解像感と柔らかさを同時に手に出来るブラックミストフィルター
最近は安価な入門レンズでも純正や有名メーカーのものなら開放からしっかり描写してくれるものが多く、少し絞ればどれもカリッとしたコントラストの高い描写となりますよね。カメラも2,000~3,000万画素のものが当たり前になっているので新しい目のレンズなら簡単に高コントラストな写真が撮れてしまいます。
でも被写体やその日の気分などシーンによってはもう少し柔らかな落ち着いた描写で撮りたい!と思うこともあるでしょう。高コントラストのレンズでは思ったように落ち着いた描写にはなってくれないんですね。そんなときは描写の柔らかなオールドレンズを選択するという手段もありますが、オールドレンズはそれぞれ個性があって選ぶのも大変。果てしない沼が広がっています。
そこで現代のレンズでも柔らかな描写に変えてくれるナイスなアイテムがあるんですね。それがブラックミストフィルターです。私の観測範囲だとここ2年くらい、ポートレートを撮る人の間で特に流行っているフィルターで「ブラックミストフィルターやばい」というワードを良く聞くようになりました。柔らかい印象になるので肌との相性もいいんですよね。
個人的には食わず嫌いで手を出してこなかったブラックミストフィルターですが、今回、角形フィルターなど高品質なフィルターを出しているNiSiさんとご縁がありブラックミストフィルターを試す機会がありましたのでレビューしててみたいと思います。
これからブラックミストフィルターデビューをしようかなと思っている人向けに、私が感じたブラックミストフィルターの特性や使いどころ、活用方法などについて紹介してみようと思います。結論から言えば、これしばらく常用フィルターにしてもいいかも・・・と思うくらいクセになるフィルターです。そりゃ流行るわけだわ。
*本記事はNiSiさん提供のタイアップ記事です
NiSiのブラックミストフィルターとは
今回の記事はブラックミストフィルター初心者向けの記事なので「ブラックミストフィルターとは何?」という所からやっていきましょう。
ソフトフィルターとは違う描写
描写を柔らかくするフィルターといえば「ソフトフィルター」を思い浮かべる人も多いと思います。ソフトフィルターはフィルター表面にマットな加工を施して光を散乱させて被写体に光が滲んだような効果を付与しているようです(ソフト効果を掛けるにはいろいろな方法があるけれど)。
ブラックミストフィルターも光を散乱させて滲んだような効果を出すという点では同じ仲間だと思いますが、こちらはフィルターに特殊な拡散材を配合することで光を上手くコントロールする手法をとっています。
ソフトフィルターはフィルム写真時代から良く用いられてきたフィルターですが、個人的には「写真がボケすぎて使いにくい」というイメージがあってかなり使いにくいイメージがありました。いかにもソフトフィルター使ったでしょ!という感じに仕上がってしまうんですよね。
一方でブラックミストフィルターは被写体の輪郭に芯が残りつつかなり自然な滲み方をします。詳しい原理は分かりませんがフィルター内部に仕込まれている分散剤がマイルドな光の拡散を良い感じにやってくれているのでしょう。映画撮影なんかでは結構昔から使われていたものらしく、ブラックミストフィルターで撮った写真はなんだかシネマっぽいと感じる人も多いと思います。
上の写真は左側がNiSi ブラックミストあり。右がなし。カメラ、現像設定は同じですが結構違いが出ます。劇的に変わると言うよりは”なんか雰囲気が良くなったんじゃない?”という効果です。後述しますが逆行気味のシーンでつかうと簡単に柔らかい雰囲気を出せるんですよね。
NiSiのブラックミストフィルターは3種類
最近人気だけあっていくつかのフィルターメーカーから販売されるようになりましたが、NiSiがラインナップするブラックミストフィルターは濃度別(滲みが多くなる順に)に1/2, 1/4, 1/8の3種類。NiSiは元々シネマ用に「Allure Mist Black 」という角形フィルターを販売していましたが、それを写真でも使いやすいよう円形フィルターに再開発したものです。
