久しぶりのBenQ本気のカラーマネジメントディスプレイが出た!
正確なRAW現像や動画編集に欠かせないのがカラーマネジメントディスプレイです。ハードウェアキャリブレーションという特別な機能により、普通のモニターを大幅に凌駕する色再現性を実現するスゴいディスプレイ。
世界でも限られたメーカーでしか作られていないカラーマネジメントディスプレイの大手BenQ(ベンキュー)が久しぶりに新機種を投入しました。しかも2機種同時に!
BenQの歴代カラーマネジメントディスプレイのほとんどを使い、現在も3枚のSWシリーズを使っているリアルユーザーの私が、新型カラーマネジメントモニターSW272UとSW272Qの2機種について詳細にレビューしてみたいと思います!
この記事はBenQさんとのタイアップです。検証は特に明記しない限りWindows11で行っています。
SW272U、SW272Qの特徴まとめ
まずは忙しい人向けにBenQの新型カラーマネジメントディスプレイSW272UとSW272Qの特徴や相違点、従来機種との違いについて簡単にまとめていきます。詳しい内容は後半で。
違いは(ほぼ)解像度だけ
SW272UとSW272Qはいずれも27インチ画面です。一般的なデスク環境でクリエイティブ作業をするのであれば最もちょうど良いサイズ感の画面ですね。私も27インチ大好きです。
両者の最大の違いは解像度になります。というか、解像度以外のスペックはほぼ同等といって良いかもしれません(細かな違いはいくつかあるのだけど)。
SW272Uは4K(3840x2160)解像度(UltraHD)です。27インチで4K解像度となると画素がミチミチに詰まっているので超滑らかな表示が可能。高画素機+高解像度レンズで撮影したパキパキの写真も細部をしっかり見ながら編集ができちゃいます。4K動画もそのまま再生できますね。画面内の情報量が増えるので生産性向上にも有効。
SW272Qは2560x1440解像度(WQHD)です。27インチとしては一般的な解像度ですね。フルHDの2倍の画素数があるので一般的な写真編集であればこちらでも十分なスペック。
SW272Uは現在のSW271Cの後継、SW272QはSW270Cの後継とみることができます。それぞれの過去のレビューも参考にしてみてください。
広色域、ハードウェアキャリブレーション対応、画面ムラ補正付き
両機種ともカラーマネジメントディスプレイなのでAdobeRGBやDisplay P3といった広色域に対応しています。一般的なモニターよりもずっと広い色を表示できるということですね。RAWで撮影した写真にはかなり広い色が記録されていますがそれを最大限活かした編集が可能になると言うこと。
ハードウェアキャリブレーション対応なので、別売りのモニターキャリブレーターという測定器と連動することでモニター側で色調整を詳細にコントロールし。本体に設定を保存できるようになります。
両機種共にBenQのプロ向けカラー水準をクリアしたものに与えられるAQCOLORシリーズに属します。もちろん10.7 億色の10bitカラー表示です。ユニフォーミティ補正回路も組み込まれているため画面全体でかなり均一な表示が可能です。
Palette Master Ultimate対応
最も大きな変化と言って良いのがキャリブレーションアプリがPalette Master Ultimateに進化したことです。これまでBenQのカラーマネジメントディスプレイでキャリブレーションを行うにはPalette Master Elementというアプリを使う必要がありましたが、機能、安定性共に今ひとつ物足りなく、ここが一つの欠点というべきポイントでした。
