フルサイズよりAPS-Cはボケにくい!?
なんだか勝手に言葉が一人歩きしている印象のこれらの言葉。。
「APS-Cはフルサイズよりボケにくい」
「フルサイズはAPS-Cよりボケやすい」
実はこれだけでは正しいかどうか判断出来ません。ウソでもあるし、ホントでもある。カメラの原理から考えれば嘘だし、実用的な話をすれば本当でもあるんです。
ちゃんと理解している人から見れば、こんな話とっくに知ってるわ!となりそうですが、この言葉の本質をちゃんと理解出来てる人ってそんなに多くないと思うんです。
みなさん、ちゃんと説明出来ますか?
今日はそんな身近な疑問について、すごい基本からスッキリまとめてみようと思います。また、これを読めばどうしてAPS-Cは1.5倍望遠になるの?という話もスッキリするはず。ただし、今回のお話はちょっと長いです。。手っ取り早く結論を知りたい方は後半まで飛ばして下さい^^;
途中、なんだか脱線しているような話になっていますが、ちゃんとすべては最後にまとまりますのでご安心を。
レンズは丸いのに、なぜ写真は四角いのか?
そこからかよっ!?ってツッコまれそうですが、ここから説明していきましょう。
*手っ取り早く理由を知りたい人は後半まで飛ばして下さい^^;
「レンズは丸いのに、なぜ写真は四角いのか?」
みなさん、これ疑問に思った事無いですか?そんな事考えた事も無かったと言う人もいるかも知れませんが、とっても不思議な事ですよね。光を取り入れるレンズは丸いのに、どうして写真は四角いのか。。
フルサイズとAPS-Cの話に全然関係なさそうですが関係あるんですよ、これが。
写真が四角いのは人間の都合
カメラの原理的な話をすれば、写真は丸くすることができます。だって、レンズが丸いのだからレンズによって集められる外の世界は丸い世界としてカメラの中に入ってきますよね。
*レンズを通すと上下左右逆の世界としてカメラに入ってきます。
光が丸く集まるというのは普段はなかなか意識できませんが、全円周魚眼レンズという特殊なレンズを使うと実感出来ます。全円周魚眼で写真を撮るとこんな感じ。丸い世界が写って、他の部分は真っ黒です。
写真は切り取られた世界
写真が四角いのはカメラの中に入ってきた丸い世界を四角く切り取った(トリミングした)結果なのです。
カメラの中で光を記録する部分はイメージセンサー(昔のフィルムに相当する部品)と言いますが、これが四角いので写真は四角なのです。
実際のイメージセンサーはこんな感じ。写真の紫っぽい部品がイメージセンサーです。
レンズを通した外の世界は丸い世界としてカメラの中に入ってくるのですが、センサーが四角なので、その形に切り取られてしまうんですね。切り取られた部分は捨てられてしまいます。
昔なら丸いフィルムを交換しながら使うのは大変だし、今だって丸いイメージセンサーを作るにはコストがかかる。他の部品も大きくしなきゃいけないし、イロイロ大変なんです。すべては人間の都合な訳ですね。
イメージサークルが大事
ちなみに、レンズを通してカメラの中に入ってきた丸い世界のことを専門用語で「イメージサークル」と言います。これ大事。この後たくさん出てきます。
写真が四角いのは”イメージサークルをセンサーの形に切り取った(記録した)から”ということを覚えておきましょう。
フルサイズとAPS-Cの決定的な違いとは?