ガチのシネマ撮影に使われてきたガラスが使われているので品質も高いのではないかと思われます。
フィルター枠が薄いのに剛性感がある手触り
細かな描写は後述するとして、今回NiSiのブラックミストフィルター手にして最初に感じたのは枠が薄くてしっかりしていること。
この手の特殊フィルターは枠が太めなことが多いのですが、NiSiのフィルター枠の厚みは手元のノギスで実測したところ3.5mm。同じく手元にあった薄枠と謳われている保護フィルター(ハクバ XC-PRO 82mm)が同条件で測定して3.7mmでしたのでフィルターとしては最薄の部類に入るのではないかと思います。超広角レンズでも安心して使えますし、付けたときもスッキリしてスタイリッシュです。
ちなみに、一般的なフィルターだと枠厚は4.5mmくらい。手元にあったちょっと古めのソフトフィルターは5.5mmでした。
使われているガラスは結構ずっしりしており、厚めのガラスが使われているのかなと感じます。枠の剛性もしっかりしていて持った瞬間ちゃんと作られているやつだ・・・って分かります。(安いフィルターは持った感じでへナっとした感じしますよね)。
フィルター径は67mm~82mmまで用意されており、お値段は8,000~10,000円くらい。C-PLフィルターと同じくらいかちょっと安いかなというような価格帯です。
シーン別ブラックミストの効果
ここからは実際に撮影した濃度別の作例を見ていきながらNiSi ブラックミストの使いどころ、使い分け方を考えていきましょう。
夜景、イルミネーションの場合
まずは最もブラックミストフィルターの効果が分かりやすい夜景、イルミネーションでの作例から。フィルターなしと濃度が最も高い1/2のビフォーアフターです。左がなし、右が1/2です。
まず分かるのは街灯の明るい部分がぼんやり柔らかく拡散されていますよね。ソフトフィルターにも見られるハイライト部分の拡散ですが、ブラックミストフィルターは拡散の濃さはうすめ。ただ拡散距離は広めといった感じがします。全体の解像感を保ちながら画面全体をふんわり仕上げてくれるような効果です。
それと建物の外壁のコントラストが穏やかになり滑らかなグラデーションとなっている点にも注目。
ソフトフィルターとどう違う?
いろいろなシーンで使ってみたブラックミストフィルターの個人的なイメージというのは光の拡散距離は大きめだけど、輪郭や光源の形はちゃんと残っている便利なやつ!です。ソフトフィルターの場合は輪郭や光源の形ごと光を滲ませるような効果になるので効果の出方はぜんぜん違います。
もう一度最も濃度の大きなBlackMist 1/2の写真を見てみましょう。
左右の街灯がわかりやすいと思いますが、街灯の四角い形がちゃんと残っています。でも、ちゃんと光源は拡散されています。フィルター無しの絵に光源を拡散させたレイヤーを不透明度を下げて重ねたような感じです。Photoshop脳的なイメージですが(笑)
光源以外のコントラストも変わっている
続いて、濃度別にどう変わっていくのかをみてみましょう。街灯の拡散具合だけでなく、左側の矢印(←)で示した白い外壁のグラデーションにも着目してみて下さい。
フィルターなしの場合だとコントラストが強めに出るのでグラデーションのハイライト部分の階調変化が急な感じがします。飛んではいないけどハイライトに近い部分はノペっとした印象です。
一方、NiSi ブラックミストを付けると1/8でもハイライトの階調変化が穏やかになり綺麗なグラデーションが出ています。濃度を上げるほど階調変化は穏やかになる感じ。街灯のような強い光源だけでなく、グラデーションの部分にも大きな変化が出ているのがブラックミストの特徴です。屋根付近のシャドウ(濃い茶色)も濃度が上がると明るくなっていますね。
絞った方が柔らかくなる?