SW272UとSW272Qでは機能強化されたPalette Master Ultimateに対応。UIもより洗練され、クラウドとの連携ができるなどかなり使いやすくなりました。待望のICCプロファイル自動切り換えにも対応したことでより広いシーンで正確な色再現性が実現できます。
刷新された本体デザイン
BenQのカラーマネジメントディスプレイとしては約2年半ぶりに登場したSW272UとSW272Qはデザインも刷新されてよりスタイリッシュになっています。
メーカーロゴさえほとんど見えないスーパーシンプルなベゼルは写真編集に深い没入感を与えてくれるし、極薄でレザー調のベースプレートとなったスタンドはモニターアームを使うのがもったいなくなってしまうほど。OSDメニュー用ボタンもジョイスティック形式になるなど操作性が大きく向上しています。
USB Type-Cで90W給電
どちらも最近のトレンドであるUSB Type-Cによる映像、データの転送と給電に対応しています。パソコン側が対応していればケーブル1本を繋ぐだけですべての機能が使えるだけでなく、給電も可能。
給電はこれまでの60Wから90Wに大幅パワーアップ。AppleシリコンのMacBook Pro 14インチでほぼフルパワー充電可能です。一般的なモバイル機器ならほとんど電力に困ることはないでしょう。
ホットキーパックがワイヤレスに進化
BenQ独自のコントローラーで、私も大好きなホットキーパックが第3世代となり、ワイヤレス化しました!ホットキーパックG3を使えばベゼル下の物理ボタンに触れること無く、手元でモニターのOSDメニューを操作できます。
ショートカットキーが付いているため、ワンボタンでAdobeRGB⇔sRGB色域を即座に変更することもできます。普通のモニターではなかなか実現できない便利機能ですね。
すべての性能が従来モデル同等かそれ以上の正常進化
他にも、画面を2分割できるGumutDUOや強制モノクロ化できるモノクロモード、HDRやビデオフォーマット24P/25P/30Pに対応などまさにフォトグラファー、ビデオグラファーに最適化されたモデルに進化しています。
もちろん、BenQの特徴である本格モニターフードも標準付属してきます!
SW272U、SW272Qの価格は?
かなり高機能なディスプレイなので価格は高めですが、全部入りカラーマネジメントディスプレイとしては標準的な価格帯かと思います。
執筆時の価格は4KのSW272Uが定価242,000円(+税)、Amazonでは221,057円(税込)。WQHDのSW272Qはまだ発売前ですが、9/4発売、132,000円前後(税込)となる見込みです。(AmazonでSW272Qの予約も始まっていますが、公式ではない業者が高めの値付けをしているので注意)
どちらも旧モデルの価格(円安、資源高などで値上げ後)と同じくらいの水準の価格ですね。
BenQ AQCOLORシリーズ 27型 フォトグラファー向けモニター SW272U(4K/IPS/HDR10/AdobeRGB 99%/DCI-P3 99%/...
ベンキュージャパン BenQ AQCOLORシリーズ 27型 フォトグラファー向けモニター SW272Q(WQHD/IPS/HDR10/Adob...
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こんな所がSW272U、SW272Qの主なトピックです。人気のあった27インチの4K、WQHDモデルを一気に正常進化させてきました。以下には色再現性やPalette Master Ultimate、デザインなどを掘り下げて詳しく解説していきます。
YouTubeでも解説しています
動画でもSW272U、SW272Qの解説をしました!ぜひこちらもご覧下さいませ!
お時間がある方は以下もどうぞ!