だんだん本質に近づいていきましょう。
ではフルサイズセンサーとAPS-Cセンサーの決定的な違いは何か?それはイメージセンサーの大きさです。
フルサイズのカメラに搭載されているイメージセンサーは昔の35mmフィルムとほぼ同サイズの36mm×24mmのものです。一方、APS-Cのカメラに搭載されているのは昔のAPSカメラ用のフィルムとほぼ同じサイズの約23mm×15mmのセンサーです。フルサイズより大幅に小さいですよね。数字は別に覚える必要はありません^^;
この話は一眼レフを持っている人ならかなり多くの人が知っているはず。
もちろん、他にも高感度に強いとか、なんだか画質が良いとかいろいろ違いはありますが、これら殆どの理由はセンサーの大きさが違うからという話で説明が付きます(今回は割愛)
おまけ:フォーサーズはさらに小さい
ちょっと脱線しますが、オリンパス、パナソニックのカメラはさらに小さな(マイクロ)フォーサーズ規格(17.3mm×13mm)のイメージセンサーを採用しています。また、センサーの縦横比もフルサイズ、APS-Cは2:3ですが、フォーサーズは3:4とちょっと違います。
ちなみに、フォーサーズの由来は縦横比3:4ではなくて、センサーサイズが4/3インチ(型)だからということらしいです。
センサーサイズ = トリミングする大きさ
ということで、センサーサイズというのはレンズを通してカメラに入ってきたイメージサークル(丸い世界)をそのサイズで切り取りますよということ。
同じ大きさのイメージサークルでもフルサイズセンサーで切り取ればギリギリ一杯まで切り取れるし、APS-Cセンサーで切り取れば中央部分しか切り取れないということです。
フルサイズとAPS-Cでセンサーのサイズは違うという話はたいていの人が知っているのですが、どういうわけかそのサイズでイメージサークルを切り取っているという所まで意識している人はワリと少ないんです。
イメージサークルの大きさも2種類
今までの話で、写真はイメージサークルをセンサーのサイズに切り取っているという話をしてきましたが、ちゃんと四角く切り取るためには少なくともフルサイズセンサーがすっぽり覆えるサイズのイメージサークルを作り出さなければいけません。
ただし、大きなイメージサークルを作ると言う事は、大きなレンズで光を集めるということなので、レンズが大きく、重く、高価になります。いわゆるフルサイズ対応レンズというやつです。
フルサイズをすっぽり覆えるようなイメージサークルなら、当然そのレンズはAPS-Cセンサーにも使えますよね。大は小を兼ねます。
*実際のイメージサークルはこんなにギリギリのサイズではなく、境界もあいまいです。
一方、最初からフルサイズは諦めて、APS-Cセンサーのサイズだけすっぽり覆えるだけの小さなイメージサークルに割り切って設計したのがいわゆる、APS-C専用レンズです。(キヤノンのEF-SレンズやEF Mレンズ、ニコンDXフォーマットレンズなど)
イメージサークルを小さくして良いのだから、レンズは小さく、軽く、そして安く製造出来ます。または、フルサイズと同じサイズや重さでもより明るいレンズにすることができます。ただし、フルサイズではイメージサークルの大きさが足りないため使えません。。
ニコンやソニーなどのカメラにはフルサイズのカメラにAPS-C専用レンズを付けても、そのイメージサークルの大きさ分しか画像を記録しない”クロップモード”という機能を搭載したものもあります。
そのレンズが作るイメージサークルの大きさがが、「フルサイズ用」か「APS-C用」かでそのレンズの大きさや重さ、値段は大幅に変わってくるんですね。さらにセンサーの小さなフォーサーズのレンズが小さくて軽く、安価なのはそのためです。
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写真が切り取る世界というのは、イメージセンサーの大きさとイメージサークルの大きさの2つが関係しているというわけですね。
センサーサイズと画角の話
さて、写真はレンズによってできたイメージサークルをセンサーのサイズで切り取っているという所まで理解出来ました。では、フルサイズ用のイメージサークルをAPS-Cセンサーで切り取ったら写真はどのように見えるのか?という話をしましょう。
さっきから、トリミングという言葉がたくさん出てきましたが、上記の話を理解できていればココの話もすんなり入ってくるはず。APS-Cで撮った写真というのはフルサイズの写真をAPS-Cサイズにトリミングしたのと実質的には同じ事なんですね。もう一度上と同じ写真を見てみましょう。
マイクロフォーサーズの場合は(マウントが違うので全く同じ比較はできませんが)、APS-Cのカメラで撮った写真の中央をトリミングしたものと考えてもOKです。
APS-Cが1.5倍望遠になる理由
フルサイズの写真の中央をトリミングすればAPS-Cの写真は狭く写るので被写体が大きく見えます。あたかもフルサイズの望遠で撮ったのと同じように見えるのです。
これがいわゆるAPS-Cの「焦点距離1.5倍効果」です。
フルサイズの50mmで撮った写真は、同じレンズでAPS-Cで撮ると写真(イメージサークル)の中央がトリミングされたことになるので、約1.5倍の(フルサイズの)75mm相当の写真と同じように見えるんですね。
