えばそれは確かに真実なのですが、写真を始めたばかりの人にとってはそれはある意味で ”ウソ” でもあります。この関係は上級者向けの設定でのみ成り立つお話だからです。
F値(絞り)、シャッタースピード、ISO感度 と写真の明るさの関係はカメラの最も基本的な原理なので、どんな写真の入門書にも最初に書いてあるのですが、初心者の方にはかえって誤解を生む原因になっていたりするんですね。もちろん、過去私が書いてきた記事にも誤解を生むような表現がたくさん混じっていると思います。。
そこで今回は自身への自省も込めて、紛らわしい F値(絞り)、シャッタースピード、ISO感度の関係を一度分かりやすく整理してみたいと思います。
Av(A)モードを使っている場合はF値をどんなに変えても写真の明るさは変化しません。これを聞いて えっっ!? っと思った方はしっかり読んでみると幸せになると思います^^
*Tv(S)モードでシャッタースピードだけを変えても明るさは変わりませんし、AvやTvモードでISO感度を変えても写真の明るさは変わらないんです。
明るさの3要素をざっくりおさらい
かなり前に書いた記事(写真を始めたら真っ先に覚えたい、写真と明るさの関係性)にも書いてはいますが、ここで写真と明るさの関係についてざっくり復習してみましょう。(より詳しく知りたい方は関連記事のリンク先をご参照ください)
まずはカメラの原理として、写真の明るさ(露出)を決める要素は、絞り(F値)、シャッタースピード(SS)、ISO感度 の3つです。これ以外の要素で(カメラ側での設定に限れば)写真の明るさが変わることはありません。
そして、この3つの要素は三位一体となってお互いに関係しあっているのですね。
3つの要素をそれぞれ説明するとこんな感じです。
絞り(F値)
絞りはレンズの光の通り道のサイズを調整する役割。人間でいうと目の瞳孔です。F値が小さければ通り道が広がるため光をより多く取り入れ、F値が大きければ通り道が狭まるため少ない光しか取り入れられません。
また、副作用としてF値が小さければピントの合う範囲が狭くなり(ボケやすい)、F値が大きければピントのあう範囲が広くなります。
シャッタースピード(SS)
シャッターは光の通り道の門を開け閉めする役割です。SSが遅ければ光をより多く取り入れ、SSが早ければ少ない光しか取り入れられません。
副作用として、SSが遅ければ動いているものがブレやすくなり(手振れも!)、早ければ動いているものを写し止めやすくなります。
ISO感度
絞り、シャッターを通ってイメージセンサー(フィルム)にたどり着いた光をどれだけ増幅するかという度合いのこと。ISO感度が大きければ、入ってきた光をたくさん増幅して明るくできます。ISO感度が小さければあまり増幅しません。
副作用として、ISO感度が大きいと光を無理に増幅するので写真がザラザラ、ノイジーになります。感度が小さければ画質が向上します。
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ということで、写真の明るさはこれら3つの要素が複雑に(原理自体ははシンプルなんだけどね)絡み合って決まっているのです。
単に写真を明るくするといってもいろいろなパターンがありそうです。たとえば、
- F値を小さくして、SSとISO感度はそのまま
- F値とSSは変えずに、ISO感度を大きくする
- F値は大きくするけど、SSを遅くして、ISO感度も大きくする(下図)
などなど。。
詳しくはこちらもどうぞ!
ですから、カメラの原理を考えれば「F値を小さくすれば明るくなる」というのはあながち間違いではありませんが、ほかの2つの要素も気にかけなければならないのです。
成立するのはMモードのみ!
ちょっとややこしいお話をしてしまいましたが、このように「F値を小さくすれば明るくなる」というのは3つの要素を適切に変更したときのみに成り立ちます。
つまり、3つの設定を自分で決めるマニュアル(M)モードを使って撮影しているときのみに当てはまるお話だったのです。通常、カメラを手にしたばかりの初心者がMモードで撮ることはめったにないでしょうから、これが誤解を生む落とし穴だったのですね。
Av(A)、Tv(S)モードはセミオート
オートを卒業して、F値やシャッタースピードを意識するようになったときに使うモードはAv(A)モードじゃないかと思います。どんな本にも「まずはAv(A)モードで!」って書いているし。
このAv(A)モードは正式名は 絞り優先オートモード といって実は”オート”なんですよね。では何がオートなのでしょう?
絞り優先オートとは?
話がややこしくなるのでここではISO感度は変わらない事として話をすすめます。
Av(A)モードでは撮影者がF値を自分の好きなように変えられます。しかし、その裏側ではF値の変化分を打ち消すように(明るさが一定になるように)カメラが”自動的”にシャッタースピードを変化させているのです。セミオート ということです。
ですから撮影者がF値を小さくすれば(光がたくさん入ってくるので)、カメラはその光を減らすためにシャッタースピードを自動的に早くします。 F値を大きく設定すれば(光がちょっとしか入らないので)、カメラは自動的にその光を補うようにSSを遅くします。
カメラに慣れていない人でも明るすぎとか、暗すぎといった失敗写真にならないようつねに一定の明るさになるような親切設計がされているという事ですね。
実際の写真で見てみましょう
慣れないと普段気にする事が無いと思いますが、F値を変えていくとファインダーの中のSSの表示が自動的に変わっていきます。下の写真にAv(A)モードで撮ったときのSSを表示しています。F値が大きくなるにつれて、それを相殺するようにSSが遅くなっていくのが分かりますね!