進化した色再現性
ここからはSW272U、SW272Qの機能についてもう少し掘り下げてレビューしていきます。まずは色再現性から。
Display P3が強化
両機種ともBenQが定めたプロ向けカラー水準をクリアしたものに与えられるAQCOLORシリーズに属するモデルで、BenQ史上最高の色再現性を実現しています。
公称スペックはsRGBカバー率100%はもちろん、AdobeRGBカバー率も99%。さらに、映画業界でよく使われ近年のApple製品の基準になりつつあるDisplay P3も広くカバーし、SW272Uは99%、SW272Qは98%です。AdobeRGBとDisplay P3はカバーする色域が異なるため両者をしっかりカバーするのは難しいのにも関わらず高い水準です。
これまでBenQのSWシリーズではAdobeRGB99%を優先して、Display P3のカバー率は90~97%に留まっていましたが、SW272U、SW272Qならどちらの色域もしっかり使う事ができますね。
実際に測定してみた
手元のキャリブレーターを使って実際にどのような色域変化があったのか測定してみました。ややマニアックな話なので読み飛ばしてもOKです。キャリブレーターはi1 Display Pro Plusを使用しています。
SW272Uのカバーする色域
基準となるsRGB、AdobeRGB、DCI P3に加え、同じ27インチ4KのSW271Cの過去のデータを重ねてみました。SW272Uが紫のラインです。見て分かるように最も広い領域をカバーしていますね。
AdobeRGBカバー率は99.6%(面積比112%)、DCI P3は97.7%(111%)、sRGBは99.9%(151%)となっています。
DCI P3のみ公称の99%に僅かに届かない結果でしたが、ほとんど誤差の範囲といって良いかと思います。旧モデルのSW271C(緑)ではAdobeRGBをカバーするのが精一杯で、DCI P3カバー率は90%と取りこぼしが多かったですが、SW272Uでは赤方向の色をより広く表示できるように進化していますね。
私が今まで使った事のある4KディスプレイはWQHDやFHDの低解像度パネルに比べて色域の広さで劣る部分があったのですがSW272Uのパネルはかなり進化しており、良いものを使っていると思われます。
sRGBを完璧に表現できるということは言うまでもありません。ちなみに映像でよく使われれるRec.709の色域はsRGBと同じです(ガンマが違う)。
参考までにCIE 1976 UCSで比較した図も載せておきます。こちらの方が色の差(色差)を示すのに適した図です。もう少し詳しく知りたい方は過去のSW270Cのレビュー記事を参考にしてみてください。
SW272Qのカバーする色域
同じくsRGB、AdobeRGB、DCI P3に加え、現行の27インチWQHD、SW270Cの過去のデータを重ねてみました。SW272Qは薄紫のライン。緑方向が大きく広がっています。
AdobeRGBカバー率は100%(面積比117%)、DCI P3は95.4%(117%)、sRGBは100%(158%)と十分な広さです。
DCI P3がやや低く感じますが、緑方向が強いとDCI P3の誤差が出やすいので次のCIE 1976 UCSも見てみて下さい。ほぼ公称通りのスペックです。
WQHDのパネルは色域が広いものが多く、先代のSW270Cもかなり優秀だったのですが、SW272Qはそれをしっかり超えてきていますね。
同じものをCIE 1976 UCSで比較した図はこちらです。普通の地図(メルカトル図法)では北極付近の面積が実物より大きく見えてしまうみたいな感じで、普段良く見るCIE 1931色度図は緑付近の色が実際より広く見えてしまうんですね(仕組みは違うはず)。
この図でSW272QのDCI P3カバー率を計算すると97.8%(面積比112%)とほぼ公称通りの結果になりました。
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この結果を見ると、これまで広色域化に苦戦していた4KのSW272Uがかなり頑張ったんだなぁというのが分かります。素晴らしい進化です。SW272Qも安心感のある結果ですね。
10bitカラー、16bit 3D LUT
一般的なモニターはRGB各8bit(256階調)の約1677万色を使って表示を行いますが、SW272U、SW272QならRGB各色10bit(1024階調)約10億7374万色の圧倒的な色数で表現が可能です。
