ストロボアクセサリー「ブラケット」の効用
スピードライト(俗に言うストロボ)の取り付け位置をカメラの「上」から「横」に変えるアクセサリー「スピードライト用ブラケット」。報道カメラマンの多くがつけているこのアクセサリーの効用について解説します。
1.ブラケットはカッコつけるための道具ではありません
主に報道カメラマンなどが付けているスピードライト用ブラケット。装着するとゴツくなって、一味違う撮影を展開できます。
このブラケットというアクセサリーを付けていると……よく耳にする周囲の声(あるいは心の声)が次の一言。
「カッコつけてんの?」
こんな声を受けることが少なくありません。「あのね、これ付けてるとね、変な影ができにくくてね」と色々説明するけど反応イマイチ。どうも納得してもらえません。そこでさらに聞こえてくる心の声がこれ。
「ストロボなんて明るくなりゃいいでしょ?取り付け位置変えて意味あるの?」
「意味あるんです……!」と主張したいんです。しかし言葉だけで説明してもやっぱり反応イマイチ。そこで今回は、実例をまじえてブラケットの効用について違いを解説していきます。
2. 【写真解説】陰影の付き方が変わるブラケット
ブラケットは、あらゆる環境ですぐに被写体の顔を撮るための道具です。中でも重要なポイントは、レンズの上から光を照射すること。普通にカメラボディの上にストロボを装着したときと、陰影の付き方が異なります。
ということで見てみましょう。
今回の記事内では便宜的に、ブラケットを付けていない下記状態で撮影したものを(A)、
ブラケットを付けた下記状態を(B)とします。(B)はカメラボディにブラケットをつけ、専用のコードでストロボとボディをつなぎました。シャッターを押せば、同時にストロボから光が照射する仕組みです。
同じストロボでも違いが大きい
それでは、(A)と(B)でどれくらい違いが出るのかご覧ください。まず(A)で撮った写真から。フィルムケース(フォーカスしやすいように、マジックでフタを黒塗り)を3個使って撮影しました。「影」の付き方にご注目ください。
(A)の撮影方法で、横位置(そのまま)撮影。後ろは白い背景ですが、影がほとんど出ません。今度は(A)による縦位置(カメラボデイを90度傾け)の撮影です。
レンズの右横からストロボを照射したため、左側にストロボの光の影ができました。少し下から撮影したことが影響してか、下から上に行くほど影が濃くなっています。
それでは次に、ブラケットを装着した(B)で縦撮影します。必ずレンズが下、ストロボが上。下記のような位置で撮ります。ストロボがカメラレンズの上部にあることを忘れないでください。
するとこんな具合になります。
先ほどの(A)で撮影した場合よりも、影がグッと小さく後ろに隠れました。コレです!影が少なくって背景が明るくスッキリします。これがブラケットをつける理由の一つです。
さらに(A)と(B)の撮影方法を、別の写真で比較してみましょう。こちらをご覧ください。
いかがでしょうか。ブラケットを使わない(A)で縦位置撮影(ストロボは左から照射)をすると、鳥の右に大きな影ができて何やら不吉な印象すら与えますね。一方、(B)で撮影した場合は右の影が消えて印象がガラリと変わります。コレ!コレです!私がブラケットを使う一番の理由はコレです。
被写体が人に変わっても状況は同じで、顔に黒い影が出来上がってしまい、不吉な印象を与えてしまいかねないのです。ただ記事内容を反映して、あえて(A)のような影を作っている写真も見かけることがあります(例えば不祥事や不景気を扱った記事など)。
「影」ではなく「陰」にも違いが出る
「影」ともう一つ注目したいのが、「陰」の付き方です。「影」ほどではありませんが、「陰」にも違いが出ます。
写真撮影では、「影(英:Shadow)」と「陰(英:Shade)」はとくに区別して考えます。「影」は、照射した光が物体に隠れて背後にできる、被写体外の暗い部分。「陰(Shade)」は、照射した光で物体にできた明るい部分と反対の暗い部分、つまり被写体内の暗部です。写真解説本などでもよく目にする言葉なので、違いを把握しておきましょう。
ということで「陰」の話に戻ります。
白い画用紙を2枚折りにして立てたものを、画用紙の左45度の位置から(A)(B)の2パターンで撮影しました。
明暗の差にご注目ください。(A)による撮影写真は、ストロボから遠い面に「陰」ができました。(B)も陰ができましたが、よく見ると(A)より明暗差がうっすら少ないです。これは、(B)は常にレンズ上にあるのに対し、(A)のストロボの位置がレンズ横であるため、被写体に凹凸があると照射光を遮られやすいからです。その分、被写体の凹凸にジャマされにくい(B)のほうが、全体にまんべんなく光を照射できるのです。
だから(A)の方法で(ホットシューにストロボを装着して)縦位置撮影を行なうと、(B)の撮影方法より陰が生まれやすいのです。客席からステージ上の人物を撮ろうとでもすれば、肝試しライトの効果(暗闇でアゴ下から顔を照らすアレ)も出て不吉感が増します。
そんな(A)の撮影方法をメッチャクチャ強調するとこうなります。
白枠内の顔写真を撮ろうとして、(A)の方法で下から上にフラッシュを当てて撮影すると、顔の明暗の差が大きくなって、なおかつ暗部の横に黒い影ができる可能性が高まるということです。こんなに強調されることは滅多にありませんが、例えば映画館の舞台挨拶などで全体の照明がうす暗く(そしてスポット照明の光が強い)、かつ被写体との距離が近いとき、カメラのストロボに頼れば頼るほどこうした明暗の差が大きい写真が生まれる可能性が高まります。
ブラケットは、そうした被写体の情報優先の報道写真(被写体の明るさが一定の写真)には向かないものが出来上がる可能性を回避するための道具、と言えるかもしれません。
3. 横位置撮影でもOKの妙
ここまで話を聞くと、次のような疑問が出てくるかもしれません。
「じゃあブラケットを付けて横位置で撮影したら、ストロボがカメラボディの横にきますよね。影が横に大きく現れませんか?」
おっしゃるとおりです。ストロボがレンズから斜め上45度の位置に近く、撮影すると真横に大きな影が現れます。
(B)の状態で横位置撮影。(A)の横位置撮影に比べて、左横に大きな影が現れます。
横に並ぶと影が消える!?