ということで、どれだけF値を変えても、Av(A)モードを使っている限りは写真の明るさは変わらないという事がお分かりだと思います。(カメラの設定限界を超えない限り)
同じ被写体をF2.8で撮ろうが、F11で撮ろうが、裏でカメラが自動的にSSを調節してくれているので、写真の明るさは一定のままなのです。
多くの人が使っているAv(A)モードを使っている以上、F値を小さくすると写真が明るくなるというのはウソなわけです。
Tv(S)モードはAv(A)モードの逆!
Tv(S)モードでも同じこと。絞りとSSの関係が逆になっただけで、SSを自分の好きな値に変更している裏で、カメラは明るさが変わらないように絞り(F値)を自動的に設定しているのですね。
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さらにISO感度までオートにすれば、Av(A)モードなら撮影者はF値だけを決めて、カメラはF値の変化分を打ち消すように、SSとISO感度のバランスを取りながら自動的に変化させているのです。
では、明るさを変えたい時はどうすればよいのでしょうか??
**コラム:SvとTAvモード**
PENTAXのカメラにはAv、Tvモードのほかに、TAv、Svという二つのモードがあります。TAvは絞りとシャッタースピードの両方を撮影者が決めて、カメラがISO感度を自動で変えることによりその変化分を相殺するモード。SvはISO感度を撮影者が決めて、カメラが絞りとシャッタースピードを自動で変えることでバランスをとるモード。
Av、Tvの理解がしっかりできていればこれら2つのモードを使う場面はほとんどありませんが、デジタルカメラならではのモードですね。なんせ、フィルムカメラはフィルム自体にISO感度が設定されているので、一枚ずつ感度を変えて撮るなど考えられなかったのです。
明るさ変更は露出補正で!
じゃぁ、Av(A)やTv(S)モードを使っているときに写真の明るさを変えたい時はどうするのか?というと、その時は「露出補正」を使います。
カメラのボタンやダイヤルに「+/-」マークが書いてあると思いますがこれが露出補正。そのボタンを押して±0(ゼロ)を基準にプラス側にしていくと写真は明るく、マイナスにすると暗くなるのですね。液晶やファインダーの中にスライダーバー表示されて直感的にわかりやすい機種も多いです。
じゃぁ、この露出補正は何を補正(変更)しているのかというと、Av(A)モードの場合はシャッタースピード(SS)を変更しています(ISO感度は固定してるとして)。
F値の変更分を補うようにSSを変更したけれど、写真が暗いなぁと思ったときは露出補正をプラスに設定して、シャッタースピードを遅く補正してあげるのです。明るいなぁという時は補正をマイナスにしてシャッタースピードを速くしてあげるのですね。
詳しくはこちらのエントリーをどうぞ!
⇒ 実は、カメラは「”白”を白くしない」のワケ。
⇒ カメラの”○○段”、”××EV”ってなんなんだ??
実際の写真で確認してみる
上の写真の例で、F値を固定したまま露出補正をしていくとカメラが自動的に設定したSSが補正されていくのが分かりますね。
*ちなみに、上の写真の場合、カメラが自動的に決めた”ちょうどいい明るさ”である±0EVは人間にとってはやや暗いですね。。+1EVくらいの明るさがちょうど良さそうです。
ISO感度もオート設定にすれば、SSとISO感度を使ってカメラがバランスを見ながら設定を補正してくれます。
また、Tv(S)モードなら、Av(A)モードとは逆に露出補正時にF値が自動的に補正されます。
まとめ:明るさを変えたいなら露出補正!
ということで、ちょっとややこしかったかもしれませんが、Av(A)やTv(S)といったセミオート機能を使っている限り、F値やSSをいくら変えても写真の明るさは変わりません。
写真の明るさを変えたいなら「露出補正」を変更しなければなりません。
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Av(A)モードでF値を決めて、露出補正でSSを補正するという行為は、マニュアル(M)モードでF値を決めて、明るさが最適になるようにSSを設定するという行為とさほど変わりません^^(だから、Mモードには露出補正という概念がありません)
この原理さえ頭に入っていればマニュアルで撮るというのも実はあまり難しくないということですね。
普段なかなか気にする事が少ないと思いますが、絞りとシャッタースピード(慣れてきたらISO感度も)の関係も注意しながら写真を撮ってみるときっと新たな発見があるはず。この仕組みさえ理解してしまえば写真の露出というのは驚くほど簡単に理解できてしまうのです。