10bit表示を使うにはNVIDIA GeForceシリーズなど対応のグラフィックカードと10bit対応アプリが必要ですが、皆さんがよく使うPhotoshopやLightroom Classicはいずれも対応済みです。RAW画像は通常14~16bit記録されているため10bit表示の恩恵があります。
いずれもアプリ側で設定が必要になりますが、対応している方は使わない手はありません。設定方法などは以下の記事を参考にしてみてくださいね。
安心の16bit 3D LUT
パソコンの映像信号を受け取り、ディスプレイ上でどの色を発色させるのかを決めるのはLUT(Lookup Table、ラット)のお仕事です。搭載されているのは16bit 3D LUTという最高峰のものに対応しているため、ディスプレイの性能をしっかりと発揮することが可能。
8bitまたは10bitでパソコンから来た信号を内部で16bitに多値化し、それをまた8bitまたは10bitで表示しているので優れた階調表現が可能です。
画面ムラ補正も搭載
写真編集するときは中央だけでなく、画面全体を見ながら行いますよね。ところが、一般のモニターは画面の外に行くにつれ暗くなっていくものがほとんどです。SW272U/Qでは画面全体の明るさを均一にするユニフォーミティ補正回路を搭載しているため、写真を画面一杯に表示しても正確に編集することが可能です。
私が普段使っているディスプレイはすべてムラ補正機能付きですが、横に並べてみても遜色なく、見ていて気持ちの良い仕上がりですね。
画面ムラ補正は高級モニターの証ともいえる機能です。
ターゲットは3つまで登録可能
ハードウェアキャリブレーション対応なのでキャリブレーションの結果は本体側に3つまで登録可能です。写真編集用のAdobeRGB、映像編集用のRec.709、WEB用のsRGBといった感じで登録でき、呼び出すときはボタン一発で完了。1枚のディスプレイで3枚分の機能を持っているということもできます。
Palette Masterがフルモデルチェンジ
どんなに高級なディスプレイでも経時で色が変化してしまいます。工場出荷時に個別に調整されたSW272U、SW272Qも例外ではありません。経時で変化する色を定期的に補正して常に同じ色が表示できるようにするのがキャリブレーションです。
このキャリブレーションを行うには専用のアプリ*が必要なのですが、これまでBenQが無償で提供していたPalette Master ElementがPalette Master Ultimateに全面刷新されました。こちらもユーザーなら無償で使えます。
*キャリブレーターという測色器も別途必要です
これまでBenQのカラーマネジメントディスプレイSWシリーズはパネルの性能などハード側の性能は非常に高いものがありましたが、ソフト側の性能がそこに追いついていない印象がありました。BenQの中の人にもPalette Masterの改善を何度もお願いしていたのですがようやく実現したのです。めでたい。
分かりやすいUI&クラウド対応
Palette Master Ultimateは先代からフルモデルチェンジと言って良く、デザインも刷新されています。導線もかなり分かりやすくなり初心者でも使いやすいはず。
キャリブレーションアプリとしては珍しく、クラウドにも対応。設定内容をBenQのクラウドに保存することでパソコンが変わっても、いつもの設定内容でキャリブレーションが可能。使用するクラウドは独自のBenQ IAMを使用しているようです。
最後の微調整が可能な「高度な色調整」
マルチモニター環境で作業している場合、横並びの2台のグレーバランスが微妙に異なって気になる……というときがありますよね。人間の視覚はとても優秀なので全く同じターゲットでキャリブレーションを行っても「なんかちょっと違う」という場合はどうしてもあります。特にGやM被りは気になりやすい。
そういうときに有効なのが新搭載の高度な色調整。キャリブレーション後の僅かな色のバラツキを手動で補正することができます。目視で補正するため過度な利用には注意しなければなりませんが、メインモニターを基準に、サブモニター側を微調整するといった利用には便利。
キチンとキャリブレーションしていれば補正量は1~2コマで十分です。
待望のICCプロファイル自動切り換え
個人的にPalette Master Element最大の欠点だと思っていたのが、ICCプロファイル(モニタープロファイル)の切り換え問題。(ここはマニアックなので読み飛ばしてもOKです)
従来のPalette Master Elementではキャリブレーション時に生成されるのはターゲット色域によらずディスプレイネイティブの最も広い色域のICCプロファイルでした。