ポイントはどちらもレンズの焦点距離は50mmだということ。同じレンズでAPS-Cのカメラで撮っても焦点距離が1.5倍になるわけでは決してありません。
あくまで、”フルサイズ基準で1.5倍の焦点距離のレンズで撮ったときと同じ範囲が写るよね”と言っているだけです。
焦点距離と画角は違う
この写真が写る範囲の事を「画角」といいます。
レンズの焦点距離はそのレンズに固有のものなので、どんなカメラで使っても同じレンズなら焦点距離は変わりません。もちろんイメージサークルの大きさも変わりません。
ただし、写る範囲(画角)はセンサーのサイズによって中央がトリミング(クロップ)されることがあるのでカメラによって変わります。
焦点距離が同じならAPS-Cのカメラの方が約1.5倍ほど望遠効果が得られるというのは、ただ単にフルサイズのカメラで撮った写真を中央でトリミングしたに過ぎないわけです(画素数とか違ってくるけど)。なんだか、ボケの話をしていたのに画角の話になってしまいましたが、いいんです。脱線はしていません。すべては繋がっているんです。
画角を一定で考えてみる
ということは、フルサイズと写る範囲(画角)を一定にしたいと思うなら、APS-Cのレンズの焦点距離は1/1.5(=0.67倍)にすれば良いですよね。
フルサイズの50mmで撮った写真と同じ範囲を写したいなら。APS-Cのカメラでは50÷1.5=約35mmで撮れば良いわけです。
よくフルサイズ換算○○mmとか、35mm判換算△△mmなんて言ったりしますがこれはフルサイズで撮ったときと同じ範囲(画角)で撮るならば。。という話です。
35mm換算△△mmについてはこちらのエントリーもどうぞ
ちなみに、マイクロフォーサーズはさらにセンサーサイズが小さいので、フルサイズ基準で考えるならより中央をトリミングしたことになり、焦点距離の2倍がフルサイズと同じ画角になります。
マイクロフォーサーズのレンズは17mmのレンズが標準レンズとして売られていますがこれはフルサイズの35mm(17×2)と同じ範囲を写す事ができるからですね。
iPhoneの焦点距離はめちゃ小さい
もっと小さなスマホのカメラだと例えば、iPhone12の標準カメラの焦点距離は4.1mm。めちゃ広角じゃん!って思うかもしれませんが、センサーサイズもとても小さいため、写る範囲はフルサイズ換算で焦点距離約26mm相当の画角です。さらにiPhone12 Pro Maxの標準カメラの焦点距離は5.1mmだそうですが、写る範囲はiPhone12と同じフルサイズ換算で焦点距離約26mm相当の画角です。
両者の画角が同じなのに焦点距離がなぜ違うか。。ここまでの内容を理解している人ならすぐ分かるはずです。iPhone12 Pro MaxとiPhone12の標準カメラはセンサーのサイズが違うのです(Pro Maxの方が大きい)。
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これですべての材料は調いました。あとは今までの内容をすべて一本の線にするだけです。
*焦点距離って何なの?っていうツッコミは今回はスルーします。とりあえず、レンズに固有の値で、大きくなればなるほど写る範囲(画角)が狭まる(=望遠になる)とだけ覚えておけばOK。
「フルサイズはAPS-Cよりボケやすい」がウソである理由
では、「フルサイズはAPS-Cよりボケやすい」というのがウソである理由を説明しましょう。
APS-Cの写真は実質的にはフルサイズの写真(イメージサークル)の中央部をトリミングした写真に過ぎません。だから、同じレンズ(焦点距離)を使うならフルサイズもAPS-Cも被写体のボケ具合は全く変わりません。ただし、写る範囲(画角)は異なります。
フルサイズがボケやすいなんて真っ赤なウソです。
むしろ、同じサイズで並べればAPS-Cの写真の方が中央をトリミングしている分、被写体のボケは大きく感じるくらいです。
ほんとにウソなのか撮影して比べてみよう
実際に写真を見てみましょう。同じレンズ(EF 50mm F1.8 II)を使い、同じ被写体を同じ設定で撮りました。
フルサイズ(EOS 5D MarkIII)で撮るとこんな感じ(50mm, F2.8)。
同じ場所からAPS-C(EOS 7D MarkII)で撮るとこんな感じ(50mm, F2.8)↓。レンズ、設定は同じです。
ボケに着目してみると。。
APS-Cの望遠効果により、APS-Cで撮った方がアップで写ってます。でも、ボケに着目するとどうでしょう。フルサイズの方がボケて見えますか?同じなはずです。
上のフルサイズで撮った写真をAPS-Cと同じサイズに撮影後にトリミングしたのがこちら。
まったく同じボケ具合ですよね!「フルサイズ+50mmをAPS-C機と同じ範囲にトリミングしたもの」と最初から「APS-C+50mm」で撮ったものはまったく同じ結果になるのです。そりゃそうだよね。
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フルサイズがボケやすいとか言ったやつ誰だよ、出てこい!ウソじゃねーか!