ですがここで一つ新しい考えを加え、複数の被写体の撮影シーンを考えてみましょう。下記画像をご覧ください。フィルムケース1本を1人に見立て、3本並べて横位置で撮影しました。
すると……影が後ろに隠れちゃうんです。さらにフィルム同士を近づけると……
あら不思議。間の影が消えました。さらにズームアップすれば、左横の影も目立たなくできます。
ここには報道写真の事情も重なります。縦位置はバストアップや全身含め、一人を撮ることが多いのに比べ、横位置写真は複数の人をまとめて撮る機会が多く、密着すればするほど上記例のように影を消しやすいのです。
ちなみに、こうしたブラケットの取り付け位置にまつわる懸念点は、ストロボ位置を変えたカメラを2台以上持っていれば(例えばストロボの取り付け位置がA・Bのカメラをそれぞれ用意)解決する話です。
4. ブラケットは様々
今回は、レンズの斜め上45度の位置から撮れるブラケットで解説してきました。
しかし、ブラケットはこれだけでありません。探せば各メーカーから色んな種類のものが展開されています。また、調整次第で取り付け位置も多様です。「どれがいいんだろう?」と迷ってしまうかもしれません。
ブラケットを吟味する際は、影の付き方と使いやすさ(持ちやすさ)を意識すると良いでしょう。ブラケットはお試し撮影ができない場合も多々あるので、商品の取り付け例などを参考に、ストロボが撮影時になるべくレンズ上にくるものを選びましょう。
たとえば、UNの「プロフェッショナルブラケットDシステム For Nikon/Canon(TTLコード付き) 」のようにストロボ取り付け位置がカメラよりも少し低い位置に付いており、発光面がレンズ真横に近いものも売られています。これなら縦位置撮影の際にほぼレンズ真上から光を照射できる理想的なポジション。
また、ちょっと変わったブラケットだと、ETSUMIの「レンズ三脚座専用ストロボアジャスター2」というアイディア商品もあります。三脚座(よく望遠系の重いレンズに付属のリング。一脚や三脚に固定し、リングを緩めるとボディが回転し、撮影位置をすぐ切り換えられる)に取り付ければ、回すだけで常にレンズ上にストロボを持ってくることができる可変型のブラケット。縦位置でも横位置でも影のない写真を撮りやすくなります。
「ありすぎて選べない!」「ストロボが対応するのか不安」という場合は、カメラボディ(およびストロボ)のメーカーが展開する純正アクセサリーがオススメです。ただし購入の際は、対応機種だけしっかり確認しておきましょう。
5. ブラケットがいらない時
以上、スピードライト用ブラケットの効用などについて解説してきました。普段の撮影でストロボの陰影が気になっていた方は、ぜひ試してみてください。きっと今までと異なる光の感触を楽しめると思います。
ただしここで一つ注意。今回紹介したブラケットはたしかに便利ですが、あくまで「自分で照明をセッティングできないシチュエーション」で撮るために必要な道具です。言いかえれば「即席で、少しでも光を全体照射するため」のものであり、様々な環境で撮る報道カメラマンにとって重宝するアイテムとなってくるのです。
被写体全体に光を照射しやすいメリットは、ストロボの光量が高ければ、明暗の少ないノッペリとした画ができやすいというデメリットにつながる可能性があります。そうならないために、適正露出を探っていく必要があるでしょう。
ではこうした現場以外ではどうなのか。もし色んな照明機材を使えたり被写体の立ち位置を指示できるなら、要するにライティング環境を調整できるなら、ブラケットを使う必要はないと思います。
メインライトは斜め45度から照射して、サブライトは後ろやメインライトの逆側から……とセッティングして撮影したほうが、真正面から光を当てるだけのストロボ撮影よりも、適切な露出・陰影の写真が撮れるでしょう。
ブラケット使用の際はまず、
1. ライティング環境をコントロールできない。しかし光量を増やしたい。
2. 縦位置撮影が多い。
の2条件に気を配って判断してみましょう。
適切な条件下で使うブラケットは、非常にカメラマンの助けになります。色んな場所で使ってより良い写真を撮ってみてください。