例えば、キャリブレーションターゲットをsRGBとしたときも、生成されるICCプロファイルはsRGBを大きく超えるプロファイルが生成され、パソコンからは広い色域の映像信号がモニターに転送され、ディスプレイ側でsRGBに変換されて表示されるというような仕組みでした。ディスプレイ側とパソコン側の設定色域にミスマッチが起きていたんですね。
この場合、ディスプレイネイティブの広い色域が表示できる状態でPhotoshop上でAdobeRGBからsRGBに変換した結果と、ディスプレイ側をsRGBに限定した状態でsRGB画像を見るのとでは微妙に見え方が異なるという問題があったのです。(従来機種でもターゲット色域を「ネイティブ」に設定しておけばミスマッチは起こりません)
Palette Master Ultimateでは色域ターゲットに応じたICCプロファイルを生成してくれ、モニター側の表示設定を変更するとOS側のICCプロファイル(モニタープロファイル)も自動的に変更してくれるようになっています。これによりsRGBやRec.709のような狭い色域をターゲットにした設定では、Photoshopなどカラーマネジメントが効くアプリならディスプレイに届く信号がきちんとsRGBやRec.709用の信号として送られ、より正確な表示ができるようになっています。
他社のカラーマネジメントディスプレイもICCプロファイル自動切り換え方式が一般的なので、Palette Master Ultimateで業界標準の方式になったと言えます。
SW270Cなどでも使える
嬉しいことにPalette Master Ultimateは新型のSW272U/Qだけでなく、先代のSW271C、SW270Cなど1世代古い機種にも対応しています。対応機種を現在お使いの方なら新しいものを買い増しても同じアプリを使ってキャリブレーション環境を構築出来るのはかなり有り難いですね。マルチモニター環境の安定性も向上しています。
Palette Master Ultimate対応機種は23年8月現在以下の6機種です
SW272U, SW272Q, SW240, SW270C, SW271C, SW321C
対応キャリブレーターもCalibrite社、旧X-Rite社、Datacolor社のメジャーなものに対応しています。
Palette Master Ultimate対応キャリブレーター
1. X-rite i1Display Pro/ Calibrite ColorChecker Display Pro/ X-rite i1Display Pro Plus /Calibrite ColorChecker Display Plus/X-rite i1Studio /Calibrite ColorChecker Studio
2. X-rite i1Pro 2 / i1Pro 3 / i1Pro 3 Plus
3. Datacolor Spyder X
安定性は改善の余地あり
まだ生まれたてのPalette Master Ultimateは、使っているといくつかの点でおや?っと思う部分がまだ残されています。日本語の表示ズレ的な部分もいくつかあったり。バグはまだ潰し切れていなさそう。
このレビューは基本Windows環境で検証を行っていますが、先日Mac(MBP 14 M1Pro)で試したところ、私の環境(Monterey(12.6.5))ではキャリブレーションが正常にできない問題があり、BenQさんに相談したところだったり。
このへんは私ももう少し使い込みながらBenQさんとコミュニケーションをとっていきたいと思います。
ただ、今までのPalette Master Elementよりはずっと大きな伸びしろがあると感じます。
動画で詳しい使い方を解説しています
Palette Master Ultimateの詳しい使い方をstudio9のYouTubeチャンネルで紹介しました!設定項目を最初から最後まで解説していますのでぜひ参考にしてみてください!
作業に集中できる考え抜かれたデザイン
SW272U、SW272Qは従来のSWシリーズからデザイン面でも新しくなっています。ここからは外観を中心に見ていきましょう。特に明記がない限り写真はすべてSW272Uのものですが、たぶんSW272Qも同じです。
スタイリッシュなスタンド
まず一目で変わったと分かるのはディスプレイのスタンド。今回から円柱状となりより細くスッキリ見えるようになっています。さらに注目すべきはベースプレート部分。限りなくフラットで薄いものに変更となっています。