「フルサイズはAPS-Cよりボケやすい」がホントである理由
次に、「フルサイズはAPS-Cよりボケやすい」がホントであることを説明してみましょう。その前に、写真のボケ具合が決まる4つの要素を紹介しておきます。
写真のボケ具合は「1.F値、2.レンズの焦点距離、3.カメラと被写体の距離、4.被写体とボケるものとの距離」ですべて決まります。これも大事。
フルサイズと同じ範囲(画角)の写真を撮りたいなら、APS-Cのカメラではレンズの焦点距離は1/1.5(0.67倍)になります(短くなる)。だから、(F値も同じで)同じ画角で写真を撮るなら、フルサイズの方が1.5倍焦点距離が大きくなるので断然ボケやすいです(ボケの4要素の「2.レンズの焦点距離」)。
ホントなのか実際に撮影して比べてみよう
実際の写真を見てみましょう。今度は写る範囲(画角)が同じになるようにフルサイズとAPS-Cで焦点距離を変えて撮り分けてみました。被写体までの距離や設定(F値など)は同じです。
こちらフルサイズの50mmでの写真。焦点距離を変えて撮るのでズームレンズ(Tamron A007)にしました。(50mm, F2.8)
次はAPS-C。フルサイズと同じ範囲が写るように同じ場所から焦点距離を変えて撮影しました。
キヤノンの場合はAPS-Cセンサーサイズがやや小さいく同じ画角にするには1/1.6(0.62倍)となるため31mmで撮影↓。
どうでしょう、ボケ具合に違いが出ているのが分かりますか?拡大してみましょう。左がフルサイズ(50mm, F2.8), 右がAPS-C (31mm, F2.8)です。
フルサイズの方が良くボケてますよね。背景の玉ボケの大きさや敷物の文字のボケ具合に着目してみて下さい。なぜならフルサイズの方が焦点距離が大きいから。
離れて撮影しても結果は同じ
また、同じ焦点距離で撮影したとしてももフルサイズと画角を同じにするために、APS-Cのカメラで被写体から離れて撮影したらどうでしょう。
焦点距離やF値は同じでも今度は被写体との距離が離れる(ボケの4要素の「3.カメラと被写体の距離」)のでやっぱりAPS-Cよりフルサイズの方がボケやすいです。
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やっぱフルサイズは良くボケるよねー。買うならフルサイズだわ!
ちなみにこのへんのボケを作る4要素の話はYouTubeでも解説しています。ちょっと難しいかも。。と思った方は動画の方がわかりやすいかも知れません。
まとめ:画角で考えるクセを付けると良いかも
ちょっと分かりにくい話だったかも知れませんがおわかり頂けたでしょうか?
そもそもナンセンスな議論
この長ーいお話を最後まで読んで頂いた方なら、「フルサイズはAPS-Cよりボケやすい」という言葉だけで議論をするのはナンセンスな事であるとおわかり頂けたかと思います。
焦点距離(レンズ)が一定の条件ならウソだし、写る範囲(画角)が一定の条件ならホントです。前提の条件が無ければハッキリしないのです。
一般的に「フルサイズがボケやすい」とされているのは、写真を撮る場合は写る範囲(画角)を基準にしたほうがわかりやすいからです。フルサイズがボケやすいというのはその前に暗黙の了解として”画角が一定なら”という言葉が隠れていることを知っておかねばなりませんね。
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ただ、どういうわけか写真の世界では(私も含めて)撮影に使ったレンズは画角で○○°とは言わずに焦点距離で△△mmって言うんですよね。世間一般では画角基準で議論されることが多いのに。
これほどカメラによってセンサーのサイズが違うの世の中なのだから、焦点距離ではなくて画角で議論をした方が分かりやすいのに。。と個人的には思います。ここが初心者を苦しめているポイントの1つで、たぶんF値の次の壁になる所ではないでしょうか。
フルサイズとAPS-Cの原理的な違いをよく知っておく
今回ご説明した「イメージサークル」と「焦点距離と画角の関係」をしっかり理解する事が出来れば、ボケ具合だけでなくカメラの機能的な疑問の多くが解決するはずです。
「フルサイズはボケやすいよね!やっぱフルサイズ最高!」ってドヤ顔するのは結構恥ずかしいので止めておきましょう(笑)
「(本当はちゃんと理由も説明出来るけど)普通はフルサイズのほうがボケやすいよね」と控えめに言うのが分かってる人の言い方です。
また、ボケはフルサイズが最強なのか?というと別にそうでは無く、フルサイズよりセンサーサイズが大きい中判などのカメラで比較すれば、フルサイズは中判カメラで撮った写真の中央をトリミングした写真に過ぎません。
「フルサイズ」とか「APS-C」という言葉だけに躍らされるのではなく、その特徴や原理をある程度理解して自分に合った機材を選べるようになるのが大事ですね!
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