同じシーンで絞り違いも撮ってみたら面白い結果になりました。
開放で撮った方が柔らかい印象になるんじゃない?と思っていましたが、結果は逆で絞った方がハイライトの拡散度合いは強くより柔らかい印象です。一方で背後のビルの解像感はキッチリ出ています。カッチリとふんわりのメリハリが付いた感じ。
これがF2.8の写真(BlackMist 1/8, 30mm)。
続いてこちらが同条件でF8まで絞った写真(BlackMist 1/8, 30mm)。
フィルター無しではこの画角で絞り値を変えても小さなサイズでは違いを感じにくいですが、ブラックミストを付けると結構違いが出ます。特に光源の周辺の拡散具合と空と建物含めた全体のコントラスト。
拡大して見ましょう。
ハッキリした原因は分かりませんが、絞れば光条が出やすくなるのでそれが拡散したからなのか、絞ることで元の絵のコントラストが高くなるので拡散しやすくなったのか。個人的には絞った方のカッチリとふんわりの対比が良い感じですね。
日中晴天(順光)のシーン
ブラックミストフィルターは輝度差が大きければより拡散が分かりやすいですが、それとは逆の日中の順光シーンではどうなるかも試してみました。
結果をさきにまとめると あり/なし の差はちゃんと出る。でも濃度違いの差は小さいという感じです。具体的な写真をみてみましょう。まずはフィルター無しから。
続いて濃度の低い1/8。
ん?違いが分からないですか?画像を重ねてみましょう。
左右にグリグリしてみると結構違いがよく分かると思います。空はあまり変わりませんが、ビルの窓と外壁のコントラストなんかは結構マイルドになっていますよね。明暗差があるところはちゃんとコントラストが抑えられます。
1/4、1/2も続けて並べるとこんな感じ。僅かにコントラストが弱くなっているように見えますが、1/8→1/2の変化は夜景ほど大きくなく、ブログのこのサイズで見ても違いがハッキリ分からない感じです。
輪郭は1/2でもかなり残っていることにも着目。カチッとした被写体に使ってもあまり違和感はありません。
この柔らかさは現代のレンズで出すのは結構難しいですし、Photoshopで後処理するにしても単純にボカシ(ガウス)をかけるような補正では無理だと思います。
日中逆光では?
では輝度差が大きな逆光のシーンではどうでしょうか。これはめちゃ良いです!ブラックミスト王道の使い方です。
最近のレンズは逆光耐性強いのでこういう”フレアが出てくれても良いのよ?”というシーンでも結構コントラストが付いちゃうのですが、ブラックミストフィルターならこの通り。コントラストが適度に落ちたふんわり柔らかいイメージになってくれます。撮影時の設定、現像設定は同じです。
上の写真は画面の外に太陽を持ってきましたが、画面に入れても良い感じです。太陽の中心はここ!というのが分からない感じで良い感じに拡散してくれるんですね。
ブラックミストフィルターを使うと現像もしやすい
撮影してきた写真を現像(レタッチ)するとき、コントラストが高いものを上手に低くするというのは結構大変な作業です。コントラストが高いということはハイライト、シャドウ側がギリギリまで来ているので階調があまり残っていないことがあるんですね。
でも逆に最初からコントラストが低いものを後で高くするというのは簡単です。低コントラストなら白飛びや黒潰れになることも少ないですし、後から階調をコントロールしやすくなるから(程度にもよるけどね)。
撮るだけでオートン効果のベースができている
低コントラストだけを狙うならダイナミックレンジの広いカメラを使い、RAWからコントラストを下げるという力技でコントロールもできるのですが、ブラックミストフィルターの場合は光がイメージセンサーに入る前の段階で拡散されコントラストが落ちている状態なので、より白飛びや黒潰れに強い写真が撮れると言えます。
たとえばこんなシーンとか。曇り空を背景に高架の下から撮った輝度差がかなり厳しいシーン。
このくらい輝度差が大きいと空(雲)の階調が死んでしまうところですが、NiSi ブラックミストフィルター(1/8)を付けて撮っていたのでなんとか生きていました。ここから現像したのがこれ。
ちょっとドラマチックな感じで現像しましたが、雲の表情もしっかり出てくれたし、高架裏の表情もちゃんと見えます。
さらに、ブラックミストフィルターを使うと、輝度差のある輪郭部が解像感を残したまま柔らかくなってくれるのでオートン効果を入れたような雰囲気になります。海外の風景写真とかでよく使われる手法でPhotoshopでやろうと思うと結構面倒なんですよね。
今回は試せてないのですが風景撮影でも結構使えると思います。
夜景は簡単にエモくなる
夜景だと光源の周りがフワッとしてくれるので、様々な色のネオンが存在する街の中で撮っても色を飛ばさすきっちり記録することが出来ます。つまり撮影後の色いじりがしやすいと言うこと。夜景にありがちなカタい感じにならないのも良いですね。
流し撮りしてみました。フィルター付けていないと背景の連続した光源がもっとカチッとしちゃうんですよね。フィルター付けると雰囲気がグッと出しやすくなります。なんでもエモくなっちゃうw
最初の1枚を選ぶなら?