大きなディスプレイを置くとデスクスペースが狭くなってしまうと感じますが、これならベースプレートの上にも小物類を置いても安定します。ちょうどテンキーレスのキーボードが収まる感じの広さ(幅約36cm、奥行き約27cm)です。ベースプレート部分もデスクの一部として利用できるため狭さを感じません。
プレートの形もデスクの隅に置いてもはみ出さないような効率的なデザイン。ケーブルをまとめるループも付属です。
さらに表面はレザー調の素材となっており、デザイン的に優れるだけでなく、カメラやレンズを置いても傷が付きにくいというメリットも。私はモニターアーム派なので普段付属スタンドは使っていないのですが、このスタンドならそのまま使うのもアリかもなと思います。
縦表示も可能
スタンドの可動域は左右に±30°、上20°、下5°となっています。先代のスタンドが左右±45°だったのでこの部分のみスペック的には劣っている部分ですが、まぁ30°可動すれば普通は十分でしょう。
もちろん縦表示も可能です。回転方向が時計回り90°に限定されるため下部ベゼルが必ず左側に来てしまう点のみ注意です(これまでと同じ)
ウルトラシンプルな極薄ベゼル
左右と上部はほぼベゼルレスとなっており、スッキリしています。注目すべきは下部ベゼルで、ほぼ何もないツルンとしたデザイン。
編集作業をしているとベゼル部分のロゴや電源ボタンのランプ、OSDメニューボタンの存在が意外と気になってしまうのですが、SW272U/Qはほとんど何もないので全く気になりません。
普通は目立つ位置に配置されるメーカーロゴでさえ一番端に配置され、しかもほとんど見えないという徹底ぶり。先代のモデルもメーカーロゴは極力目立たない色になっていましたが、今回のモデルは「ほぼ見えない」レベルです。よく頑張ったと思います。
ジョイスティックも搭載
ボタン類も前面からベゼル下部に移動されています。個人的にはOSDメニューボタンは下部にあると操作しにくいと感じるのですが、SW272U/Qはボタン形状を変えて押し間違いを防いだり、押しやすいクリック感があり操作感は非常に良いです。
さらに、ジョイスティックも搭載されOSDメニューを上下左右直感的に操作が可能です。ここまでボタン操作がしやすいディスプレイは初めて使いました。カメラ上級機のマルチコントローラーを操作している気分。めちゃいいです。
ただし、ディスプレイ設置時や上下移動時にここが激しくぶつかると破損しそうなので注意。
USBポート / SDスロットも下部に移動
これまでの機種はUSBポート / SDスロットが背面側にありアクセス性が悪かったのですが、今回から下部左側に配置されました。キャリブレーターのUSBポートも繋ぎやすい位置です。Type-Aが2ポートとなっていますが、Type-AとType-Cが1つずつだったらより最高でした。
ヘッドホン用の3.5mmジャックも付いています。
背面はケーブルを隠せる仕様
映像入力端子はHDMI (v2.0) x2、DisplayPort (v1.4) x1、USB Type-C x1の計4系統と十分です。入力ポートの切り換えも進化したOSD用ボタンやホットキーパックG3で簡単に行えます。
ケーブルカバーが付いたことにより従来よりもスッキリ配線することができるようになっています。
ケーブル類はHDMI/DisplayPort/USB Type-C/USB TypeB/電源ケーブルとすべて付属するので買ったらすぐに使う事ができるのもポイント。
モニターフードも標準付属
BenQのカラーマネジメントディスプレイではお馴染みとなった、モニターフードも標準付属しています。別で買ったら10,000円以上するかなり本格的なやつです。モニターフードは付けるだけで反射を抑え、パネル本来の性能をしっかり引き出せるので付けた方が絶対良いです。
何度も言いますが、これだけ高コストなモニターフードを標準付属するというのはBenQがしっかりとフォトグラファーやビデオグラファーのことを考えて製品開発している証拠だと思っています。
4KのSW272Uは縦横両方に対応、WQHDのSW272Qは横表示のみ対応のモニターフードが付属しています。
2つを連結することも可能
別売りにはなってしまいますが、2台のモニターフードを連結できるオプションパーツも用意されています。
マルチモニター環境ではディスプレイの境目でフードが視線移動の邪魔になってしまうため、私も以前からBenQの中の人にマルチ環境でも快適なモニターフードが欲しいとお願いしていたのですが、ついに実現してくれました。この遮光フードブリッジ HB27を使えば視線移動を妨げること無く、2台のディスプレイを連結することができます。
繋げられるのは27インチ同士*ならこうした連結も可能です。BenQさん、32インチや27+32インチ用も欲しいです!!(私のメインモニターは32インチのSW321Cなので……)
遮光フードブリッジ HB27対応なのは今のところ以下の5機種です
SW272U, SW272Q, SW271, SW271C, SW270C
まだある便利機能
機能てんこ盛り過ぎてまだまだいろんな機能があります。ざざーっっと紹介していきます。
ホットキーパックがワイヤレス化
BenQ独自の外部コントローラー、ホットキーパックが第3世代(G3)となりついにワイヤレス化しました。これまで有線の煩わしさからは解放されますね。テレビのリモコンと同じ赤外線(IR)方式のためBluetoothのような余計な設定も必要ありません。
ホットキーパックには3つのショートカットキーを含む6つのボタンと1つのダイヤルでモニタのOSDメニューをすべて操作できます。先ほどディスプレイ下部の操作ボタンが使いやすくなった!と言いましたが、ホットキーパックを使えばさらに快適に設定をコントロールできます。
3つのショートカットにはモニターの色設定、または入力ポートの選択を割り当てられます。ショートカットキーを3秒長押しすると設定画面に飛べます。
マルチモニターにも対応
ホットキーパックG3の後ろには1~3の切り替えスイッチも付いています。つまり、1つのホットキーパックG3で、3枚までの対応モニターをすべてコントロールできるということ。かなり最高です。
操作しやすい傾斜デザイン
ボタンやダイヤル操作しやすいように傾斜デザインとなっているところもポイント。適度な厚みはソリッド感もありお洒落デスクに置いても違和感のない仕上がりだと思います。
90W給電のUSB Type-C
ノートPCユーザーには有り難いUSB Type-C接続は先代から対応されていましたが、SW272U/Qは給電パワーがアップし、最大90W(20V 4.5A)に対応しています(先代は60W)。
M1/M2 Macbook Pro 14インチのフルパワー充電が96Wですから、それに匹敵するパワーです。よほどおかしな使い方をしなければ16インチ Macbook Proでも給電が追いつかないということはないはず。
もちろん、TypeCケーブル一本で映像の転送、データの転送も行えます。ノートPCユーザーならケーブル一本刺すだけで大画面のデスクトップ環境が構築出来る訳ですね。
使用するケーブルは付属のもの(1.5m)か、Thunderbolt 3または4ケーブル、もしくはTypeCで100W給電&映像転送(DP ALTモード)に対応しているものを選びましょう。
異なる色域を見比べられる
1枚のモニターで異なる色域を同時に表示するGamutDUOや画面を強制的にモノクロ化できるB&Wモード(モノクロモード)も引き続き搭載されています。
一方でPIP/PBP機能は搭載されていないようです。
ビデオフォーマットにも対応
パソコンで使う時は多くの方がディスプレイを60Hzのリフレッシュレートで使うと思いますが、SW272U/Qは映像でよく用いられる24P, 25P, 30pでの表示にも4:2:2 4:2:0 4:4:4 それぞれの圧縮形式で対応しています。
SDIコンバーターとの互換性もアップ
本格的に映像やっている方ならSDI出力の機器を使っている方も多いと思います。SW272U/QはSDI-HDMIコンバーターでの入力にも最適化され互換性が向上しています。市販のメジャーなコンバーターでの動作確認も行われているので安心して使えるのも嬉しいですね。
現在確認されているコンバーターは以下の通りです
Black Magic Micro Converter SDI to HDMI / Black Magic Teranex Mini SDI to HDMI 12G / Black Magic DeckLink 4K Extreme 12G / AJA KONA5 / AJA Hi5 12G
確認済解像度: 3840x2160 / 確認済フォーマット: RGB 4:4:4 /YCbCr4:4:4 @10 bit(24P/25P/30P)
YCbCr 4:2:2 @8bit /10bit(24P/25P/30P/50P/60P)
3年保証+センドバックサポートにも対応
AQCOLORシリーズに属するSW272U/Qは標準で3年の保証が付いています。さらに、万が一修理が必要になった場合には代替機貸し出しが受けられるセンドバックサポートに対応しているのもポイントです。