NiSiのブラックミストフィルターは1/2, 1/4, 1/8と3種類あり、キチンと作られているだけあって安くはありません(といってもC-PLフィルターと比べれば同じかちょっと安いくらいだけど)。いきなり全部揃えるのはちょっと大変です。
では最初の1枚を選ぶならどれを選ぶべきか?
人ぞれぞれ撮り方が違うのでこの問いに対する絶対的な答えはないのですが、私が個人的に使ってきて感じたのは「1/8 か1/2」です。最初の1枚は無難に真ん中の1/4としたくなるところですが、途中でも書いたとおり1/4はなんだか中途半端かもと思いました。
1/4はある意味万能的に使えるのですが、ブラックミスト的な世界感を積極的に味わいたいなら、違いがハッキリ出る方を見極めて使う方が楽しめそうです。
常用するか、世界感を作るか
私が考えるおすすめの使い方としては、解像感の残ったカチッとした写真にエモさをプラスしていいとこ取りしたい!と思う人はNiSi ブラックミストの1/8を常用フィルターにしてしまうことです。
1/8なら拡散度合いもマイルドなのでどんなシーンでもマッチしてくれます。撮る写真がぜんぶエモくなって自分が写真上手くなったと錯覚出来ます(笑)
一方、1/2は効果が大きいので狙ってブラックミストの世界感を出していきたい人向け。使えるシーンを把握するのにちょっと時間がかかるかも知れませんが、使いこなせれば独自の世界感を醸し出せると思います。
初めての人は自分がどのタイプかを見極めて最初の1枚を選ぶのが良いかなと思います。ベストなのは最初から1/2と1/8を手に入れて実際に自分で違いを体感することですが。
たぶん片方使ったらもう片方も欲しくなると思います(笑)
まとめ:常用出来る新感覚フィルター
ということでNiSiのブラックミストフィルターのレビューを行ってみました。私自身もブラックミストフィルターをしっかり使うのが初めてだったのですが、かなり使いやすいフィルターだなという印象です。
最初はソフトフィルターのコッテリした光の滲みが頭の中から離れず「使いどころ見つけるの大変そう・・・」と思っていましたが、いざ使ってみると特に1/8はどんなシーンでも使えてしまって便利です。1/4→1/2と濃くしていっても解像感はそれほど低下しないので使いやすい。
いろんな人が「ブラックミスト良いな」と言っている意味が分かった気がします。もっと早く使っておくべきだった・・・
ちなみにポートレートの作例はNiSi公式のスペシャルサイトにいろいろ掲載されていますので、人物に使ってどうなの?と思った方はチェックしてみるといいでしょう。
高画素でカリカリの写真を撮るのも面白いですが、あえてふんわりさせる撮り方というのも面白いと思いますよ!
ちなみに、NiSiではAllure Softという高性能ソフトフィルターもラインナップしています。ソフトフィルターのとろけるような世界感の方が好き!という人はこちらもチェックするといかも。
提供、取材協力:NiSi Filters Japan