プロユーザーであれば、修理期間中に代替機が無ければ仕事に支障をきたしてしまうことがあります。センドバックサポートなら、修理前に代替機を受け取り、その箱を使って要修理機を送り返すといったプロセスでワークフローに与える影響を最小限に抑えられます。
センドバックサポートを受けるには1回5,500円の費用がかかりますが、箱が巨大なのでほぼ往復の送料分で代替機の貸し出しを受けられるといった感じです。
自分でファームアップもできる
SW272U/Qからディスプレイ本体のファームウェアも自分でアップデートできるようになっているのも結構ポイントが高いです。BenQが提供しているDisplay Quickitというアプリを使うことで手軽にファームアップできるとのこと。まだ未体験ですが今後やってみたいと思います。
初期のロットで購入した場合もきちんと最新のファームで運用出来るというのは精神衛生上も大変良いことです。
まとめ
主な機能を紹介してきましたが、かなりの分量になってしまいました。今回のアップデートは今までBenQのカラーマネジメントディスプレイを使ってきて、「ここが改善されたら良いなぁ」と思っていた部分がかなり改善されておりとても有意義なアップデートだと感じています。
そして、新しいPalette Master Ultimateにも大いに期待したいところ。ここの詳しい使い方はもう少し使い込んでからキャリブレーションに特化したコンテンツを1つ作りたいと思っています。
従来の機能に加え、新たな試みがいくつも見られる進化がなされていたのもポイントですね。めちゃ細かい部分ですが、サポートページからはモニター寸法の詳細が記されたPDFを見ることもできます。
こういう細かな製品寸法って、仕様ページに書かれていないことも多く、いざ買おう!となった時に自分のデスクに合うんだろうか?って思ったりするじゃないですか。安くない製品ですし、こういう細かな情報を公式で公開してくれているというのがありがてぇって思ったり。これも私の知る限りSW272U/Qからの試みだと思います。
どっちがおすすめ?
私は現在メインにSW321C(32インチ、4K)、サブ1にSW270C(27インチ、WQHD)、サブ2にSW271(27インチ、4K)と3枚のディスプレイを使って仕事をしています。その経験を踏まえると、
・予算があるなら4Kに行っておけ
というのが正直なところです。普段WQHDだけで作業しているとその必要性はなかなか感じないかも知れませんが、1度4Kを使ってしまうと快適すぎて戻れないという魔力が高解像度ディスプレイにはあります。
特に今回のSW272Uに関しては、途中でも言いましたが従来よりも色域が大きく改善されており、かなり頑張ったなぁという印象です。価格に見合った価値は十分にあると思います。
4Kだと画面に情報があふれがちな映像編集でもかなり快適な作業をすることができるはずです。
ただ、4KとWQHDでは画面サイズが同じなのに価格差が10万円近くあるのも事実。画素数の違いにここまでのお金を出せるのかというのが焦点になりますね。ということで、
・SW272Qでも実際の所十分
と言うこともできます。どっちやねん。
一度良いものを使ってしまうと、元には戻りにくいというのは人間の性であります。SW272Uが至高というのは間違いないのですが、SW272Qが良くないかといえばそうでもありません。だって画素数以外のスペックはほぼSW272Uと同等なんですから。しかも10万円近く安い。
4Kと比べてしまうから良くないわけで、ある日突然、世の中から4Kモニターが消えてしまったら私はWQHDモニターで満足できる自信はかなりあります(笑)
特に写真の編集でPhotoshopやLightroomを使うのであればそれほど画面がごちゃつくわけでもないですし。さほど困らないでしょう。
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久しぶりの新製品だけあって、どちらのモデルもかなり完成度が高く仕上がっていると思います。これから本格的に写真、映像編集をやりたくてカラーマネジメントディスプレイを物色している人も、そろそろ新しいやつを買い換え、買い増ししたい人もぜひ検討してみてはいかがでしょうか?
BenQ AQCOLORシリーズ 27型 フォトグラファー向けモニター SW272U(4K/IPS/HDR10/AdobeRGB 99%/DCI-P3 99%/...
ベンキュージャパン BenQ AQCOLORシリーズ 27型 フォトグラファー向けモニター SW272Q(WQHD/IPS/HDR10/Adob...
提供、取材協力:ベンキュージャパン株式会社